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44話

 俺様が顔を近づけると、国王は目を白黒させた。そんな国王の顔面に俺様は自分の右手の平を見せた。

「見ろ、この手の平から俺様は衝撃波が出せるんだ。劇薬の100万分の1にも満たない衝撃だがな」

 首を横に振る国王の肉付きの良い腹に俺様は手の平を押し当てた。

「や、やめ……」

「体にこの威力を叩き込むがいい」

 ウメモモや勇者を飛ばした時よりもっと重く、深く。手の平に力を込め、衝撃波を出した。


 ガアンッ!!

 国王は玉座ごと吹っ飛ばされ、石壁に激突した。破片がパラパラと落ちる音がする。さすがは大国の玉座だ。壁は穴が空くことなくヒビ割れただけだ。黄金の玉座も僅かにへしゃげただけで形を保っている。

 玉座と国王がズルズルと床に落ちてくる。玉座に座る国王は白目を剥き、泡を吹いていた。

「おい、気絶している場合ではないぞ」

 頬を叩いて国王を起こす。あの劇薬の威力がどれほどだったのか、この体にしっかりと刻み込まなければ。

「いいか、今の威力の100万倍だったんだぞ。どれほどの威力だったか分かるか?」

 うんうんと頷く国王。

「こんなに危険な物をそなたは勇者に渡したのだぞ。いつどこで奴が使うかもわからずに、だ」

 うんうんと頷く国王。

「娘が同行してたんだぞ。クレアはそなたが劇薬を勇者に渡した事実を知らされてなかった。娘が巻き込まれるとは考えなかったのか?」

「……」

 国王はゆっくりとコココを見上げた。その瞳に涙を流しているコココが映る。いつだって人形の様に冷静だったのに。そういえば、巨体に変化した勇者を見た時も、コココはかなり取り乱していた。あれは劇薬が使われたことによるショックもあっただろうが、娘である自分の命を父親が気に掛けていないと分かったショックもあったんだろう。


「もう1度味わってみるか。次は10万分の1の威力にしよう」

 再び腹に手の平を押し当ると、国王は涙や鼻水、涎などあらゆる所から液体を垂れ流して声を絞り出した。

「や、やめてくれ!! 我輩が悪かった! 許してくれ!! 浅はかな行動だった! 許してくれ……許してくれ……許してくれ……」

 額を床に擦り付ける国王を見て、やっと自分の罪を自覚してくれたと俺様は安堵した。

 ふう、と息を吐いて国王から離れ、呼吸を整える。

「今度ベガズアの長官と会談がある。その時は今と同じ様に謝るのだ。自分で自分の罪を償うのだぞ」

「……」

 言葉はなく、静かに頷く国王。


 ふと周囲を見回すと、廊下も裏の出口もシーンと静まり返っていた。兵士はどうしたのだろう。まさか全員倒したのだろうか。

 アテリナを見るとニコッと微笑まれた。意図がわからない。

「入ろうとする者はもういません。魔王様の声が外にも聞こえたのでしょう」

 国王を助けようとする者がいなくなったということだろうか。

 時を合わせる様にして廊下側の扉からウメモモとカブコスが入って来た。

「兵士の皆さんにはお帰りいただきました!」

 ケロっとした顔でウメモモはニッコリと笑った。カブコスが扉を開けて廊下を見せる。確かに、鈍く光る廊下にはもう誰の姿も無かった。


「ガルーゴラ国王よ。そなたに言いたいことが3つある」

 平伏する国王に俺様は指を3本立てた。

「いいか、心して聞くように」

 国王はまた静かに頷いた。

「まずひとつ目。そなたは国王の座を下り、そしてその王座をこのクレアに明け渡すんだ」

「……」

 ゆっくりと国王がコココを見上げた。俺様もコココを振り返る。先ほどまで泣いていたコココはすでにいつもの無表情に戻っていた。凛とした姿勢で国王を見返している。

 既に森の中でコココとは次期国王となる話がついている。了承してくれるはずなのだが。


「虹色の粒を知っているということは、コココは王族なのではないか? 次期ガルーゴラ国王になる気はないか」

 俺様の問いかけにコココはしばらく黙っていたが、やがて頷き、「自分しかいないでしょう」と言った。


「お父様、私にお任せください」

 コココは国王に跪いた。

 レレリスやウメモモを視界に入れる。すると、2人とも同じ表情をしていた。目をまん丸にして口を開けている顔だ。思わず笑いがこみ上げる。昨日まで旅をしてきた仲間が国王になるのだから、驚いて当たり前だよな。


 みんなの視線を感じ、俺様は咳払いした。厳しい顔を作って指を2本立てる。


「ふたつ目、現存している虹色の粒、及びその研究資料は全て俺様がこの世から抹殺する。もし現物を隠したり再び作ろうと動くなら、そなたを勇者と同じ目に合わせると思え」

「……」

 虹色の粒ほど危険な兵器は2度とこの世に生み出してはいけない。後世に残すことなく、脅して意のままにするための道具、ましてや威嚇として持つことも許さない。粉塵も残さないほどに抹殺してやる。


「3つ目……これが最後となるが……」

 言葉に詰まった。3本に立てた指が力なく下がっていく。

「そもそもの話だが……そちらの姫とユニコーンの件だが……」

 威圧した後だから言いにくい。でもこれはいつか必ず言おうと思っていたことだから、言うしかない。

 構えていた国王は急に何のことを言っているのかと、目を瞬いた。

「その、1000年前、ユニコーンがそちらの姫を傷つけた件だがな……」

「はあ」

「あれはこちらの魔物が悪かった。申し訳ない」

 深く長く、俺様は国王に頭を下げた。

「なっ……」

 力んで硬くなっていた国王が俺様を見上げて口を開ける。

「何を今更……」

「魔界にある書物、あらゆる魔物の生態を調べてわかったのだ。ユニコーンはそもそも乱暴に扱われずとも暴れることがあるらしい。だからそちらの姫は悪くなかったのだろう。疑って申し訳なかった」

 俺様はもう1度深く頭を下げた。

「まさか……1000年も昔のことを謝られるとは……」

 

(!?)

 不思議な気配を感じて振り返ると、ネビロウスやアテリナ、カブコスも頭を下げていた。

 俺様の気持ちに賛同してくれたのだろうか。『魔王なのに頭を下げるなんて情けない』そう思われると思っていたが、まさか同じ様に頭を下げてくれるとは。

 俺様は国王に向き直った。

「どうだ、国王。姫とユニコーンの件、許してはくれないか。ガルーゴラ国と魔界の争いを今日で終わりにしたいんだ。そなたの返事を聞かせてくれ」

「……」

 国王は体を起こして胡座をかくと、フンと鼻で笑った。

「許すも何も……我輩は先祖がされた仕打ちなど、なんとも思ってないわ」

 言いながらケラケラと笑い始めた。

「もう過ぎたことだ。1000年も前のことだぞ。いつまでも気にしているそちらの感覚がおかしいのではないか?」

 馬鹿にされたと思ったのか、ネビロウスが1歩前に出る。

「何だと!?」

 国王はコココを見上げた。

「クレア、国を頼むぞ」

「……はい」

 静かに、でも確実にコココは首を縦に振った。

「許そう……魔王ディブール、及び全ての魔物を我が国は許そう」

「ワッ!」

 みんなが一斉に歓声をあげた。

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