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恋の弊害

作者: 桜 潮風
掲載日:2026/06/01

夜の8時過ぎの海は、暗くて、波の音だけが静かに響いている。都会から車で1時間くらいする海に、美加みかは憂さ晴らしのようにやってきた。波音が虚しく心に突き刺してくる。むしゃくしゃしている気分が落ち着かせることできない。涙も一滴も出ることはなかった。

 1週間前、「もう、別れたい。」と健二に別れを告げられた。健二を問い詰めたとしても、もう関係性が修復できないのだろう。素直に別れを受け入れてしまうのも美加の悪い癖だった。

 どうしても納得できないし。悔しさと虚しさが混合していく。

 電話がなり出ると、親友の亜沙美あさみからだった。

『健二と別れたんだって?まあ、あんたが重いからでしょうけど」

「どこが重いの?」

『何も気づけない。そういうところじゃないの』

 亜沙美は具体的には教えてくれなかった。ため息をついて、亜沙美から電話が切った。


 どこが重いのだろう。食事も健二のために栄養が偏らないように、ビタミンやミネラルを豊富にした。タンパク質が不足しないように、魚やお肉にもこだわった。洗濯物も掃除も毎日して、健二が快適に過ごせるように努力した。健二が友達と出かけることも許した。それのどこが重いのだろう。この気持ちをどうやったら、解消できるのだろう。今まで恋愛でも、いつも、突然、別れを告げられる。なぜ別れたいなど、理由もはっきり言ってもらえず、「別れたい」の一言で、関係性が終わってしまう。


 車内で突然涙が溢れるように出てきた。スマホが鳴って、メッセージが届いてと画面に表示され、『近くに来てるなら、お店においで』と、お母さんの妹である叔母の成海からだった。

 そういえば、この海の近くに成海さんが経営する小料理屋『カノン』があった。美加は誰かと話したい気持ちもあったので、エンジンをかけて、店へと向かった。


 静かな店構えの『カノン』の扉を行くと、暖簾が出ていないかった。店のドアが開いて、「いらっしゃい。入って」と割烹着姿の成海が笑顔で迎えれた。8人くらいが座れるカウンター席のみの店内に、奥に男性1人が座っていた。暖簾が片づているので、店を閉めたのだと思っていたので、客がいることに驚いた。

「どこでもいいから、座って」

「うん」といって、男性の近くはちょっと気が引けたので、カウンター席の中央らへんに座った。

 いつも賑わっている店だったが、今日は静かな店内で、これもこれで心地がいい。

「ビールでいい?」

「車で来たからお酒は飲めない」

「じゃあ、ウーロン茶にする?」

「うん。お願い」

 店を閉めたはずなのに、男性がいることに美加は不思議でソワソワしてしまっていた。

「どうぞ」

 成海がウーロン茶を置いた。

「そういえば、なんで、私が海にいると思ったの?」

「えっ、男と別れたって亜沙美ちゃんから聞いて、別れて1週間したから、海にいるのかなと思って、適当に連絡してみた」

「なんで?」

「美加って、いつも男と別れて、1週間したら、海に行く傾向があったから」

「そうかな」

 成海さんは笑って、スーツを着た男性に、料理を出している。

「ああ、美加。こちら、黒木くん。で、この子は姪の美加ね」と紹介されて、美加と黒木は2席離れた距離で、お互いに会釈であいさつした。

「黒木くん、美加はどう?」

「どうしたの?成海さん」

 美加が慌てて、2人を交互に見る。成海は平然としているし、黒木も驚いてはいなかった。

「重そうですね」

 なんで、見ず知らずの男にこんなことを言われないといけないんだ。

「そうですかね」怒りを押し殺すように、低い声で言った。

「黒木くんは美加と同じ25歳で、エンジニアの仕事をしているの」

 成海は話をそらすように、言っているが、不穏な空気が流れた。

「仕事も恋愛も充実していますってかんじですね」

「そうですかね。まあ、どちらも大切にはしていますが」

 人のことを何も知らないくせに、怒りを買うことを平然と言ってくる男に、美加はイライラしてくる。

「いつも、成海さんから聞いているので、ちょっと気になって」畳みかけるように、黒木は美加に言葉を放っていく。

 美加はムカつて、ウーロン茶をがぶ飲みして「ごめん、成海ちゃん帰るわ」というと、「そういうところですよね。自分は今不機嫌ですとあからさまに態度で出して、ご機嫌取りをさせようとするとことが、面倒くさいですよね」

「あなたって、何なんですか」

 今日、初めて会った人間に言われる筋合いはない。

「黒木くん、言い過ぎ。」

「こういう勘違い女を見ていると腹がたってくるんで」

「飲みすぎだよ。黒木くん、それ食べたら、もう帰ってくれない」

「えっ、何でですか?その女が悪いでしょう」

「かわいい姪に、そんなこと言い方されたくないのよ。早く帰ってくれない」

「でも、いつも、恋愛が下手だって、成海さんも言ってるんじゃないですか」

「ほんと、ごめん帰って。」

黒木は料理を思いっきり口に含んで食べて、不満げ支払いを済ませて、美加を軽く睨んで帰っていった。


「ごめんね。美加。あんな言い方するとは思っていなくて」

「別に、いいけど…」

「黒木くんが、理屈っぽい人だと思わなかったわ。いつも言葉数が少なくて、誠実そうにみえたのに…」

 成海は、少しやつれた表情をしていた。

「どうぞ、豚の角煮」と美加の好物を出してくれた。

「次は、健二よりいい男と付き合いなさい」と成海さんは、気持ちを切り替えるように言った。


 亜沙美から、黒木はどうだったとメッセージが来た。「最悪だった」と返した。「あんたは、選びすぎだから」と返事が来た。

 もしかして、成海さんは、美加と黒木を付き合わせるために、店に呼んだのかもしれない。黒木の弊害には気付かなかったみたいだった。


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