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33話

「んもう! ずるいですよ、魔王様もネビロウスも。人間を襲撃するなら我々にも教えてくださいな」

 頬を膨らませ、むくれながらアテリナがゆっくり下降してくる。

「ズルイズルイ! 戦いならオイラに任せてくだせえよ」

 アテリナの背中からヒョイっとカブコスが跳び下りると、砂がブワッと舞い上がった。

「あらネビロウス、怪我してるの? 可哀想ね」

 砂の上に立ったアテリナはネビロウスの腕を見て鼻で笑った。

「うるさい……」

 ネビロウスは口をへの字に曲げてそっぽを向いた。

「んん?」

 辺りを見回したカブコスは呆気に取られているレレリスとコココを見つけて目を丸くした。

「え……? まさか戦ってるのはこの娘さんたちですかい?」

 残念そうに眉が下がる。見られたレレリスとコココは不安そうにお互いを見つめ、やがて近くに身を寄せ合った。

「小娘2人の訳がないだろ、まだあと2人いる。すぐに戻ってくる」

 ネビロウスがそっぽを向いたままぶっきらぼうに返事した。


「うおおおおおおおー!」

 ネビロウスの言葉通り、威勢の良い声と共に人影がこちらへ向かってきた。その影は小さく、頭には熊耳のような影がある。ウメモモだ。

 ウメモモはブワッと砂を撒き上げて止まると、身を寄せ合うレレリスとコココの前に両手を広げて立ちはだかった。

「レレリス……コココ……ハア……無事でよかった……ってええ!? 敵増えてない!?」

 息を切らしながらこちらを見たウメモモはあんぐりと口を開けた。カブコス・ネビロウス・俺様・アテリナ。順にゆっくり見ていく。

「オーガ……ダークエルフ……魔王……サキュバス……」

 意外にも魔物に詳しいようで、我々の種族を当てていく。

「え? ちょっと待って……」

 違和感に気づいたらしく、ウメモモはキョロキョロと周囲を見回した。

「ねえ、アットンはどこ? まさか……また逃げたの?」

 また、とはどういうことだろう。俺様の胸に嫌な予感が走る。


 ブンブンと首を左右に振り「飛ばされました魔王に」と答えたレレリスの言葉を聞き、ウメモモは「あちゃー」と両手で頭を抱えた。

「かなりヤバイ状況だね……でもまあ、なんとかなるっしょ!」

 ニカッと笑うなり、俺様に突進してくる。


 シュン。目の前に黄色い影が見えたと思ったら、カブコスがウメモモの脇腹を殴って飛ばした。

「チックショー! もうっ! また飛ばされたー!!」

 ウメモモの悔しそうな声が遠くから聞こえる。追撃を喰らわせようと、カブコスはウメモモが飛んだ方向に走って行き、そのまま2人の姿は見えなくなった。


「……」

 またレレリスとコココが残った。

「じゃあ、アテリナは……アンタにしようかな」

 アテリナはコココを指差すと、バチンとウインクした。

 ウインクが危険だと察知したのか、咄嗟に俯いたコココはアテリナの手前まで瞬間移動すると、杖から炎を出した。

「アッチ!」

 アテリナの服と髪の毛に火がつく。慌てて火を振り払って消すアテリナ。その横髪はチリチリに焦げ、服も胸元が焦げて穴が空いてしまった。

「あったまきたっ! 許さないわよっ!」

 (いつもの猫撫で声は作ってたんだ)と思う程ドス黒い怒鳴り声を上げ、アテリナはコココの首を締め、そのまま上空へと高く飛んで見えなくなった。


「……」

 ひとり佇むレレリスと目が合う。レレリスは震える手で矢筒の中を探り、頬を引きつらせた。残りの矢が少ないのかもしれない。

 ネビロウスが抑えていた腕から手を離した。血だらけの手で剣を持つ。見据えているのはレレリスだ。行こうとしたネビロウスに俺様は声をかけて止める。

「ネビロウス」

 ネビロウスは驚いて振り向いた。俺様は首を左右に振った。

「あの女は俺様がやる。お前はそこで休んでいろ」

 こちらの声が聞こえたのか、レレリスが弓矢を構えた。その瞬間、俺様は瞬間移動してレレリスを左腕に抱きかかえ、上空へと飛んだ。




 暗い雲に覆われた空でレレリスは弓矢を抱えたまま俺様の腕に両腕を絡ませ、爪を立ててしがみ付いた。

(痛い……)

 すごい力だ。また落とされるとでも思っているんだろう。

 ここからレレリスを落とすことは簡単にできる。でももうそんなことはしたくないし、絶対にしない。

 俺様の視線に気づいたのか、レレリスが俺様を見た。ラディで会った時と同じ緑色の瞳だ。

(全てを打ち明けてしまおうか……)

 瞳を見つめながら、ふと思った。

(実は俺様は毎週会っていたラディだ。だからレレリスには死んで欲しくないと思っている。仲間を説得して退散してくれないだろうか)

 声に出すことができず、頭の中で言ってみる。俺様がラディだと知ったら、レレリスはどんな顔をするだろう……。

 ジッと見つめていたせいか、プイッと視線を逸らされた。

 魔王に見つめられるなんて気分が悪いよな……。胸がグッと締め付けられる。

(これからどうしようか……)

「えっ!?」

 突然、レレリスが身を乗り出して声を上げた。下を覗き込むようにして何かを見つめている。その先を見てみると……。

 勇者だ。

 飛ばした勇者がベガズアに向かって走っていた。もう赤いオーラは出ていない。ただひたすらに元いた場所とは反対方向に走っている。

(まさかベガズアに行くのか? まだ仲間が戦っているというのに?)

 俺様は首を捻りながら瞬間移動し、勇者の前に立ちはだかった。


「うおおおっ!」

 勇者は俺様を見るなり慌てふためいてその場に尻餅をついた。立ちはだかる俺様の左腕にはレレリスがブルブルと震えながらしがみついている。

 実のところ、誰かと一緒に瞬間移動したのはこれが初めてだった。レレリスがあのまま振り下ろされていなくて良かったと、今頃になって自分の犯した行動の恐ろしさが身に沁みる。

 そんな心の内は見せないように、俺様は平静を保って勇者に尋ねた。

「どこへ行く」

 勇者は立ち上がりもせず俺様を睨んだ。

「べガスアに盾を買いに行くんだ。悪いか?」

「戦いの最中だぞ」

 勇者は俺様の質問には答えず、ゆっくり立ち上がりながらレレリスを睨んだ。

「何なんだ……レレリス、貴様。魔王の仲間にでもなったのか? それじゃあ、まるで魔王のペットじゃないか」

 レレリスは目を丸くしてブンブン首を左右に振った。

「ぺ、ペットだなんてそんな……振り落とされないように必死に捕まっているだけです」

 気丈に返答したが、目が潤んでいるのが俺様にはわかった。

(さっきからコイツ、マジでムカつくな……魔界をゴミ捨て場だと言ったり、レレリスに強く当たったり……やっぱりコイツだけでも殺してしまおうか……)

 俺様は勇者を見下ろして唇を噛み締めた。黒い怒りがフツフツと腹の底に沸き上がってくる。


 バアンッ!!!

 突然、先ほどまでいた場所の上空から大きな爆発音が聞こえてきた。

(カブコスとウメモモか? いや、あの音は魔法でしか出せない音だ。ということは……)

 アテリナに何かあったかもしれないと、俺様はレレリスを抱えていない右手で勇者の首根っこを掴むと、元いた場所まで瞬間移動した。

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