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25話

 早速、我々は教えられた林の道を進んだ。日が落ちてきているので、暗くなる前には戻りたい。

 どれが肉食植物なのだろう。赤くて大きな花だというが、見た所苔の生えた樹木や草ばかり。目の前は緑一色だ。


「ギーッ!!」

 突然けたたましい鳴き声が林の奥の方から聞こえてきた。

「今のは何だ?」

「鳥の鳴き声のような……」

「行ってみよー」

「……(コクッ)」

 まるでかけっこのように全員で鳴き声の場所まで来てみたら……。


「!!!!」

 おぞましい光景に私はその場に固まってしまった。

 白い鳥が、タコをひっくり返したような赤くて大きな花に飲み込まれていたのだ。

 4メートルはあるだろうか。触手のような花弁がウネウネと縦横無尽に動いて、バタバタともがく鳥を奥へ奥へと押し込んでいる。

 鮮やかな赤は柔らかい日差しが差し込むこの林の中で、そこだけが異様で浮いている。鳥は徐々に動かなくなり、花の中へ飲み込まれていく。


「離せー!!」

 ウメモモさんが向かっていった。壁のような植物の幹にドンッと重たいパンチを撃つ。すると花弁のひとつがスルスルとウメモモさんを捕まえた。

「わっ!!」

 逆さ吊りになったウメモモさんが引き上げられる。

 私は慌てて弓矢を出し、花弁に火矢を射った。

(あれ? 火矢だったのに燃えていない……?)

 私がそう思ったら。ボォー!! っと左から火の手が上がった。見るとコココさんが火炎魔法を出していた。その火は周囲の木々を勢いよく燃やしていったが、当の肉食植物はビクともしていない。

 山火事を懸念したのかコココさんはすぐに水魔法を発射した。周囲の火はあっという間に消えたが、植物は水を吸ってムクムクっとひと回り大きくなった。

「ちょっとアタシがいることも考えてー!!」

 びしょ濡れのウメモモさんが宙づりのまま叫ぶ。

 私は毒矢を構えた。花弁、花の中心、茎。命中すると、植物はバチンバチンと揺れて大暴れした。

「うおっと!!」

 するんと花弁からウメモモさんが放り出された。地面スレスレでコココさんが魔法で衝撃を和らげる。

「よし、僕がトドメを刺そう」

 勇者様は地面を蹴り、高く勢いよく飛び上がった。木の幹から木の幹へ。蹴って花より高く飛んだ勇者様は真下に剣を振り下ろすと、花を真っ二つに切った。


 ダラリと分かれた赤い花から真っ赤な液体が流れ出た。白い鳥の姿はもう無い。

「よし、終了だ」

 勇者様が背を向けた次の瞬間。

 バチンッ! とぶつかり合う音がして、花はまたひとつに戻った。

「……」

 勇者様も私もコココさんも言葉を無くした。(コココさんはいつもだけど)


「そうか、わかった。根っこだ」

 ウメモモさんは素早く花の根っこに近づくと、地面に接している部分を何度も何度も殴った。繰り出すパンチと連動して地面がまるで地震が起きたように揺れる。

 ウネウネと動く花弁は素早いパンチの連打でウメモモさんをうまく捕まえられずにいる。徐々に赤黒い根っこがその姿を現し始めた。

「喰らえー!!」

 ウメモモさんが叫びながら力強く重たいパンチを放つ。ズボッと抜けた植物は空高く上がった。

 ゆらり。まるで空を泳ぐようにゆっくりと舞う。

 そこへ1歩前へコココさんが進み出た。無言で杖を植物に向ける。瞬間。植物は粉々に裂け、勝利を祝う紙吹雪のように散った。


「やったあー! やっつけたー!!」

 ウメモモさんは喜んでピョンピョンとジャンプした。私は呆然と散りじりになった植物を眺めた。改めて仲間の強さが凄まじくて震えが起きる。


「コココさん、今の魔法って……」

 返されないこともすっかり忘れて私は無意識に質問した。

「……粉砕魔法」

 クルッと振り返ったコココさんはやっと聞き取れるくらいの小さな声で言った。初めて声を聞いた。意外にも優しい声だ。

「ふ、粉砕魔法なんてあるんですね」

 繰り返してみたら、その言葉の恐ろしさを改めて実感した。この人たちが味方で本当によかった。




 真っ赤な夕日が照りつける中、集落へ戻ってきた。林の入り口で心配そうに待っていた人々は我々の元気な姿に盛大な拍手を送ってくれた。

「えへへ。やっつけたよん!」

 ウメモモさんは鼻をこすって照れ笑いすると、そのままフラッと前に倒れた。慌ててジンさんが受け止める。人々も慌てて駆け寄ってきた。

「こりゃ、まずい。植物の毒にやられとる」

 ジンさんが眉をしかめた。ウメモモさんは巻き付かれていたお腹が紫色に変色していた。

(気づかなかった……)

 唇を噛み締めながら、急いでリュックを下ろした。

「毒消し持ってます!!」

 私は毒消しの瓶を取り出し、ウメモモさんに飲ませた。

 紫色は元の肌に戻ったものの、まだ目を開けない。険しい顔つきのままだ。

「コココさん、回復魔法を」

 私がコココさんを振り返ったら、コココさんは首を左右に振った。

「え? どうして?」

「もう魔力が残ってないんだろ?」

 勇者様の言葉にコココさんは首を大きく縦に振った。

「どうぞ、皆さん。我が家で静養されてください。お礼もしたいので」

 ジンさんや人々の言葉に甘え、我々はしばらくこの集落でお世話になることになった。




「すまないが、付いて来てくれませんか?」

 翌日の朝食後。集落の男性2人から声をかけられた。聞くと漁を再開させたいが本当に肉食植物が居なくなったのか、確認したくても怖くてできないという。

「わかりました。行きましょう」

 コココさんはウメモモさんに付き添いたいと言うので、私は勇者様に付いて来てもらって彼らと共に林の道を歩いた。


「えっと……確かこの辺りに……あ、ここです!」 

 道を歩いて行くと、肉食植物が咲いて居た場所にボコッと大穴が空いていた。

 コココさんが粉砕させた花弁や葉は風に吹かれたのか、もうどこにもない。

「ああ、本当に根こそぎ無いんだ……」

 ひとりの男性が大穴を覗きながら声を震わせた。

「本当にありませんね。良かった……本当に良かった。ありがとうございます」

 髭を生やした父と同じ歳くらいの男性は涙ながらに深く長く私と勇者様に頭を下げてくれた。穴を覗いていた男性も続く。

「いえいえ。それよりもこのままでは危険です。穴を塞がなくては」

 勇者様のひと言で、林にあった岩や石、土や枯れ葉を次々に穴に落とし、穴を埋めた。そうして作った道を進んで行くと、やがて目的の漁場へと辿り着いた。

「わあー、キレイな海……」

 深い群青色の海がキラキラと輝いている。崖と崖に挟まれた小さな漁場だ。昨日食べられてしまった鳥と似た真っ白な鳥が青空を飛んでいる。

「ああ……そうです。この場所です」

「やっと来られた……」




 その日から我々は豪華な魚介類のご馳走を毎日振る舞ってもらった。

 ある晩はパエリアが出て、そのあまりの美味しさに私は自分の目が飛び出てしまったのではないかと思った。

「なんでこんな味が出せるんですか!?」

 隣に居たご婦人に聞いてみる。なんでもこの集落に伝わる秘伝のダシがあるらしい。

「秘伝だけど特別に教えてあげるわよ」と言われ、私は翌日教えてもらった。この味は絶対ラディさんにも味わってもらいたい。ラディさんが来るまでに習得してみせる。


 ウメモモさんは結局、3日間寝込んだ。3日間一切魔法を使わなかったコココさんが回復魔法をかけ、やっと全回復した。

「身体がなまっちゃったなー」

 そう言ってウメモモさんはストレッチやジョギング、筋トレなどを集落のあちらこちらでするようになった。それを見た子供たちがひとり、またひとりと動きを真似するようになった。

 畑の手伝いをしながらそんな風景を眺める。そしたらいつの間にかジンさんが隣に立っていた。

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