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27話

「次に向かうのはノーデンベルクという山だ。この山は世界一高く、氷オオカミという魔物が生息している」

 勇者様はスタスタと山を登りながら、独り言のように説明してくれた。

「氷オオカミはごく稀に青い魔石を持っている個体がある。倒してそれを手に入れよう」

「はい」

「氷オオカミかあー、どんくらい強いのかなー? 早く闘いたいなー!!」

 ウメモモさんはピョンピョン飛び跳ねながら、拳をシュッシュッと前後させた。



 3日間。歩いて野営して、歩いて野営してを繰り返した。

 4日目の朝。目覚めた私は寒くてブルブル震えながらテントから出た。

 我々が目指している山は昨日よりも多くの雪に覆われ、真っ白く光っている。火の番をしていたはずの勇者様はいつの間にかテントに入ってしまったようで、焚き火はすっかり消えている。

「寒いはずよ……」

 私が吐息で手を温めながら火を起こしていると、ウメモモさんがテントから顔を出した。

「寒いっ、寒いっ!」

 ウメモモさんはお気に入りの毛布で体をぐるぐる巻きにしている。まるでイモムシのようズルズル這って近づいてきた。

「早くしてレレリスちゃん。火、早く」

「はい、はい」

「……はよ」

 コココさんもテントから出て来た。しかし寒そうには全くしていない。至って普段通りだ。そこへビュッと強い風が吹き、コココさんのローブやスカートをめくった。私とウメモモさんは寄り添って小さくなる。でも、生腕や生脚があらわになったコココさんは平然と欠伸をしている。

「さ、寒くないんですか?」

 付けた火で暖を取りながら見上げると、コココさんは杖を上げてニコリと笑った。

「あ……また自分だけ魔法を使ってますね?」

 私が恨めしそうに睨むとコココさんはニヤリと右の口角だけを上げて笑った。

 私は最近になってようやく気づいた。コココさんが時折歩かずに浮遊魔法を使っていたり、洗浄魔法で自分の身体だけキレイにしたりしていることを。


「私にもかけてください、その魔法!」

「コココッペー、アタシもー」

 私とウメモモさんは逃げるコココさんを追いかけた。コココさんは案外いたずら好きらしく、ニコニコと笑いながら逃げ回った。


「ふああ。おはよ」

 そのうち勇者様が気だるそうに起きてきた。うるさくしすぎてしまったかなと3人とも足を止める。

「みんな、この先の村で冬仕度をしようか。コココ、半日でいいからみんなに守温魔法をかけてくれ」

「……(コクリ)」

 コココさんは少しだけ頬を膨らませながら、ひとりひとりに守温魔法をかけてくれた。


 村に辿り着いた。氷オオカミがいる山から1番近い村で、年間で20人程の冒険者しか訪れない秘境だそうだ。それでもギルドや武器屋・防具屋、お土産屋や宿屋もあって中々充実している。

「野営で疲れたから、しばらくこの村で戦いに備えよう」

 勇者様はそう言うと、1番大きな宿屋へ向かった。


「すみません、ここの部屋を4部屋借りたいんですが」

 玄関前で雪掻きをしていたお姉さんに声を掛ける。

「ああ、旅の方? いいですよ、どうぞ中へ」

 お姉さんの案内で中に入った。玄関から入ってすぐにリビングがあり、奥には大きな暖炉があった。アットホームな作りの可愛らしい宿屋だ。

「ここは一棟貸しなんです。全部で丁度4部屋ありますので皆さんで好きに使ってください」

 話し合いの結果、2階の部屋は勇者様。3階の部屋はコココさん。4階の部屋はウメモモさん。5階の部屋は私が使うことにした。1階のリビングやキッチンは共同で自由に使えるらしいが、この村にいる間の食事は各自で摂ることになった。

 勇者様は荷物を置くとすぐに酒場へと消えて行った。これも最近になって気づいたけど、勇者様は結構な酒好きだ。一方女子3人は連れ立って服屋へ向かった。


「モコモコで可愛いー!」

「カラフルだしこれは悩みますね……」

「……(コクリ)」

 店内はカラフルな毛糸で編まれた防寒具が所狭しと陳列されている。

 コココさんは耳当て付きの黒いニット帽と太腿までのモコモコブーツを即買いした。

 私は毛糸のマフラーと耳あて、手袋を買った。

 ウメモモさんは散々迷った挙句、胸にドーンと氷オオカミの顔が編み込まれたセーターを買っていた。

 店内で着替えて良いとのことで、冬支度にして出てくる。モコモコの2人はとても可愛らしかった。

「似合ってるじゃん、レレリスちゃん。あったかいね」

「はい。これでコココさんに守温魔法かけてもらわなくてもすみますね」

 私がコココさんを見上げて笑うと、コココさんは優しく目を細めた。




 翌日。吹雪が吹き荒れる中、氷オオカミがいる山へ向かった。

「ワオーン」

 現れたのは雪のように全身真っ白い毛並みの大きなオオカミだった。人間よりもひと回りくらい大きく、氷のような瞳で、氷柱のような牙を持っている。

 1匹が現れたと思ったら、後ろからゾロゾロと群れもやって来た。


「行っくよー!」

 最初に飛び出したのはウメモモさんだ。自ら群れの中に入っていき、次々と氷オオカミを殴って倒していった。勇者様は向かって来た氷オオカミに次々と剣を振るった。

 コココさんは1歩も動かず、遅延魔法をかけて氷オオカミの動きを鈍らせていった。私は仲間のみなさんに襲いかかろうとしている氷オオカミに火矢を射った。

 そうやって何時間も100匹近く倒したのだが、肝心の青い魔石は出ない。凍てつく空気で呼吸が苦しい。みんなの顔にも疲労が見え始めた。


「ハア……ハア……出ないね」

「ああ、出ないな……一旦引くか?」

 勇者様がそう言って後退りした。次の瞬間。

 ぬらり。

 ひときわ大きい、全長3メートルはありそうな氷オオカミが勇者様のすぐ後ろに現れた。

「デッカ!!」

 ウメモモさんが巨体を見上げて叫ぶ。

「この子なら絶対持ってる!!」

 雪を蹴って走り、ウメモモさんは向かって行った。フワリと飛び上がり、振りかぶって氷オオカミの眉間を殴る。

『ガチン!』

 明らかに骨が折れたような鈍い音がした。

()ったー!! コイツ()ったいよ!」

 こちらへ教えながら拳をさすって痛がるウメモモさん。その後ろから氷オオカミが噛みつこうと口を開いた。

「危ないっ!」

 私は火矢を射った。火矢は口の中に入ったが、ジュッという音を出して火は消え、氷オオカミにペッ、と吐き出された。

 そこへ勇者様が向かって行った。雪を蹴り、後脚を駆け上がり、背中に剣を突き立てた。

「ギャウウウー」

 刺さった痛みで氷オオカミが暴れた。勇者様は背中に乗ったまま、振り下ろされないように剣にしがみついた。立っていられないほどの勢いだ。振り下ろされたら山の麓まで飛んでしまいそうだ。そこでコココさんが杖を向け、氷オオカミの動きを止めた。

 急に止まったせいで、勇者様はバランスを崩し雪の上にドサッと落ちた。

()っててて……」

「よっしゃ、今のうちー!」

 今度はウメモモさんがふわりと体を駆け上がり、背中に刺さったままの剣をズンズンと奥に押し込んだ。

「ヴヴヴーッ」

 氷オオカミが歯を食いしばりながら唸った。ユラユラと体を揺らす。コココさんの固定魔法を解除しようともがいているようだ。コココさんも魔法が解けないように眉をしかめる。

 私は勇者様にポーションの瓶を渡した。受け取った勇者様はそれをひと息で飲むと、ウメモモさんの元へ駆けていった。

「うっらああああああああ!」

 勇者様とウメモモさんが力を合わせ、剣を押し込んだ。剣は氷オオカミの体の核まで突き刺さったようで。

 パアン!

 弾けるように体が消え、小さな氷の欠片たちと共に青い魔石がキラキラとその姿を現した。

 雪の上に落ちたそれを勇者様は持ち上げた。

「青い魔石が出たぞ!!」

「ヤッタァー!!」

 我々の喜ぶ声が、山に響いてこだました。

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