40話
「爆発を見たら、気絶してしまって……」
「気絶?」
倒れている間にアテリナに何があったのだろうと心配したが、そうではなかったことにホッとする。
「ショックが大きかったんでしょう。アテリナは本当に魔王様が大好きなんです。『アテリナも結界の中に入る』とそれはもう大騒ぎでした」
引き止めることに相当苦労したのか、疲れ切った様子でネビロウスは自分の腕をさすった。
「魔王様が目覚めるまではあのままにしておこうと思いまして。カブコスはただ見守らせているだけです」
アテリナの足元にちょこんと座っているカブコス。大きな身体が心配そうにアテリナを見ていると思ったら、ふとこちらへ顔を向けた。俺様と目が合うとパーッと顔が明るく輝き、大きく片手を振った。
カブコスに手を振り返しながら、俺様はネビロウスに聞いた。
「コココは? あの背の高い女はどこへ行ったんだ?」
「さあ?」と肩を竦めるネビロウス。すると、ウメモモが声をあげた。
「ベガズアに行ったよ。長官に会いに行くとか言ってた」
「ほう……」
(長官?)
ベガスアを治めている者のことだろうか。一般人が行って会える人物なのだろうか。虹色の粒のことも知っていたし、コココは一体何者なのだろう。
そうやって思案していると、生温かい風が通り抜けた。
(……まあ、いい)
勇者は倒した。レレリスは生きている。人的被害は無い。(3幹部は傷だらけだが)
あと、俺様がやるべき事はひとつだ。まあ、これが最難関かもしれんが。
「ネビロウス」
「何でしょう?」
「もうしばらく魔界に帰らずとも良いか?」
「え、どうしてです?」
「行きたいところがあるのだ」
それからすぐにアテリナは目を覚ました。ネビロウスと今後について話し合っていたらザクザクと砂を駆ける足音が聞こえ、気付いた時にはガバッと抱きつかれていた。
「魔王様ー!! よかったー!! うわーん」
俺様の胸の中でワンワンと泣き叫ぶアテリナ。生腕や生背中、生足と露出度の高過ぎる服はそのままだ。気絶するほどの心配をしてくれたのだから背中に手を回すぐらいのことはしてやりたいのだが、レレリスの視線が痛い……。そんな鋭い目で見ないで、と思ってしまう。
「ぐすっ……おケガはありませんか?」
アテリナは俺様の両頬に両手を当て、ジーッと目を見つめた。
「ああ。無いよ」
「それは良かったです……ぐすっ」
無いと言ったのに、潤んだ瞳は俺様の身体を隈なく確認し始めた。時には衣をめくってまで確認しようとするのでかなり焦った。
(いや、レレリス……マジでそんなに見つめないで)
そんなことをやっているうちにコココがベガズアから戻って来た。俺様はアテリナを押しのけ、慌ててコココに近づく。
「コココ」
「……」
立ち上がる俺様を下から上に見上げ、コココは呟いた。
「回復されたんですね」
「ああ。それより長官とどんな話をしたのだ?」
「……この戦いの経緯を話してきました」
「戦いの経緯?」
「はい。長官から『ガルーゴラ国王と会談の場を後日設けましょう』とのお言葉を頂きました」
「ふむ。ならば我々は長官の元へ行かなくて良いのだな?」
「ええ。魔王である貴方が今訪れるのは向こうにとって恐怖でしか無いでしょう。街の人々や街自体が回復するためにもまだ魔物は干渉しないほうが良いと思われます」
コココは後ろを振り返り、瓦礫が散乱した街を一瞥した。
「分かった。ならば今から俺様をガルーゴラ国王の元へと案内してくれないか」
「……はい。分かりました」
コココはそう言われることを予想していたように、顔色ひとつ変えず落ち着いて答えた。
魔王軍3幹部も付き添いたいというので、レレリスとコココとウメモモ、そして我々魔物4体は共にガルーゴラ国へ向かうことを決めた。
歩いていくと半年はかかる道のりだ。アテリナと人間の女3人を背中に乗せ、俺様は空を飛んだ。飛べないカブコスはネビロウスの背中に乗った。だがカブコスが重いせいか、ネビロウスは俺様よりも下の方をヨロヨロと進んでいる。
「あのー、アテリナ……さん、でしたよね?」
俺様が飛び立ってしばらくすると、背中でレレリスが声を発した。
「な、何?」
不意を突かれたようなアテリナの声が腰の位置から聞こえてくる。
「これ、どうぞ」
何かを差し出しているらしい台詞。何だろう。見られないのがもどかしい。
「ポーションとポンチョです」
「……ありがとう。何でこれをアテリナに?」
受け取ったらしいアテリナは戸惑ったような声を発した。
「あちこち火傷されてて痛々しいので。それに……みなさん目のやり場に困ると思うので」
「……何それ。ポーションは貰うけど、こっちはいらない!」
アテリナは刺々しく言った。
「アテリナはいいから自分で着なさい。困ってる魔王様を見るのがアテリナは楽しいんだから!!」
「なっ、何言って!! 着てください! はしたないですよ!」
「はあ!? 何なのアンタ! そんな純情そうな顔して、まさか魔王様を狙ってるんじゃないでしょーね?」
「なっ……何でもいいじゃないですか!! いいから着てください!!」
「ちょっと勝手に着せないでよ!!」
背中の上で何やら2人がゴチャゴチャと言い争って暴れ始めた。ただでさえ4人も乗せて飛びづらいのに、余計飛びにくいからやめて欲しい。でもこういうやり取りに、何て声を掛けていいか俺様は分からない。
「ねえ、ねえ2人とも。そんなこと言い争ってる場合じゃないよ?」
ウメモモがうんざりしたような声でたしなめた。
「アタシたち今、国王様の所に向かってるんだよ? ねえ、何をしに行くと思う?」
内緒話のつもりらしいが、元々大きな声のウメモモが普通の声量に落としたくらいなので俺様にも丸聞こえだ。
「仕返し……ではないでしょうか」
レレリスがやっと聞こえるくらいの小さな声で返事した。
「国王様は虹色の粒を使って魔界を爆破させるつもりだったと思われます。そのことに怒っているんだと思いますよ?」
「やっぱそうだよね……」
ウメモモが深くため息を吐く。背中の上が急にシーンと静まり返った。
「違う違う」
俺様は飛びながらも声を出した。
「怒ってはいるが、仕返すつもりはない」
「ええっ!!」
3幹部が揃って声を上げた。全員俺様が仕返しに行くと思っていたらしい。
「レレリスの兄は人間界にいる魔物の全てを魔界に閉じ込め、出さないようにしてほしかったのだろう?」
見えないが、俺様はレレリスに問いかけた。
「ええ。幼い頃から兄はよくそう言っていました」
「うむ。俺様はそれとは逆のことがしたいのだ」
「逆のこと……ですか?」
「ああ。そのための話し合いをする。そのために行くのだ」




