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41話

 俺様は真下に広がる色とりどりの花や緑が点在する美しい街並みを見下ろした。

(ここがガルーゴラ国か……)

 勇者パーティの出身国。実に冒険者の7割がこの国の出身だ。そして魔物と人間が争うきっかけを作った国でもある。




 発端は1000年前にまで遡るーー。


 1000年前までの世界。人間と魔物は共存していた。同じ建物の中で暮らすほど、人間と魔物が隣にいることは極めて当たり前のことだった。

 

 だがある時、初代ガルーゴラ国王は1匹の魔物に怒り狂った。その対象は当時王城で飼っていた真っ白なユニコーンだった。そのユニコーンが第1王女である美しい姫に怪我を負わせたのだ。

 命に別状はなかったものの、姫は脚に一生消えない傷跡が残った。初代国王は怒りに身を任せ、このユニコーンを惨殺した。しかしそれだけで怒りは治まらず、軍を率いて国内にいる魔物の全てを排除しようと動いた。

 この行動に遺憾の意を表したのは当時まだ魔王となる前の魔人、ディブールだった。

「魔物はそもそも鏡のような存在です。乱暴に扱われたから乱暴な行動に出たに違いない。そちらの姫が先にユニコーンに手を出したのではないか」

 魔人ディブールは今後の魔物たちのためにも、関わり方を間違えなければ危険性がないことを強く訴える声明を発表した。

 しかし初代国王はこれをキッパリと否定し、また姫が侮辱されたと言って怒り狂った。

「魔人ディブールを討伐せよ! この世の全ての魔物を殲滅せよ!」

 そう言って国内外に呼びかけた。

 魔物は段々と住む場所を追われて行った。中には人間の手が行き届かない場所で住処を見つける魔物も居たが、多くの魔物が行き場を失くした。

「魔人ディブール様、どうにかしてください!!」

 多くの魔物たちの声にディブールは動いた。

 膨大な魔力を使い、空に魔界という新しい土地を生み出した。

 人間が攻めてこないよう、全体を覆う結界を2重に張り、魔物だけが自由に暮らせる場所を作った。追われていた魔物たちは逃げるようにしてこの魔界に住み着いた。

 人間を許せない魔物は居た。仕返しのために人間界に残ると言って聞かない魔物も居た。そんな魔物たちにはダンジョンを与え、人間と戦う場を設けた。

 魔物たちは次第にディブールのことを「魔王」と呼び始めた。


 だがそんな魔王ディブールも、土地を生み出すという大仕事をやった為なのか、寿命よりはるかに早く息を引き取った。

 慕っていたネビロウスは慟哭しながらも魔王を再び目覚めさせようと召喚の儀式を行った。1年にも及ぶ試行錯誤の末、ようやく誕生したのが新生魔王ディブールだった。




 俺様は10年前の戦いの後、この内容が記された書物を読んだ。自分の魂の器となった前魔王はどんな悪行を行ったのかと、内心ヒヤヒヤしながら読んだのだが、そんな内容は一切書かれていなかった。魔物の視点から書かれたものだから、ということはあると思う。だが、仕返しではなく魔界を作った行動に俺様は共感した。

 ディブールの後継として俺様が選ばれたのなら。俺様なりの方法で新生魔王を全うしよう。そう心に誓った。


 王城の近くまで飛んで行く。ガルーゴラ国は想像の遥か上を行く程に発展していた。

(こんなに整備の行き届いた街並みは初めて見る……これ以上ない程なんでも揃っているじゃないか)

 これほど豊かな国の王が、自給自足で細々と暮らす魔界を滅ぼそうとする理由はなんだろう。ただの暇つぶしではないかと思える程、裕福な暮らしぶりだ。




   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「コココ少しいいか?」

 ガルーゴラ王城より少し北に位置する森の中に魔王は降り立った。

 カブコスさんを乗せたネビロウスさんが、まだここまで辿り着きそうにないらしく、その間に何やら話があるという。

「何の話でしょう?」

 私はウメモモさんに近寄って耳打ちした。

「さあ?」

 ウメモモさんは木々の間から、真剣に話し合う2人の様子をチラリと見た。

「ここにいる私やウメモモさん、アテリナさんには聞かれたくないのでしょうね?」

 少し寂しい気持ちを押し殺しながら私も2人を見つめる。

 離れた位置で森の様子をキョロキョロと見回していたアテリナさんが「思ったより寒い」と言って私のポンチョを取りに来た。着てくれて良かった。魔王と親しそうだけど、どういう間柄なのだろう……。


「えっ!!」

 思わず口に手を当てて固まった。アテリナさんに気を取られている間に、魔王はいつの間か人間化し、ラディさんの姿になっていたのだ。

 やっと抑えた涙がまた込み上げてくる。

(ああ、ラディさんだ……)

 魔王の姿でも全然良いけど、この姿との思い出が私には沢山ある。折角この姿がまた間近で見られるのだから瞼に焼き付けておきたいのに、目が潤んでしまってよく見えない。

 近くまでやって来たラディさんとふと目が合った。サラサラの金髪が風に揺れる。

(可愛い! カッコイイ!! 大好き!!)

 胸の鼓動がうるさくって落ち着かない。


「ま、魔王様なのですか!?」

 アテリナさんが私を押し退け、ラディさんに近づいた。

「なんて可愛らしいのでしょう!」

 アテリナさんはジロジロとラディさんの全身を舐め回すようにして見ると、ガバッと抱き締めた。

 丁度豊かな胸の位置にラディさんの顔がくる。埋れていてよく見えないけど、顔が赤くなっている。

(悔しい……)

 私だってラディさんに抱きつきたいのに。


「ハア……ハア……やっと着いた……」

 疲れ切った声が聞こえて空を見上げると、カブコスさんを乗せたネビロウスさんが崩れ落ちるようにして下りて来た。森に入って来たネビロウスさんは、地面にそのままザザッと横になり、ゼエゼエと苦しそうに肩で息をした。

「ありがとね、ネビロウスー」

 カブコスさんが申し訳なさそうに苦笑いして立ち上がった。

「丁度良かったお前たち。揃ったな」

 そう言ってラディさんが近づくと、ネビロウスさんとカブコスさんは怪訝そうにラディさんを見つめた。

「誰だ、貴様は」

「ま……まさか魔王様?」

 目を丸くしたカブコスさんがラディさんに駆け寄る。ネビロウスさんは全く信じられない様子で何度も目を擦った。

「ああ、あまり見せたくはないのだがな」

 ラディさんは頬を赤く染め、苦々しい顔をしながら頭を掻いた。

「もっと威厳のある姿なら良いのだが、人間化するとこういうみすぼらしい姿になってしまうんだ」

「ど、どうして人間化するんですか!?」

 ネビロウスさんがようやく魔王だと理解したらしく、怪訝そうな顔のまま立ち上がった。

「王城に入るためだ。入る前から警戒されないようにだ。ほら、お前たちも人間化するから俺様の前に並べ」


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