「処刑に処す!!!」と言われた前世の私、現世でVTuberとして顕現いたします!
※パワハラ表現
※残酷表現含めた自死
苦手な方はお気をつけください
「処刑に処す!!!」
目を覚ますと窓から日が差している。
時刻を確認すればもう昼過ぎ。
「眠いぃ」
布団の中で身体をのばす。
嫌な所で目を覚ました。自身の首を落とされる夢。
「久しぶりに見たな・・・」
あれは夢であって夢じゃない。
私の前世の記憶。
カーティア・ヨルガ・サヴァリエの最後。
記憶が戻ったのは両親が事故で亡くなったとき。
今世は一般家庭の一人娘 如月 蛍として生を受けた。
やや過保護ではあったものの幸せな家庭だった。
大学卒業後は事務として就職し、実家から出て一人暮らしをしていた。
定期的に連絡はとっていたものの私が就職した企業はとてつもないブラック企業で。
休みという名のサービス出勤。自主勉教という名のサービス残業。
同期は一人、また一人と倒れていった。
上司は気合いが足りないと罵るだけ。
それをおかしいと思わなくなっていって考えたら壊れそうで、とにかく働いた。
両親に心配かけたくないと一人暮らしと仕事で忙しいだけと言い訳し、一年帰省しなかった。終電で帰宅し、スーツも脱がぬままベットで倒れるように眠った。
朝方電話が鳴る。
ビクッと音に心臓がなる。
時刻はまだ六時。
今日は土曜日、休日出勤だからまだ時間に余裕あるはずだが。
こんな時間の電話なんて上司からトラブル対応しろという内容か?と慌ててスマホに手をのばす。
そこには見覚えのない番号。
両親が事故で亡くなったという警察からの電話だった。
私は突然の訃報に夢かと思った。
スマホから大丈夫ですかという声だけが部屋に響く。
両親は私から見てもとても仲良く、休みの日は朝から二人でジョギングするのが数年前からの日課だった。
今日も二人で近所を走って帰ろうとしたところ居眠り運転のトラックに突っ込まれたらしい。
病院に運ばれるもまもなく死亡が確認され、警察から私に電話がきたというわけだ。
現実味のないなか私は両親の元へ行かなきゃ。
プルルルル
再びスマホが鳴る。そこには上司の名前。
あ、今日行けないって言わなきゃ。
「おい!!電話には三コール以内に出ろっていつも言ってるだろう!!」
早朝にかけてきたことなど関係ないと電話口からがなり声が響く。
「あの、すみません、両親が亡くなったって警察から連絡がきてて・・・」
「はぁ!?だからなんだよ!!まさか休みたいとか言わないよな!!私用で休むなんて社会人失格だぞ!!」
普通に考えればありえない。それでも日頃の扱いから「はい」と返事するため口を開いたときだった。
稲妻が走ったような感覚。
時々夢に見ていたぼやけた景色が輪郭をもって思い出していく。
「おい!!聞いているのか!!」
返事がないことに苛ついた上司が再びどなる。
私はゆっくりとスマホを口元へと持って行く。
「こんな時に出勤しろなんていう会社やめますわぁぁぁぁぁぁあああ」
「は?おっ、おい何言って」
ブツッ
辞める宣言して電話をガチャ切り。
今は、こんな事に構っている場合でないのだ。
最低限の荷物をまとめ、病院へと向かった。
「お父さん....お母さん.....」
一年ぶり会った両親は白い布をかけられていた。
「お体の損傷が激しいのでお顔のみご確認ください」
医者はそういって両親の顔の布をとった。
一年会ってないだけなのに少しふけた?
少し頬や額に傷はあれど寝ているだけの様に見えた。
そっと触れると冷たさが指先を伝ってくる。
自分が追い詰められていたことを言い訳に彼らに会っていなかった事を悔いて泣いた。
葬儀は身内のみで行った。
と言っても両親はもともと孤児院の出身らしく親戚はいないため仲の良かったご近所さんを数人呼ぶ程度。
手続きや相続など全てが終わったのは半年後だった。
手にしたのは実家の一軒家と両親の貯金、保険、そして事故の加害者からの慰謝料。
空しい大金だった。
会社は労基に通報した上で辞表を提出した。
もう恨みなどという感情はない。
ただあの日両親の死を私用で片付けたのがムカついただけ。
最後は辞めないで欲しいのか上司が媚びてきたのは面白かった。
かくして如月蛍23歳は無職になりました。
やりたいことは決まっている。
「私VTuberになりますわ!」
それはかつて何も成せずに殺されてしまった前世の私をバーチャルに顕現させるのだ。
カーティア・ヨルガ・サヴァリエは享年18歳の私の前世だ。
ヨルガ国の第二王女として産まれた異世界の姫君。
幼い頃に夢に見てごっこ遊びしたこともあったがまさか前世とは思わなかった。
両親を失ったあの日全てを思い出した。
カーティアは幼い頃から美しくヨルガの宝玉と称された。
黒曜石のような艶やかな黒髪に青空を切り取った碧眼。雪のように白い肌。
誰もが彼女を愛した。
けれど過ぎた美は不幸を呼ぶ。
隣国の大国 パルテミ帝国がカーティア姫との縁談を持ちかけてきた。
相手は同い年の王太子殿下。
農業が主要産業の小国 ヨルガからすればこれ以上ないほどのお相手だった。
ただの婚約。それならばなんの問題もなかった。
けれど帝国から求められたのは齢6歳にしか満たないカーティア姫の婚約に伴い、教育と警護のために帝国へ即時移住。
つまり婚約者と同時にヨルガへの人質として扱われる事となる。
表向きは和平を結んでいる帝国だがその強大さからたびたび傲慢な態度で周辺諸国とたびたび小競り合いを起こしていた。
一方でヨルガは軍事力は大したことはなくとも人徳ある王家と穏やかな国民性、豊かな大地
他国からの評判高く、さらにかつて世界三大美姫に数えられた女性を祖先に持ち、カーティア姫はそ祖先によく似ているという。
縁づきたい国々は多かったが。
各国牽制し合うことで平和を保っていた。
それを壊したのが帝国だった。
大国のしかも次期王妃としての婚約。文句はないだろうという態度だった。
国のことを考えれば断ることは厳しい。
しかしわずか6歳の娘にその全てを背負わせるのはあまりにもむごい。
断れば面子を潰されたと言いがかりをかけてこないとも限らない。
断腸の思いで婚約は成された。
その後一ヶ月の準備期間後すぐさま娘を帝国へという書状が届けられた。
全てこちらで用意する。身一つでこちらへ。
つまり娘に祖国の物も人もつけてくれるなと。
あまりの内容に抗議したが帝国の準王族として王宮で過ごすのだからこちらに従っていただくの一点張りだった。
「愛おしい我が娘、無力な私達を許しておくれ」
祖国での最後の晩両親は私を抱きしめながら涙した。
兄弟姉妹もその側で泣いていた。
私は大好きな家族の涙に悲しくなって同じく泣いた。
翌日帝国の使者達とともに旅立った。
豪華な馬車に揺られ、祖国からどんどん離れていく。
泣きそうになると側の侍女が冷たく言い咎める。
「これから貴方様は我が国の姫となるのです。恥ずかしいマネはおやめください」
違う。私はヨルガの姫!とそう言いたかったが何も言えず俯いて黙った。
豪華な馬車も帝国からのドレスや装飾も全て綺麗だったがまるで私という品を包む包装紙の様だった。
当然届けられる先は帝国王家。
帝国の中心帝都に入るとそこは自然豊かな祖国とは全く違った。
城を中心として整えられた町並み。
とても綺麗だったがどこかさみしさを感じた。
城に到着すると身なりを整えられこれまた豪勢に着飾られた。
正直ジャラジャラと邪魔だったし、6歳の子供には明らかに不相応。
けれど断ることなど当然出来ず。
「カーティア姫よ帝国へよくぞ来てくれた」
帝王様との謁見はつつがなく行われた。
言葉の通りなどでなく私という贈り物を帝国内の貴族への見世物のようにしたかっただけ。
それから数日後私は婚約者の帝国の王太子と顔合わせをした。
顔は思い出せるのに名前だけが何故か思い出せない。
最初は優しかった。
味方の誰もいない王宮で手を差し出してくれた。
12年後殺されるなんて思いもしなかった。
VTuberになりたいと思ったのは偶然だった。
両親の死と前世の記憶、最初はその二つの衝撃で悲しかったけど葬儀の手配などで忙しくしていればなんとか生活できていた。
遺産のことなどもご近所さんの紹介で良い弁護士さんにお任せできた。
そうしてふと時間が空いたとき。
突然過呼吸で倒れた。家の中でたまたま物の近くではなかったので怪我はなかった。
それからそれは時折起き、慢性的な不眠が始まった。
眠れなくて適当な動画をながしていたとき初めてVTuberというものと出会った。
正直最初はオタクぽいなと思ってた。
けど気付けば彼らにどんどん引き込まれた。
男女という性別や見た目、はたまた種族すら問わない。
それぞれのスタイルは違うが好きを表現するその姿に惹かれた。
前世の私にはなかったものだ。
全て言いなりで目立つその見た目を嫌っていても自分にはそれしか価値がないと卑屈になって。心の中ではこうしてやりたい、ああしてやりたいとただ望むだけ。
そうしている間に手遅れとなった。
「やりたいなら命かけて全Betだ!」
そのときつけていた放送からたまたま流れてきた言葉だった。
たったそれだけ。でも私はその言葉に背中を押された。
「やってやりますわ」
その日から私はやっと眠れるようになった。
「ご機嫌よう、本日も私カーティア・ヨルガ。サヴァリエの配信をヨルガ民に見せて差し上げますわ」
私は前世の姿と名前そのままVTuberとなった。
三年目の今は個人勢ながら40万人登録者という想像以上に人気になっていた。
メインコンテンツはマロンという匿名の質問箱に寄せられた質問に答えるマロ読みだ。
毒マロ喰いのカーティア。
私のファン達、通称ヨルガ民が呼び出した異名だ。
私は前世の思いから言いたいことは言ってやると最初から決めていた。
マロというのはその匿名性から質問と偽った攻撃的な暴言の毒マロというものが寄せられやすい。
近年ではあまりの内容に開示請求をともなった裁判沙汰が界隈で珍しくないほどだ。
私にも開設間もなくからそういった内容の毒マロは届いていた。
アンチというより女性に対してのセクハラ的なのが多かったが。
放置して取り合わないという形もとれたが私は徹底的にそれをネタにして血肉にした。
「文句があるならかかって来なさい。私が全て喰ってあげますわ」
配信に引っかかるような内容はぼかしつつ、正論で殴って、食い尽くした。
アンチは喰っても喰っても湧いてきたが一方でその様が清々しいとファンが増え始めた。
そしてその様から産まれたのがあの異名。
仰々しいが前世の宝玉などと言われるよりは気に入っている。
「さて本日の一つ目のマロですわ」
【はじめまして、姫。
俺は昔から身体を鍛えていて自分には自信があったんだ。
実際負けなしで強かったし。
でもあるとき俺より強い女が現れて好きになったけどそいつは俺の幼なじみの恋人だったから諦めたんだ。
どっちもいいやつだから友人として仲良くしてたんだけどその女が実は幼なじみを裏切ってたって知ってつい怒鳴っちまったんだ。
俺は、曲がったことが嫌いだったから。
けど実はそれが嘘だってあとで分かったんだけどもうそいつとは会えなくて。
あ、嘘をながしていた奴は俺がとっちめてやったんだけど。
俺らも悪いけど騙されてたんだ。
どうしたら許してもらえると思う?】
「・・・さいっあくですわねぇ。あ、貴方達全員ですわよ?彼女さんは除いて」
このマロを読みながらかつての友人・・・と思い込んでいた者を思い出した。
それは婚約者だった王太子の幼なじみで側近の騎士。
名前はやはり思い出せない。
彼は王太子から紹介された。
騎士を多く輩出している家の子息で父親も騎士団長を務めていた。
貴族に珍しく思ったままを口にしてしまう人で良く言えば素直、悪く言えば脳筋だった。
やや粗暴なところがあって最初は怖かった。
けれどともに訓練することで仲を深めた。
当然だが私は剣なんて使えない。
けれど魔法の素質があった。死ぬ間際には国一番の魔女と呼ばれるほど。
普段は魔力を封じる腕輪をつけさせられていたから結局冤罪をかけられたときはなされるがままだったがもし使えていたなら帝国の犠牲者はひどいものだっただろう。
そうしたかは別として。
人質としては力を持たせたくはなかったが放置するにはもったいない素質。
管理するための腕輪をつけさせられ訓練させられた。
騎士とともにしたのは魔物討伐のときだった。
私と同い年ながら大人にも勝つ程の力を持っていた少年だったが初めての実戦で油断し、危うく魔物に殺されそうだった。
それを寸での所で助けた。
それからは私に勝つと訓練という名の模擬戦を行うことが増えた。
剣、魔法と使うものは違ったがそれがよい経験となったのかお互いに強くなっていった。
そのころには私も彼を友だと思っていた。
けれどある日、彼は私を怒鳴り突き飛ばした。
そしてあろう事か剣を向けたのだ。
訓練中ならいざ知らずその時の私は腕輪で魔力を封じられたただの非力な娘。
いくら粗暴なところがある彼と言えど正義感が強く素直な彼がそんな事をするのが信じれなかった。
「帝国を、婚約者である●●●を裏切ろうとした反逆者が!!」
何を言っているのか分からなかった。
6歳から祖国の為に全てを帝国に捧げてきた。
反論も愚痴すらこぼしたことはない。
けれど私に剣を向けるかつての友は私が悪と信じ切っているようだ。
私は抵抗せず彼に従って牢へと入れられた。
話によるととある尊きお方が私の罪を告発したらしい。
私はろくな調査も裁判もされずに婚約者から処刑を命じられた。
それを思い出されるマロだと思った。
「ずいぶん勝手な言い分ですのね。たしかに嘘をついたことは許されませんわ、けれどそれまでの付き合いから彼女の人となりを知っているなら少しは調べなかったですの?彼女は違うと言わなかったの?信じなかったのは間違いなく貴方自身でしょう。それを反省するどころか開き直って許されようなんて甘えたこと言うのも大概にしなさい!!あと所々に女性を下にみた態度が透けていますわよ!!あと最初の好きだったとかの情報いりませんわ!」
コメントにこいつ実はまだ好きなんじゃねと書き込まれた。
恐らくそうなのだと思う。
悪いことをしたとは思っていてもどことなく軽く、何か下心を感じた。
より気分悪くなる。
「では次のマロにいきますわよ」
❰かつて騎士だったもの❱
「さいっあくですわねぇ」
仕事が終わって家で晩飯食べながら推しの配信を見ていたら以前俺が送ったマロが読まれていた。匿名とはいえやはり好きなVTuberに読んでもらえるのは嬉しい。
けれど推しであるカーティア姫の反応はひどいものだった。
嫌悪を露わにして怒られた。
彼女の毒舌はヨルガ民の間ではご褒美らしいが正直慰められるか励まされると期待していた。
実は俺には前世の記憶があった。
記憶といっても所々かけていて名前なんかはほとんど思い出せない。
子供の時は夢だと思っていったが年を重ねるほど思い出す内容は鮮明に詳しくなっていった。こんなおかしな事誰にも相談できないと悩んでいるとき姫をたまたま見つけた。
VTuberという存在は正直オタクぽいと馬鹿にしてた。
けど姫を見つけたときの衝撃ったらなかった。
だって夢の中の前世のお姫様と瓜二つ。性格は前世の姫さんのがずいぶん大人しいが。
あのマロは前世の相談だった。
もちろんまんま質問しては騎士だ魔法だと説明つかないからごまかして。
幼なじみの王太子に仕えて、剣も申し分なく、父の後を継いで騎士団長になると信じていた。
王太子に婚約者を紹介されたとき噂通り綺麗とは思ったがそれだけ。
当時は剣ばかりに夢中で興味なかった。
けどお人形みたいなそいつがまさか俺より強いなんて思わなかった。
魔法の適正ありと訓練しているらしくあるとき騎士団の魔物討伐に訓練も兼ねて着いてきた。俺だって父に今回からやっと許可されたのにと少し不満だったが仮にも王族だし仕方ないかと偏って見てしまっていた。
正直魔法使いってのは俺ら騎士の後ろでごちゃごちゃとうるさい印象しかなかったしな。
けれどその予想を裏切ったのは彼女だった。
初めての実戦だったが俺にとって魔物の相手は簡単だった。
だからこそ油断した。倒したことに満足してとどめの確認を怠ったのだ。
死ぬところだった。魔物が俺の背後から襲いかかった瞬間彼女の魔法で俺を防御しつつ魔物
を燃やしていた。
彼女は率先して前には出なかったがとても強かった。
そのとき初めて本当の意味で彼女を綺麗だと思った。
自分自身では気付かなかったが好きになっていったんだと思う。
訓練をともにするうちによそよそしかった彼女とも打ち解けていった。
当然幼なじみの婚約者に邪な思いはもてない。
友として2人の側にいようそう誓っていたのだ。あの日までは。
あの方から彼女が俺たちも国も裏切っていると教えてもらった。
まさかと思ったが彼女が祖国に送ろうとしたこの国の機密や俺たちへの不満を綴った手紙を見せられた。
そこには彼女の印影がくっきりと押されていて、それは本物の証明だった。
カッとなった。あんなに優しいふりをして裏ではこんなに汚れていたのかと。
そう思ったのは幼なじみも一緒で怒りのままに彼女を断罪した。
気付けば良かったのだ。そんなことしてないという彼女の必死の訴えに。
あまりに都合の良い証拠に。
とんとん拍子で進む裁判に。
全てが彼女の処刑台へ導くためのシナリオだった。
最後まで彼女は罪を認めなかった。
幼なじみが処刑を命じ、俺が実行した。
しかし後にそれは冤罪と分かった。
つまり俺たちは無実の罪で愛した人を殺したのだ。
俺は気付けば彼女の嘘を教えてきた奴を手にかけていた。
そうでもしなければ耐えれなかった。
奴の息が止まると同時に駆けつけた騎士に俺は討たれた。
尊き人を守るための剣。俺は失ったその剣で。
「産まれ変わっても俺は何にも変わってないんだ」
姫に言われたことは図星だった。
俺は彼女を手にかけたくせにどこか俺が悪いんじゃない。騙した奴が悪いんだ。と心の中で言い訳していた。
彼女を信じなかった。それが俺の罪なのだ。
彼女のためとした報復も俺の罪をごまかすための言い訳。
どこまでも自分の甘さに気付かされた。
本当に悔いているのなら許して欲しいなんて言えないのだ。
姫に相談したのも見た目のそっくりな彼女に許してもらえたならと。
どうしようもない自己満足。
「ではお次のマロですわぁ」
【僕は有名国立大に現役で合格できるくらい頭が良いです。将来も父と同じ職に就いてエリートになるはずです。
僕はあるとき恋に落ちました。
彼女は僕と同じくらい頭が良くて初めて話の通じる女性だったんです。
顔もとても綺麗でした。
けどすでに恋人がいたうえにその相手は僕の父の上司の息子でした。
そいつがまた顔だけの甘えた奴で僕は表向きは仲良くしてましたけど全然好きになれなかったです。
家同士の付き合いで彼女はそいつに付き合わなきゃいけなくて本当は僕みたいな話の合う人のが似合ってると思うんですよ。
けどあるとき彼女が他の人から濡れ衣きせられて上司の息子と別れることになったんです。僕は彼女がそんなことするわけないって信じてましたよ?
一方でそれまで友達とか言ってた息子の幼なじみの男も彼女を信じなくて本当低脳って何見てんでしょうね。
彼女があいつらと縁が切れればやっと僕の番って思ってたんですけど思ったように結局上手くいかなくて。
前は失敗したけど次会えたらきっと頭の良い彼女なら誰と付き合えば幸せになれるか分かると思うんです。
姫もそう思いますよね?】
「・・・気持ち悪い。ゾッとしましたわ。最初から最後まで何言ってんだですわ。まず貴方は彼女のことほんとに好きでしたの?恨んでるって言われた方が納得ですわよ。濡れ衣をきせられた彼女を助けるでもなく恋人と友人から責められるのを傍観して、直接手を出さなくても同罪ね。いえ、それどころか貴方はどこか楽しんでいたのでなくて?優秀と自負する貴方が認める才女が困っているのに愉悦を覚えていたのでしょう。おぞましい下劣さね。独りよがりで彼女を苦しめたお前に愛だの恋だの語る資格などないわ!!己が欲望を彼女の幸せと偽るでない!!」
コメントは私と同じ感情の者がほとんどだったが長文で反論する輩がいた。
内容から察するに恐らく送り主なのだろう。
頭が良いと自分で書いていたがそこにあるのはやはりどこまでも自分勝手な言い分ばかり。
感情的で見てられないわ。
「痴れ者がやはりお前が愛していたのは彼女でなく優位に立てる自分自身よ!」
そう言いながら思い出すのは前世の婚約者の側近。
確か宰相の息子だったと思う。
陰険でことあるごとに私に嫌みを言い、立場的に何も言えない私を虐めてニヤニヤとしていた。
処刑間際の私の牢屋を訪れ、辱めようとまでしてきた。
必死に抵抗しなんとか最悪の事態は免れたが何故か抵抗したことに彼は驚いた様子だった。
私が身体を使って慈悲を求めるとでも思っていたのだろうか。
このマロ主のように自己中心的で嫌な人物だ。
❰かつて側近だったもの❱
「ふ、ふざけるな!!ぼ、僕を馬鹿にするのか!!」
僕は閉じきった部屋の中でパソコンに向かって叫んだ。
それは僕がよく見るVTuberに送ったマロをあまりにひどく罵られたから。
かつて初恋の人に似ていたからって見なければ良かった。
僕は前世の記憶がある。
それはこの世界とは違う恐らく異世界だろう。
聞いたこともない国名に魔法や魔物などが存在していた。
僕はその世界の大国の宰相の息子として生きていた。
初めて思い出したのは大学受験に失敗し引きこもった頃だろう。
誰よりも優れているはずの僕が落ちて双子の弟だけが有名国立大に受かってしまった。
何かの間違いだ。それまで僕にだけ期待を向けていたはずの両親が弟ばかり褒めだしたのも全部間違い。
弟と顔を合わせたくなくて部屋に引きこもった。
ネットで注文すればなんでも手に入ったし、ご飯は母が部屋の前に置いていった。
大丈夫、来年合格すれば全て元通りだ。
あいつのいる場所は僕のものなのだから。
前世の僕もとても優秀だった。
幼い頃から天才と称えられ、将来は父の後を継いで宰相になることを期待されていたし当然なれると思っていた。
側近として仕えた王太子には正直がっかりだった。
何もかも平凡で唯一優れてるのは見た目だけ。
周りに甘やかされ、幼なじみの騎士と馴れ合い、安っぽい正義感を語る。
まぁ、僕が宰相になったときに上手く操り人形として使ってあげればいいだけか。
そう思っていたとき彼女がやってきた。
他国から王太子の婚約者という名目で連れてこられた幼い姫君。
子供とは思えない美しさを持っていたが彼女の魅力はそれだけではなかった。
また馬鹿が増えると側近として面倒だなと思っていた。
彼らの中で唯一私が3歳だが年上な為まとめ役をしなければならないから。
けれどそれは杞憂だった。
王太子と同い年ながら美しいカーテシー、なにより己の役割を理解している。
脅迫に近い我が国からの求婚。
自国を守るため人質としてやってきたのだ。
その為出しゃばらず、影で冷遇されても文句の一つも言わなかった。
今はまだ幼いが自分と並ぶ知性を感じた。
実際教育が始まれば優秀さはすぐに分かった。
初恋だった。私にふさわしい女性。
けれど悔しくも彼女は仕える主の婚約者。
手を出せば己の立場に響く。
あんな血筋だけの馬鹿に奪われるのは悔しかった。
だからタイミングを窺っていた。
彼女も自国の為に我慢しているだけで本当は僕のような優秀な者と結ばれたいと願っているはずだ。僕と似た考えをしているのだから。
タイミングはなかなか来なかった苛立ちのあまりつい彼女に嫌みを言ってしまう。
好きなのに彼女が悲しさをこらえている姿がいじらしくて可愛くて。
思いを伝えたその時は優しくするから許して欲しい。
やっときたチャンスは彼女の成人の数ヶ月前だった。
18を迎えてしまえば彼女と王太子は結婚してしまう。
そうなってしまえば別れさせるのはさらに厳しい上に彼女が穢されてしまう。
それだけは許せない。
それはあるお方が彼女が我が国と婚約者を裏切っているという告発をするというものだった。正直証拠もなく稚拙な作戦。
このままでは失敗に終わる。
だから僕は裏から手を回しありもしない証拠を捏造した。
宰相家ともなればそういう伝手もあるので用意だった。
彼女は否定した。それはそうだ彼女はどこまでも清廉でこんな事していないのだから。
僕は分かっているから安心して。
案の定王太子と騎士はまんまと騙されていたがそれが僕との差さ。彼女にふさわしいのはやはり僕だ。
牢屋に入れられた彼女はやつれていた。
しかし、それでもなお美しかった。荒れた牢屋さえ彼女の美しさを強調しているようだった。やっと僕のものに出来るんだ。
長年押さえていた欲望はあふれだし彼女に触れると止まらなくなった。
暴れる彼女の拳が頬にあたり、やっと落ち着いた。
愛していると言ったのに抵抗されたのは驚いたが彼女も戸惑っているのだろう。
それに初めてはこんな場所じゃもったいない。
僕は彼女に耳打ちし、牢屋をあとにした。
「僕のものになるなら助けてあげます」
頭の良い彼女ならすぐに僕に助けを求めるだろう。
そしたら彼女の無実を証明して僕が彼女をもらい受ければよい。
冤罪とは言え、その名誉は傷物となったのださすがに王家と縁づかせるのは厳しい。
そこで僕に下賜させる。
彼女を迎えるための部屋もドレスももう用意してある。
あとは君が僕を求めるだけ。
そんな幸せな生活夢見ていた。
けれど彼女は僕に助けを求めなかった。
それどころか王家にさらに自分の監視を申し出た為、容易に牢屋にすら近づけなくなった。
何故だ。頭の良い彼女ならどうするのが最善か分かっているだろう。
焦りも空しく彼女は処刑されてしまった。
その直前までいつ言い出されても助けれる準備はしていた。
それでも彼女は僕を拒否した。
何故?僕は君を幸せにしたかっただけなのに。
彼女を亡くした僕はそこでやっと全てを告発した。
王太子も騎士も絶望していた。
けれどそんな事知ったことか僕は彼女を失った世界が色褪せて。
そのまま命を自ら絶ってしまった。
転生したとき僕は奇跡だと思った。
僕が転生したのならもしかしたらこの世界に彼女も転生しているかもしれない。
いや、しているはずだ。
来年合格したら彼女を探すんだ。
エリートの僕を見たらきっと彼女も思い出す。そしてあの時は間違った選択をしたと言うのだ。
来年、再来年、明々後年、僕はあれから何度も大学を受けたが合格出来なかった。
弟は大手広告代理店に内定したらしい。
僕は天才なんだ。すぐに取り戻せる。問題ない。
そう言い聞かせた。
あるときカーティア姫というVTuberに出会った。
その見た目は前世の彼女そのもの。
どうしても名前は思い出せないがこの見た目、彼女に間違いない。
やはり僕たちは運命の相手なんだ。
早く僕も転生してると伝えなければ。
でもどうやって?前世の名前は自分含めて思い出せない。
いや、彼女なら前世を現代でもおかしくないようにいじった内容でも気付いてくれるはずだ。DMは解放していないからマロで彼女へと送った。
あの時は上手くいかなかったが今回は僕らに何の障害もないんだ。
君も素直になってくれるよね。
しかし期待は手酷く裏切られた。
結果として偽物だったのだ。
読まれたマロは罵倒され、かつての彼女の品を思わせない態度だった。
彼女ならあんなこと言わない。
きっと前世の彼女を知っていて美しい見た目を勝手に騙っているのだろう。
「下劣はお前だ偽者め」
俺はコメント欄に反論したがすぐにブロックされた。
やはり図星だったんだ。
彼女はこいつじゃない。
きっとどこかで僕が迎えに来るのを待っているんだ。
「えーなかなかに濃い毒マロでしたわね。気を取り直して次が最後のマロですわ!」
【初めまして、私はかつて裕福な暮らしをしていましたが今は社畜です。
私は産まれたときからなんでも手に入りました。
けどある日手に入らないものが出来たのです。
それは僕の婚約者です。彼女とは幼い頃から婚約していたので幼なじみに近いです。
彼女はとても優秀な人で僕もさらに好きになりました。
けど彼女は僕に対してどこか距離があって悲しかったです。
あるとき妹から彼女が僕を裏切っていると伝えられて私は最初信じれなかったのですが証拠も見せられ幼なじみと僕はあまりの事に彼女を糾弾して婚約を破棄してしまいました。
辛かったですが家族を守るためには仕方ないと思っていたんです。
けど実はそれは妹の捏造でした。
けどもう全て遅くて彼女の家は貧しかったけど他の家からの信望があったのもあって僕らの過ちは瞬く間に広まって気付けばどこも取り合ってもらえず没落してしまいました。
家族も霧散して僕には何も残ってないです。
これからどうして生きていけば良いのでしょう。】
「生きろ!以上!」
さすがに一言過ぎるとコメントが多数きた。
「仕方ないですわね。ヨルガ民に感謝なさい。私こういう甘ったれって嫌いですの。だいたい自業自得でしょう。家族が大事と言って婚約者を信じなかったのでしょう?婚約者だってそれだけの月日を過ごせば家族同然でしょうに貴方は選ばなかった。そのくせ信じた身内の不始末からの不利益には文句を言って。霧散したと言ってますけど結局はその程度の絆だったのです。彼女さんの家族をご覧なさいな。彼女のご家族は信じたのでしょう?娘は恥ずべき事などしていないって。富と品は比例しませんのよ。というかそれでそこまで落ちぶれるなんて元々何かが壊れていたのよ。遅かれ早かれって奴ですわね。何も残っていない?フンッ、それこそ戯れ言ですわ。生きているでしょう。ならばあがきなさい。だめでもきっと来世で何者かになるために。だいたい貴方婚約者に対して申し訳ないとかないんですの?自分の事ばっかり心配して!」
私自身がそうであったように。
たしかに前世では若くしてなくなった人生ではあるが必死に学んだことは今役立っている。毒舌多めのキャラではあるがどこか品があると好評だ。
それに企業との交渉だって前世の国の代表という立場を考えれば軽いもんだ。
社畜時代だって無駄にはなっていない。集中力とマルチタスク能力を鍛えられた。
なにより現世では失敗したって処刑されたりしないんだ。怖いものなんてあるもんか。
この甘え具合は王太子そっくり。
なんだか今日はよく前世を思い出すわ。
彼は優しいと出会った当初思っていた。
けれどそれは間違えで彼は甘いだけだった。
幼い頃から王太子に指名され彼に逆らうものなど誰もおらず。
後の王に媚びるものばかり。
私が何故この国に呼ばれたのかも理解してなかった。
人質という面などがあるとは思ってもみないだろう。
本質的には善良な人。けれど王としての資質はなかった。
それでも王家唯一の男児という立場から甘やかれ続けた。
そうされてることに気づきもせず。
けれどただの人質に出来ることなどない。
とにかく平和であって欲しかった。
彼が私に処刑を命じたときは信じれなかった。
冤罪ではあったけれど王ならば必要な時には非情さが求められる。
そういう意味では王になっていっていたのかもしれない。
私はいびつとはいえ彼の婚約者として過ごした年月を否定なんかしない。
家族を恨んだりしない。
祖国の為に生きれたことは誇りなのだ。
❰かつて王太子だったもの❱
私はひたすらに疲れていた。
安い給料で寝る間も惜しんで仕事をしていた。
もともと要領のよくない私はよく怒られた。
辛かったが生きるためには社畜と呼ばれようがやるしかないのだ。
終電で家に帰り倒れるように寝る日々。
通勤時間の好きなVTuberの配信だけが日々の楽しみだった。
好きなのはカーティアという女の子。
かつての婚約者に似ている。けれど中身はとてもはっきりしていてもしも私がこんなだったらと考えてしまう。
私には生まれつき前世の記憶というものがあった。
かつて私はとある大国の王太子だった。
今とは比べものにならない贅沢な生活。
王太子として全ての人間が私に傅いた。それが当然だった。
ある日婚約者として一人の少女が嫁いできた。
同い年ながら周りを唸らせるほどの美しい所作を見せつけた。
見た目でなくすばらしい婚約者を得れたと嬉しかった。
私が彼女に手を差し出すと恥じらいつつも嬉しそうでますます好きになった。
最初は友愛に近かったのかも知れない。けれど彼女が徐々に大人の女性へと成長するほど彼女の事がさらに好きになった。
早くに婚約を結んでくれた両親には感謝しかない。
そのせいで彼女が祖国を離れなければならなかった事情など考えつきもしなかった。
成人すれば結婚できる。とても楽しみだったが今だ僕らの間に男女の繋がりというものはなかった。
もちろん超えてはいけない所は分かっている。
それ以下の問題だった。
手を繋いだり、抱きしめたり、彼女に・・・キスをしたり。
妄想を始めたらキリがない。
私が彼女に触れようとすると彼女はそれとなくはぐらかし、離れてしまうのだ。
その距離がとても悲しかった。
婚約者なのに何故と思っていたがあるとき妹からとんでもない事を告げられた。
「お兄様!あの女私達を裏切ってますわ!」
幼い頃から身体が弱く、大人しい妹がこうも憤っている姿は初めてだった。
まさかと妹が証拠と差し出した手紙は彼女の祖国に宛てたこの国の機密と私達への罵詈雑言。これまで長い年月をともにした私達のことを裏ではそんな風に思っていたのか。
美しい顔の裏には目も当てれない醜悪さをかくしていたのか。
まさか妹が私への歪んだ思いから証拠を捏造し彼女を貶めるなんて思いもしなかった。
全てが明らかとなったのは彼女が処され、それを苦に自ら命を絶った側近の遺書とも言える告発がでた後だった。
もう全て手遅れだった。
絶望した幼なじみは怒りのままに妹を切りつけ、今は投獄されている。
妹はその時の傷が元でなくなった。
残されたのは私だけだった。
そんなとき娘の死を悼んだ彼女の祖国が戦いの狼煙をあげた。
周辺諸国も加勢し、栄耀栄華を極めた帝国は美しき姫を冤罪で処刑したことで王家の権威も失墜し、最後はその名を地図から消されてしまった。
王族は見せしめにその姿をさらされ処された。
彼女のように。
気付けば生まれ変わっていた。
貧しくはないがかつての生活とどうしても比べてしまう。
もしもあの時彼女を信じていれば。
妹の戯れ言など無視すれば。
彼女がどんな思いで嫁いでいたのかを考えていれば。
違う最後を迎えれていたのだろうか。
そう考えることすらおこがましいのだろうか。
「生きろ!以上!」
イヤホンから響いた姫の言葉に起こされた。
いつの間にか寝ていたらしい。良かった寝過ごしてはいない。間もなく最寄りだ。
私はイヤホンをしまって降りる準備をする。
内容は分からないが姫が生きろと言ってくれたから今日も生きれそうだ。
あれでも視界がかすんで身体が動かない。
「以上本日のマロですわ!明日も我が国民達健やかにお過ごしませ!」
そうして私は配信を閉じた。
今日も大いに盛り上がった。
変なマロは多かったがそれも数日後には切り抜かれてさらに色んな人の目に触れるだろう。
これからも私は毒マロを喰って喰ってカーティアの名を轟かせてみせますわ!
かつて私は大国の王女だった。
贅沢な生活が当たり前で王女の私は愛された。
そんな私の兄でありこの国の王太子だった彼は私の最愛の人だった。
愛人を囲って私達に興味のない両親に代わって兄様だけが私の側にいてくれたのだ。
なのにあの女が来てから壊れてしまった。
貧しい小国の姫。僅かばかり見目が良いからと私の兄様の婚約者になってしまった。
優しい兄様につけ込んでいつも側にいてあろう事か私との時間を奪って。
誰にでも媚びを売って騎士や側近までも籠絡する悪女だ。
兄様は絶対に渡さない。
逃げ帰れと影で虐めさせた。
食事を残飯を混ぜ、ドレスを破き、ベットを水浸しにした。
けれどあの女は泣くどころか平然と微笑んでいた。
兄様にバレてはまずいのであまり過激には出来ないのが悔しかった。
はやくあいつを追い出さないと兄様が奪われてしまう。
焦った私が最後に取った手段はあの女に裏切りの罪をなすりつけること。
いや、他の男にも媚びを売っているのだからある意味兄様を裏切っているのは間違いない。
けれど証拠がないと悩んでいたとき匿名の手紙が届けられた。
それはまさに私が欲していたものだった。
やはりあの女は裏切っていたのだ。
私は、涙ながらに兄様に告発した。
あとは笑ってしまうほど上手くいった。
正直処刑までされるとは思ってなかったが私から長い間兄様を奪った罰よね。
私は、有頂天になっていた。
けれどその幸せはあっという間に崩れてしまった。
自死した側近の遺書から私の告発が偽造だと証明されてしまった。
私はあの証拠が偽物なんて知らなかった。
そう言っても誰も信じてくれず兄様は私を拒絶した。
そして狂った騎士に私は切られ、亡くなった。
私はただ愛しい人と幸せになりたかっただけなのに。
気がつけば私は転生していた。
かつて王女だった頃の記憶を思い出したのは高校生になった頃。
今世、私は貴族ではないが裕福な家に生まれていた。
やはり私は愛された存在なのだ。
残念ながら兄弟はおらず兄様はいなかったがきっとこの世界に彼も転生してる。
しかも今世に血のつながりはない。
堂々と愛し合える。
その為にもより美しくさらにお金持ちにならないと。
私は二十半ばで父の会社を継いだ。
最初は渋っていたが横領の証拠で脅した。
私の大事な家族は前世も今世も兄様だけなのよ。
そのためには社員達を酷使した。
今風に言えば社畜かしら?
私の幸せのために働けるのは幸せでしょう。
本気でそう思っていた。
全ては兄様との愛のために。
そんなとき社員の一人が亡くなったと知らせがきた。
そんなものどうでもよかった。
社員など会社というものを動かす燃料程度にしか思っておらずかけたなら足せばいいと。
けれど週刊誌がそのことを悪し様に報道してしまった。
国からの調査も入り、件の社員は過労で会社の過失とされてしまった。
そこで初めてその写真を見た。週刊誌がどこから手に入れたのか入社当時の彼の写真を掲載していたのだ。
私の手を煩わせた奴の顔を見てやるくらいの気持ちだった。
「に..い...さ..ま」
そこには私の最愛の人が写っていた。
私が間違えるはずない。私の顔を見る限り前世の髪や瞳の色は引き継がれないが面立ちというのはどこか似たものを持っているのだと思う。
私とどこか似た顔の愛しい我が兄。
誰よりも彼を欲し前世ではついぞ手に入れられなかった。
しがらみなき今世こそと誓った。
その私の努力が兄様を殺した?
そんな、そんなことあっていいはずがない。
そこで私の記憶は途切れた。
会社は脱税と横領で訴えられたらしいが彼がいないならあんなものどうでもいい。
彼がいない世界など。
私は空へ飛び降りた。
来世で兄様と会えると信じて。
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