平和な日々
ボクの一日は、だいたい鶏の鳴き声で始まる。
目覚ましなんて便利な道具はこの村にはないけど、正直それで困ったことはない。鶏は毎朝きっちり仕事をする。
「……もう朝か」
寝ぼけたまま窓を開けると、冷たい空気が一気に流れ込んできた。畑の向こうには朝靄が広がっていて、村全体がまだ眠っているみたいだった。
ここは、小さな村だ。
そしてボクは、その村の村長の子――リオン。
「リオン、起きてるかー」
階下から聞こえてくる父の声。村長という肩書きのわりに、呼び方はいつも雑だ。
「起きてるってば!」
返事をしながら、ボクは髪を適当にまとめる。
もう少し身だしなみに気をつけなさい、なんて言われることもあるけど、正直よく分からない。
動きにくいより、楽な方がいい。
朝食のパンを食べ終えると、ボクはすぐに自分の部屋へ戻った。
机の上には木屑が少し散らばっていて、小刀と紙やすり、それから削りかけの木材が置かれている。
「……ここ、もう少し丸くしたほうがいいかな」
今日仕上げる予定なのは、小さな木製の置物だ。
動物を模したもので、手のひらに収まるくらいの大きさ。村の子供たちにあげるつもりで作っている。壊れやすいものより、多少乱暴に扱っても大丈夫なほうがいい。
小刀で余分な部分を削り、紙やすりで表面を整えていく。
指先に伝わる木の感触が心地いい。
「……よし」
最後に目と口の位置を少しだけ彫り込むと、無表情だった木の塊が、なんとなく生き物らしく見えてきた。
「完成、っと」
思わず小さく息を吐く。
自分の手で形を作り上げるこの瞬間は、何度経験しても嫌いじゃない。
完成した木製の置物を籠に入れて、ボクは広場へ向かった。
すでに子供たちは走り回っていて、ボクの姿に気づくと一斉に集まってくる。
「あ、リオン!」
「今日はなに?」
「ほら、スライムの置物。落としても大丈夫なやつ」
籠の中身を見た子供たちの目が輝く。
「すごい!」
「これ、木でできてる!」
「角は丸くしてあるけど、振り回したらダメだからね」
そう言うと、みんな真剣な顔でうなずいてから、嬉しそうに走っていった。
――こういう反応を見ると、作ってよかったなって思う。
広場の端では、大人たちが世間話をしている。今年の収穫の話、物の値段の話。
魔物の噂も出るけど、この村ではどこか遠い世界の話のようで、もはやマスコットみたいになっている。
「今日も平和だなぁ」
ボクがそう呟くと、隣にいた父が小さく笑った。
「その平和を守るのが、大人の仕事だ」
「はいはい。お疲れさま、村長さん」
午後は倉庫の修理を手伝った。
木材を削って、釘を打って、隙間を埋める。こういう作業は昔から得意だ。
「本当に器用だな、リオン」
「でしょ。ボク、木を触るの好きだし」
夕方、空がオレンジ色に染まるころ、ボクは家の前で立ち止まった。
変わらない日常。
少し退屈で、でも確かに温かい毎日。
――このときのボクは、まだ知らなかった。
この平和な日々が、もうすぐ終わることを。
初投稿ですやったね




