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43話

「ギャー!!」

 耳をつんざくような悲鳴がこだました。王妃様が魔王を見上げ、椅子からズリ落ちる。そんな王妃様にコーデリア様が抱き着いた。

(始めて見たらやっぱり怖いわよね……)

 ラディさんだと分かったから私はもう怖いなんて思わないけど。何だったらカッコイイとすら思ってしまうけど。実物の魔王を目の当たりにすると、その迫力や大きさに王族だって絶望してしまうんだろう。

 妙な気配がして後ろを振り返ると、カブコスさんやアテリナさんが変身を解除していた。どういう仕組みかはわからないけどお洋服も元に戻り、私のポンチョも復活している。続いてネビロウスさんも元の姿に戻った。美形執事からダークエルフへ。

 ひと回り大きくなった彼らを見上げる王族の皆さんはどんどん顔色が悪くなっていく。


「ひ……ひっ……」

 悲鳴にもならない声をあげ、王妃様はコーデリア様を連れ、裏の出口へと走った。コーデリア様は泣きじゃくってうまく歩けない。

「お……おいっ!」

 国王様が出て行く2人を呼び止め、後を追いかけようと立ち上がったが、すぐさまアテリナさんが翼を広げ、その出口を塞いだ。アテリナさんは出て行った王妃様やコーデリア様を追いかけようとしない。わざと逃したようにも見えた。話があるのは国王様だけらしい。

 行き場を失った国王様は動こうとしない衛兵に目をやった。

「おい、お前たち」

 ガシャン。

 見たのと同時に衛兵は全員がその場に崩れて倒れた。

(!? 何もされていなかったはずなのに、どうしたんだろう……)

「だっ……誰か! 誰か、兵を呼べ!!」

 国王様は叫んだ。だが返事はどこからも聞こえてこない。

「誰かっ、ク、クレア!! 我輩を守りなさい! こっちへ来なさい!」

 手招きする国王様に導かれ、コココさんがゆっくりと前へ進み出た。

「お父様、怒鳴らなくても聞こえています」

 コココさんが横に立つと、国王様は手を伸ばし、その腕にすがった。

「ク、クレア……こやつらはどうしたのだ? 魔王に何をされたのだ?」

 床でぐったりと倒れている衛兵を一瞥し、国王様はコココさんを見上げた。

「ただ気絶しているだけでしょう。時期に目を覚ましますよ。安心してください」

「そうか。ならばお前の魔法でこやつらを起こせ。そして我輩を守らせるんだ!」

 震える国王様を支えながら眉を下げるコココさん。

「起こしてもまた気絶するだけです。もっと堂々とされてください」

 コココさんは国王様の手をポンポンと、優しく叩いた。

 確かに今の国王様のお姿はだいぶだらしない。何十万と集まる観衆の前で、堂々と挨拶をなさっていた方とは思えない。

「普通に座ってください。魔王ディブールはただ言いたいことがあるだけなのです」

 コココさんが腕を離そうとすると、国王様は急に眉をしかめた。

「おい、何なのだ……クレア、お前。まさか魔物側に寝返ったのではあるまいな?」

 離れない様に必死に掴んでいた腕を振り払い、国王様はコココさんをドンと押し退けた。

「お前は……昔から何を考えているかよく分からん子だった……。必要以上に魔法の勉強をして……冒険したいと言い出して……そうか! 初めからこうして我輩に楯突くつもりだったんだろ!」

 睨みつける国王様の目は、蚊帳の外の私の胸まで痛むような、軽蔑した憎しみが込められていた。実の父親からこんな風に睨まれたらどんなに傷つくだろう。ふと見ると、コココさんの手にグッと力が入った。

「楯突くつもりなどありません。話を聞いてください」

「魔物の話なんて聞いてどうする! 魔王、この地位がそんなに欲しいのか? お前のような魔物がこの国の王になったとしても、反乱が起きるだけだぞ! うまくいくはずがない!!」

 国王様は魔王を指差し、真っ赤な顔で激昂した。

「お父様……そのような話ではありません。あまりに取り乱しますと、最終的には手荒になりますよ」

 コココさんはそっと腰のポケットに手を入れた。そのポケットに杖が入ってることを私は知っている。

「ひっ!!」

 国王様もそこに杖が入っていることを知っているのか玉座の上で足を組み、小さく丸くなった。

 場内がシーンと静まり返る。

 静かになったことで私は廊下で声がすることに気づいた。振り返るとウメモモさんとカブコスさんの姿が無く、ガタガタと揺れる扉の向こうから男性の悲鳴が聞こえてきた。どうやら中へ入ろうとしいる兵士たちを2人が抑えているらしい。




   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 俺様は1歩前へ進み出た。

 この国の兵士がどれだけいるかわからない。これだけ発展した国だからきっと相当数いるんだろう。

 ウメモモやカブコスだけで抑えきれない可能性もある。裏の出口を抑えているアテリナも、扉が今にも開かれそうだ。早く話をつけなければ。

「ガルーゴラ国王よ。貴様にひとつ質問がある」

 俺様が近づくと、玉座に丸まっていた国王は更に体を小さくした。

「そなたが虹色の粒を勇者アットンに渡したというのは本当か?」

「……それは誰から聞いたんだ」

 ぶっきらぼうに答える国王。

「勇者が言ったのだ。どうなのだ?」

「……さあ? どうだったかな……」

 国王様はすっとぼけて首を傾げた。

「『劇的に強くなる薬だ。これで魔王を倒して真の勇者となりなさい』勇者はそなたからそう言われたようだが?」

「……フンッ。そんなこと言ったかな。言ったかもしれんが、それはアットンが悪いんだ。散々国の英雄だともてはやしてやったのに『最近チヤホヤしてもらえない』とアイツが文句を言うから、また旅に出て今度こそ魔王を倒してはどうかと、そう言って励まし、仕方なく秘密兵器を渡したまでだ。本当に使うなんて思いもしなかった」

 自分は悪くないと言いたげに俺様を見つめると、国王はまた体を丸めた。

 違和感を感じる。使うとは思わなかった物を渡す必要などあるだろうか。それに、あれは本物だった。ただやる気を出させる為だけならば偽物でも良かったはずだ。


「虹色の粒は300年前にガルーゴラ国の研究者が作った劇薬です。危険過ぎるシロモノとして我が国はこれを代々秘密兵器として隠してきました」

 コココが記憶を辿る様にして話す。

「でもその研究者が亡くなり、同僚も亡くなり、部下も亡くなり、真の威力を知る者はこの世からいなくなりました。でも試すなんてことはできません。だからもう誕生しなかったものとして、前国王が洞窟の奥深くに劇薬を埋めたんです。だから……それをわざわざ取り出して渡したならば、仕方なく渡したなどとは言えないはずです」

 コココが国王を見据える。

「勇者アットンは劇薬の存在も、自分ごと爆発する事実も知らなかったんですから」

「……」

 何も言わない国王。

 勇者と魔界。目障りなものを同時に爆破させ、消滅させようという思惑があったように感じる。でもその思惑が外れ、きっと腹立たしいのだろう。被害はなんとか最小限に食い止めたが、国王の浅はかな行動が数えきれないほどの危険を孕んでいた。それを自覚させなければ。


「そなたの行いがベガズアの何万という人を殺すかもしれなかったんだぞ」

「そんなの! 我輩のせいではない! あの馬鹿がまさか人間界で使うとは思いもよらなかったんだ!」

「貴様!! 魔界なら良かったとでも言うのか!?」

 怒号が聞こえて振り向くと、ネビロウスが剣に手を添えていた。

「さっきから聞いていれば貴様は……」

 スラリと剣を構え、ゆっくりと前へ進み出てくるネビロウス。

「ひっ……」

 頭を抱え、ガタガタと震える国王。ネビロウスの気持ちは分かるがそれでは何も解決しない。

「やめろ! ネビロウス!!」

 俺様は声をあげた。

「こんな男はお前が殺す価値もない。下がれ!!」

 しばらく睨みをきかせていると、ネビロウスは苦い顔で剣を腰に戻し、後ろへ下がった。

「俺様はな勇者の爆発をまともに食らったんだ」

 抱えていた手を下ろした国王に、俺様は瞬間移動して顔を近づけた。

「ひっ……」

「あの衝撃は凄まじかったよ。そなたにもあの感覚を味わわせてやろう」

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