47話・最終話
「レレリス」
「ディブールさん」
レレリスがニッコリと笑った。川の水面が反射して眩しい。直視できない。
「久しぶりだな」
「久しぶりですね」
「……」
ゆっくりと近づいてくるレレリス。眩しいからじゃなく、何故か目を見ることができない。会えて嬉しいのにうまく言葉も出てこない。
(どうしてこんなに胸がソワソワするのだろう……)
「ねえ、カブコス! 闘おうよ!」
ウメモモがカブコスから離れ、拳を構えた。
「いいよ! ここでやる?」
カブコスも戦闘の構えを取った。
「ここでもいいけど……あ! あっちに海があるからさ、海に行かない?」
「え! 海!? やった! いつか見てみたかったんだ!」
「行こ、行こ!」
2人は連れ立ってあっという間に走り去ってしまった。
俺様に気を使って2人きりにしてくれた、訳ではないだろう。アイツらはそんなタチではない。たまたま2人きりになれたことを嬉しく思う気持ちと戸惑う気持ちが混ざり合う。
(パエリアを食べた場所だよな?)
声に出せず心の中で言う。
(どうしてこんな場所に居るんだ? 両親の元へは帰ったのか?)
レレリスの居場所カードを見ていたから、実家がどこにあるか検討がついているのに頭に質問を走らせる。
(忙しくて中々人間界に来られなかったんだ。すまないな)
待ってなかったかもしれないのに言い訳する。
ああ。自分はなんて気持ちの悪い生き物なんだろう。どうして言葉にできないんだろう。きっと今日のレレリスが可愛過ぎるせいだ。
「ディブールさん、お腹空いてませんか?」
黙って川を見つめる俺様に、痺れを切らしたのかレレリスが問いかけた。
「ん? ああ。空いている」
「よかった! じゃあ、今から2人でピクニックしましょう! お料理をお持ちしますね!」
返事をする間もなく、レレリスは集落の方へと走って行った。
夢のような景色が目の前に広がっている。赤いチェックの敷布にいつもの銅鍋。そこに入っているのはレレリスの手料理。そして向かい合っているのはレレリス本人。
これが現実なのだろうか。1度確実に自分の死を自覚したからか、2度と手に入らないと覚悟した風景が目の前に広がっていると不思議な感覚になる。
もう充分だと思うような、ずっとこのままでいたいような、もっと先を願うような。
ただ人間化していた時とは視界が少しだけ違う。レレリスや小物が前より小さく見える。
レレリスは皿やカトラリーを並べている。そして並べ終えると、俺様を見上げて目を細めた。
「最後に食事したのもここでしたね。あの時はパエリアでしたが、今回はチーズリゾットです。たまたまですが次の週にご用意していたものと同じメニューですよ」
「ああ、あの時はすまなかったな」
「いえ。今思えば待っている時間も楽しかったです。ずっとワクワクしていられましたから」
「ほう、そういう考え方もあるのか」
レレリスが俺様の分を取り分けてくれたのでお返しに俺様がレレリスに取り分けた。
「さあ、頂こうか」
俺様の掛け声にレレリスがスプーンを手にした。俺様も真似して持つ。反対の手で皿を持ち上げるとふわっと濃厚なチーズの香りが鼻まで上ってきた。
スプーンで掬い口に入れる。柔らかくなった米粒がトロリと溶けて俺様の舌を優しく包み込んだ。
トロトロだ。ご飯の甘みにまろやかなチーズの塩気がよく合う。
「うまいっ!!」
俺様は唸るように叫んだ。
「お? たまに口の中で何かがプチッと弾けな。これは何だ?」
「たぶん、ブラックペッパーです」
「ほう。この辛さがちょうどいいな。いいアクセントになっている。うまい!!」
俺様が食べ進めるとレレリスは微笑みながら目を潤ませた。
「良かったです。またこうして一緒に食べることができて」
「ああ、そうだな」
食べる手が止まらずあっという間に皿が空になった。鍋に入っていたリゾットをこれでもかと自分の取り皿に入れ、すぐに口に入れる。
「うん、うまいっ!!」
「ウフフフフ。人間化したお姿と本当のお姿、全然違うと思ってましたが一緒ですね。ウフフフフ」
「ん? 本当か? あんなみすぼらしいのと一緒なのか?」
「みすぼらしくなんてありません。あのお姿はとっても可愛らしくて、今のお姿はとってもカッコイイです」
レレリスがはにかみながら頬を赤く染めるので、急に頭が真っ白になった。あんなに濃厚だったチーズリゾットの味がしない。
「またこうして食べられますよね? 次は何を作りましょうか?」
レレリスが上目遣いで問いかけてくる。
「お肉が好きならお肉料理。お魚が好きならお魚料理……スイーツ系なんかも作れますよ。あ、そういえばパスタはまだ食べてませんよね?」
「レレリス」
「はい」
「今度は買い物から一緒に行かないか?」
「え?」
「料理を習いたいんだ。俺様は何を買ったらいいかもわからない。料理をイチから教えてくれないか」
皿とスプーンを置き、誠意を込めて頼むとレレリスも食べる手を止めて俺様を見つめ返した。
「はい! ぜひ行きましょう! ウフ、ウフフフフ」
やたらと笑っているレレリス。そんなに面白いことを言っただろうか。魔王が料理したいだなんて変なのだろうか。
「何を笑ってるんだ?」
「一緒に買い物をして、一緒に料理をして、一緒に食事をする……それってとっても親密な気がするなーと思って」
レレリスは言うなり真っ赤な顔を両手で覆った。
(一緒に買い物をして、一緒に料理をして、一緒に食事をする……)
自分とレレリスで想像してみると何だか「友達」を超えた関係に見えてボッと顔に火がついた。
いやいやいやいや。俺様は魔王でレレリスは人間だ。ないないない。「友達」を超えた関係になるなんて絶対にない。
誰が見てるわけでもないのに必死に頭を左右に振って否定する。
「魔物の皆にも人間界の食事を食べさせてやりたいんだ。だから料理を学びたいんだ。ただそれだけだからな」
「あ、そうなんですね」
「あ、そうだ! 俺様は魔界にカジノを作りたいと思ってるんだ。いかにも楽しそうだろう? カジノは何をするところなんだ?」
「え? えっと……カードとかスロットとか。そういうゲームができるところだと思いますよ。私も行ったことがないので詳しくはありませんが」
「そうか。では他にオススメのスポットはないか? 俺様はもっと魔界を楽しくしたいんだ」
恥ずかしさを隠したくて言葉をまくし立てた。レレリスは呆気にとられながらも俺様の質問に悩みつつも答えてくれた。
魔界と人間界がこれからもっと変わっていったらいい。ああ、レレリスが魔物くらい長寿だったらどんなにいいだろう。
魔物と人間が「友達」を超えた関係になっても、それこそ「家族」になってもおかしくないくらいの世の中になってくれたら。
俺様はそんな夢みたいなことを考えながらレレリスと食事を続けた。
遠くからウメモモやカブコスが子供と戯れている声が聞こえてくる。
カブコスは魔物の姿のままなのに受け入れられているんだろうか。もしかしたら、俺様の思い描く未来は近いのかもかもしれないな、と淡い期待が胸に浮かんだ。
「魔王に転生した俺様は魔界の食べ物が苦手なので人間界に下りてみた」
これにて完結になります。
最後まで読んでくださり、誠に有難うございました!!
書けそうだったら後日、後日談でも書いてみようと思います^^




