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23話

『ドゴォーン!!』

 指した所から、けたたましい音が響いてきた。

「な、何の音でしょう!? 熊でも出たんじゃ……」

 不安になってコココさんを見ると、コココさんは「さあ」というように首を傾げ、またすぐ火に向き直った。

(全然気にしてないみたいだけど、大丈夫かな……)

『ドゴォーン!!』

 また派手な音が響く。私は音を頼りにウメモモさんの元へ走った。

(音の大きさからするに熊じゃない。もっと大きな魔物かもしれない……あ、土埃が見える。あそこだ!!)


ドゴォーン!!

「……?」

 意味がわからなくて放心した。

 ウメモモさんはひとりで切り立った崖を殴っていたのだ。手に装着しているのは革のグローブのみ。それなのに崖には亀裂が走っている。ウメモモさんの身長より10倍以上もあるその崖は、また力いっぱい殴られ、ピキピキと音を立て、縦一直線に割れた。

「ん?」

 ふと気配で気づいたのか、ウメモモさんがこちらを向いた。

「あ! おはよー、レレリスちゃん。レレリスちゃんもここで朝練する?」

 大きく手を振ってニッコリと笑うウメモモさん。

(これがウメモモさんの朝練……?)

 私はトンデモない人と仲間になったのだと改めて思い知った。




「あら、勇者様?」

 2つ目の山を超え(今日も野営か……)と荷物を下ろしていたら、ひとりのおば様が声をかけてきた。目の細い、優しそうな方だ。

「ウチに寄りませんか? おもてなしさせてください」

「いいんですか。みんな、どうする?」

 どうやら勇者様のお知り合いらしく、全員を1泊させてくれるとのこと。私は首が折れる勢いで何度も頷いた。

 初めは楽しかった野営も、もうウンザリしていた。(ベッドで眠れるんだ!)そう思ったら、勝手に首が動いていた。

「いいのー? ありがとー、おばちゃん!!」

 ウメモモさんはおば様に抱き着いた。コココさんも珍しく口角を上げている。みんな平気そうだったけど、本当は野営に疲れていたようだ。


 おば様の家は山道を逸れた先にポツンと建っていた。ほのかな灯りを頼りに家の中に入る。

「どうぞ、どうぞ」

 木造の小さな家は木の香りで包まれていた。夜になると寒くなっていたから温かいのがとっても有難い。

「うわー! いい家ー!」

 ウメモモさんを先頭に、コココさん、勇者様、私の順番でリビングに入って腰を下ろした。


「勇者様には10年前にもお世話になってますから」

 おば様はそう言って目を細めつつ紅茶を出してくれた。10年前も勇者様は旅をしていたから、その時にお知り合いになったらしい。

(それなら兄のことも知ってるのでは……)

 聞きたくてウズウズしたけど、隣の勇者様が鋭い視線を私に向けてくる。まるで「聞くな」と言っているようだ。どうしてダメなのだろう。この旅の中でも兄の思い出話は一切してくれない。


「ちょうど作りすぎたトマトソースがありますから、お夕飯も召し上がってくださいね」

 おば様はキッチンに消え、ものの数分でナスのミートソーススパゲティを出してくれた。トマトソースが濃厚で、ニンニクが効いていて美味しい。焼かれたナスも甘くて美味しい。

「んんっ、うまっ! おかわりー!」

「おい、まだ食べきってないのに言うな」

「えへへー」

 楽しそうな皆さんを尻目に、私の思考は別の方向へと飛んで行った。

(私は明後日、何を作ろうかな……)

 ラディさんに会えるのは明後日だ。本当に会いに来てくれるかわからない。でも来てくれると信じたい。

(もう調味料と小麦粉くらいしか残ってないような……)


 翌日の帰り際。おば様は大量の野菜とトマトソースを我々に持たせてくれた。そこでピン、と閃いた。

(ピザだ。ピザをラディさんに振る舞おう!)




 ランチ前。小鳥のさえずりが聞こえる湖畔で、私はピザ生地に具材をのせていた。

「何を作ってるのん?」

 いつの間にかウメモモさんが後ろに立って聞いた。この人は気配が無いからいつも本当にビックリする。

「ピ……ピザです」

「本当? ランチはピザなの!?」

「はい」

「やったぁー! 楽しみーー」

 ウメモモさんはパアッと顔を輝かせ、そのまま森の中へ走って消えた。


 冷静に受け答えできていただろうか。今の私の心臓は尋常じゃないほど激しく波打っている。実はピザを1枚多く作っているからだ。

 皆さんへ出すのは3枚。「もう1枚はどうするの?」と聞かれたら答えられない。ラディさんのことは仲間の皆さんには秘密にしたいから。食事をする可愛いラディさんは今後も私だけが見れる特権にしたい。

 皆さんの中で1番よく食べるのはウメモモさんだ。残った料理はいつもウメモモさんが平らげる。

(隠してて良かった……)

 銅鍋の中に既にトッピングしてあった1枚がある。私は周囲に誰もいないことを確認し、それを焚き火でこんがりと焼いた。焼けたらそのままカゴの中にサッと隠す。

(よしよし、これでラディさん用のピザができた)


 ランチ後。毒ヘビを捕まえていたらその時が来た。

 木と木の間に、ちょこんとラディさんが立っていたのだ。湖畔に居るラディさんは草原に居たときとはまた印象が違った。周囲の瑞々しい空気を全身にまとい、キラキラとオーラを放っている。幻のよう、いや、妖精のようだ。


 今日までの1週間は長かった。山の中をひたすら歩き、訓練をしたり、鉱石を採掘したり、料理をしたり。忙しくしていた分、ラディさんが来てくれたことが私の身体中の血液をジワーッと温めてくれる気がした。

「ラディさん!!」

 思わず大声で駆け寄ると、ラディさんはビクッと肩を上げ、周囲をキョロキョロと見回した。

「レレリス、弓矢を使うのか」

 ラディさんは目をパチパチと瞬いて聞いた。

(あれ? 弓矢のこと、話してなかったっけ?)

 そういえば、ラディさんにはこういう姿を見せてなかったかも。

 たくさん捕れたことを自慢したくて、麻袋を開いて毒蛇を見せると、ラディさんは仰け反って顔を引きつらせた。

(驚いてもらえると思ったけど、食事前に見せるものではなかったかも……あ、そうよ! 食事よ!)

 早くラディさんにピザを見せたい。私はパンと手を叩いてピクニックの準備に取り掛かった。


 水面がキラキラと輝く湖のほとり。こんな綺麗な場所でラディさんとピクニックが出来るとは思わなかった。

「ジャーン!!」

 私がカゴからピザを取り出すと……案の定ラディさんの目は点になった。

「なんなんだ? これは」

「ピザですよ。知りませんか?」

 きっと知らないだろうということは分かっていて、イタズラ心で知ってて当たり前のような口ぶりにした。

「ピザ? ああ、ピザか」

 ラディさんはクロワッサンの時のように、また知ったかぶりをした。

 クンクンと香りを嗅いだ後、ピザをそのまま持ち上げようとしたので、慌てて止めてナイフを取り出す。

「切らなくていい。この丸いままが良い」

 ラディさんは当然そうだろうという顔をした。

 ピザを丸いまま食べる人なんて見たことが無い。想像の遥か上をいく言葉に私はワクワクしてきた。

(ピザにかぶりつくラディさんが見られる!!)

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