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46話

 翌日の午後、俺様は臨時の魔界会議を開いた。

 そこで俺様はガルーゴラ国との1000年にわたる争いを改めて話し、また昨日その国と友好関係を結んできたことを報告した。

「そんなことが昨日あったなんて」

「歴史的なことだな」

「これから魔界が変わるかもしれないな」

 集まった魔物たちは信じられない様子でザワザワと騒ぎ始めた。騒がしい室内で俺様は呼吸を整えた。もうひとつ、この場で言っておきたい事がある。どんな反応が返されるかわからない。最悪の場合、魔王をやめることになるかもしれない。

 もう1度ゆっくりと深呼吸して目を開く。

「みんなもう1つ報告があるんだ」

 俺様が声を上げると魔物たちは一斉に会話をやめた。

「みんなにはずっと黙っていたがな……俺様は……実はな……」

 全員が俺様を見つめ、続く言葉を待っている。

「実はな……元人間なのだ」

「「「「「「「!!!」」」」」」」

「黙っていて悪かった」

 俺様は頭を下げた。先程とは比べ物にならないほど会議室はシーンと静まり返り、物音ひとつしなくなった。

「転生者、というのを知ってるか? 生まれ変わる前の俺様は貧しい小作人の少年だったんだ」

 魔物たちはみんな目を丸くした。ネビロウスはまさに開いた口が塞がらない状態で、固定魔法でもかけられた様に動かなくなった。元々人間嫌いということもあるし、魔王召喚を行った本人だから、ということもあるんだろう。明らかに放心状態だ。


 ススーがおずおずと手を上げた。

「魔王様が元人間だから人間の国と友好関係を結んだんですか?」

「かもしれない。人間界の自然や人間、食べ物。全てを大切に思っている。魔物と人間、どちらも経験した身としては両者が争うのをもう見たくない。できればお前たちにも人間界を大切に思ってもらいたいと考えている」

 再び会議室が静まり返った。

「魔王様」

 普段の気の抜けた表情とは打って変わり、厳しい顔つきでオーク長が立ち上がった。

「人間が我々にしてきた仕打ちを考えれば、オラは到底人間を許せそうにありません」

 オーク長を見上げる魔物たち。うんうんと頷く者もいる。

「確かに……そう思うのも分かる。でも次の世代のためにも。もっと楽しく豊かに暮らせるように、少しずつでいいから意識を変えてみてはくれないか」

「……しかし……」

 オーク長だけでなく、皆の顔つきが厳しいものに変わった。

「前世の俺様はなんの権利もない子供だった。明日食べる物も無い毎日を必死に生きたんだが、成人するより前に死んでしまった。争いが起こると真っ先に命が失われるのは前世の俺様のような弱者だ。弱者は死んでも仕方がないなんて俺様はまったく思わない。弱者だって夢を追い、楽しく暮らせる世界を俺様は作りたい」

「……」

「難しいことだとは思う。綺麗事では済まない感情もあると思う。でも俺様は魔王としてこれから悲しみや恨みをもう生み出さない努力をしていくから、付いて来てくれないか」

「……」

 オーク長は何も言わずに腰を下ろした。すぐ納得できる訳がないよな。頭ではわかっていても心がズンと重くなる。

 進行役のネビロウスをチラリと見ると、いまにも机に突っ伏してしまいそうなほど俯いていた。話せそうにないな。今日は俺様がまとめることにしよう。

「とりあえず、今日の臨時会議は以上で終わりに……」

「待ってください」

 ネビロウスが顔をあげた。

「それは私の役目です。取らないでください」

 不機嫌そうな声。まさか俺様が元人間だったことで見方が変わってしまったのだろうか。

「魔王様。私を含め、ここにいる者は人間嫌いばかりだ。そんな中、元人間だなどと言いづらかったでしょう?」

「ん? ああ。確かに」

「驚きはしましたが勇気ある告白。有難うございました」

 ネビロウスはスッと立ち上がり、俺様に向かって頭を下げた。どう言うことだ。もっと時間をかけてわかってもらおうと思ったのに。

「私はずっと魔王様を見てきました。だから思うんです。元人間だろうが魔王様は魔王様だ。種族など、何も関係ないと」

 まるで他の魔物たちにわざと言い聞かせるように声を張り上げる。そしてみんなに見せつけるようにしてその場に跪いた。

「私はこれからも魔王様への忠誠を誓います」

「……」

 スッとアテリナが立ち上がり、ネビロウスと同じポーズを取った。

「アテリナも誓いますわ!」

「オイラも!」

 カブコスも同様に跪く。やがてススーや他の魔物たちがぞろぞろとネビロウスと同じように跪いて頭を下げた。

 席を立たなかったのは1人。オーク長だ。

 しかしやがて唸るような声を出して立ち上がった。

「オラは人間を許してません。でも、これからの魔界のためにも。オラも魔王様に忠誠を誓います」

 ゆっくりと、でも確実に跪く。

 ひとりひとりの姿を見つめながら、俺様は何度も何度も「ありがとう」「ありがとう」と心から言葉をかけた。




 それからの毎日は忙しかった。

 魔界の魔物たちに今の暮らしの不満を聞いて回ったり。

 人間界に散らばる魔物たちに『先に手を出されたらやり返しても良い。ただし絶対に命までは取らないようにしろ』と釘を刺して回ったり。

 ダンジョンをより複雑化させ、謎解き要素のある仕組みへと変化させたり。

 魔界を今より楽しくするにはどうしたら良いかと会議を行ったりした。

 人間界へ行くとレレリスには言ったものの、中々時間が取れない。そして相変わらず魔界の飯はマズかった。

(絶対に人間界へ行き、レレリスに会うんだ)

 心の中でそう言い聞かせ、俺様は1日に3回の食事を何とか乗り切っていた。


 ようやく落ち着いた2週間後、俺様はカブコスを背中に乗せて人間界へと向かった。

 まずはレレリスに会い、レレリスからウメモモがどこにいるか聞くつもりだ。

 開放的な青空を飛びながら居場所カードに目を落とす。レレリスは川沿いの小さな集落にいるようだ。

 やがて目標の地形が近づいてきた。

(ん?)

 この景色は見覚えがある。レレリスとパエリアを食べた場所じゃないか。懐かしい。

 魔王の姿のままで集落に降り立つのは良くないだろう。どこかで人間化しなければ。まだまだ魔物に対する警戒心が強いに違いない。こんな小さな集落なら尚更だ。

 レレリスと食事をした川岸の砂地に降り立ち、俺様はカブコスを下ろした。

「良い所っすねー」

 呑気に景色を見て和んでいるカブコス。

(コイツ……また太っただろ……重くて腰が痛過ぎる……)

 腰をトントンと叩きながら恨みを込めた眼差しを送る。

「カブコス、変身させるぞ。人間を怖がらせない方が良いからな」

 そう言って顔に指を向けると「いたいたー!!」という元気な声が背後から聞こえてきた。

 この大声は聞き覚えがある。振り返ると案の定ウメモモが走ってきてガバッとカブコスに抱きついた。

「やっと来たねー! カブコス!!」

 レレリスに会えると思って来たのに、ウメモモがやって来た。しかも物凄くタイミングが良い。

「オイラがここに来るってなんでわかったの!?」

「レレリスとカード見てたから!」

 ウメモモはにっこりと微笑んだ。

 振り返るとレレリスが立っていた。

 もう戦闘服ではなく、白いワンピース姿。太陽の光を全身に受け、眩しく光っていた。


次回、最終回になります。

ここまで読んでくださった方、誠にありがとうございます。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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