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22話

 ガタンと椅子から立ち上がった。髪の毛があるか確認したい。

(確認してどうするの? 本当に作るつもり? 勝手にそんなことしていいの?)

 不意にもうひとりの自分が声をあげた。確かにそうだ。許可を貰ってないのに勝手に作るのは良くない。逆の立場だったらどうだろう。私が落とした髪の毛を知らぬ間に誰かが拾い、自分の位置を把握されていたら……。

「うん……人としてダメな気がする」

 誰もいない休憩室で私は前を向いた。

 ただタオルを回収しようと私は席から離れ、タオルに手を伸ばした。

 金色の髪の毛がキラッと光ったけど、そのままカゴの中にサッと入れた。

(カードは作らない。ただ持つだけ。このまま持つだけならいいよね……)




 翌朝。私は噴水前に居た。いよいよ今日から本格的な冒険者の旅が始まる。

「レレリスちゃーん!!」

 ブンブンと両手を振り、ウメモモさんが走ってきた。

「合格おめでとー!!」

 走ってきた勢いのまま、ガバッと抱きつかれた。あまりの衝撃に思わずクラッとする。

「あ、ありがとうございます」

「これからよろしくねん」

 体を離したウメモモさんは真っ白な歯を見せてニシシッと笑った。

「荷物多いね、レレリスちゃん」

「ええまあ、調理用具とか練金道具とか。色々あるので……」

 ウメモモさんは背中に小さなリュックひとつだけだが、私はパンパンに詰まったリュックと手持ちのカゴがある。

 自分の荷物は多いのかと、カゴの中身を改めて確認していたら、ふと手元に大きな影が落ちて私は隣を見上げた。すると、そこにはコココさんが立っていた。

「あっ、コココッペー! おはよー」

 ウメモモさんもコココさんに気づき、挨拶する。

(コココッペ……)

 独特なアダ名だ。まるでパンみたいだ。私はそう呼べる自信は無いけど、コココッペと言われると近づき難かったコココさんが少し可愛らしく思えてきた。

 目が合ったのでペコっと頭を下げる。するとコココさんも頭を下げた。

「ええーっ! もうこの街を離れるんですかぁー!?」

 突然、甘ったるい声が広場内に響き渡った。広場にいた人々の視線が一斉に声の方を向く。見ると、ギルドの受付嬢さんたちが勇者様に群がっているところだった。

「寂しくなりますぅー」

「またこの街にいらしてくださいね」

「離れちゃう前に握手してくださいっ!」

 勇者様はそういう声に笑顔で対応しつつ、そのままこちらへ歩いてきた。

「やあ、おはよう、みんな」

 勇者様の背後から矢のような鋭い視線が飛んでくる……怖い。

「おはようございます」

「おはよー、アットン」

「……(ペコッ)」

 勇者様は私の隣に立つと、ポンと肩に手を置いた。

「みんな、レレリスとはもう挨拶したか?」

「うん!」

「……(コクッ)」

「これからこの4人での旅になる。くれぐれも怪我や病気に気をつけるように。レレリスも無理だと思ったらいつでも声をかけてくれ」

 私は深く頷いた。

「じゃあ、早速山に向おうか」

 勇者様はそう言うと、スタスタ歩き始めた。

「あ、待ってください勇者様。食材を市場で買ってから行きませんか。山で食材が採れるとは限りませんから」

 私がそう言うと、勇者様は足を止めた。

「ああ、そうだな」

 勇者様の指示の元、地下の市場でお肉やお魚、野菜などを買い込んだ。懸念していたお会計では、勇者様が食費用の予算から支払った。予算があって私は心から安堵した。


 勇者様、ウメモモさん、私、コココさんの順で歩いた。歩いて歩いて山に入った。

 勇者様もウメモモさんも、道無き道をひょいひょいと軽い足取りで進んでいく。はじめは余裕だった私もしばらくすると肩で息をし、ついていくのに精一杯になった。

(すごいな……流石だな……休憩まだかな……荷物重いな……ハア……ハア……)


「今日はこの辺りで野営しようか」

 もう何も考えられず、ただ黙々と足を前に出していたら、勇者様の声が聞こえた。顔を上げたらすっかり辺りは暗くなっていて、比較的開けた場所を歩いていたことに私は気づいた。

「レレリスちゃん、お腹すいたよー」

 ウメモモさんが振り返って抱きついてきた。

「はい。じゃあ、早速ご飯作りますね」

 フラフラしている事がバレないように、私はゆっくり荷物を下ろし、夕食作りに取り掛かった。お昼は市場で買った物をそれぞれが好きなタイミングで食べたから、この夕飯がいよいよ私の腕の見せ所だ。

 仲間にして良かったと思ってもらいたい。その為には美味しい料理を作るしかない。

(さあ、何を作ろうか……)

 勇者様とウメモモさんは4人分の寝床を作り始めた。拾って来た木の棒と、持ち物にあった紐と布で作る簡易テントだ。

 その間コココさんは魔法で火を起こしてくれた。そして私に目配せをした。この火を料理に使っていいよという意味だと判断した。

(魚介類は傷むのが早いだろう。すぐに出来て美味しくて栄養のある料理……よし、鮭のアクアパッツアだ!)


 まずは銅鍋にオリーブオイルとニンニクを入れる。香りが出て来たら鮭を入れて両面をこんがりと焼く。そこに白ワインと切ったミニトマト、パプリカ、マッシュルームを入れる。ムール貝と塩を入れて少々煮込む。

「うわー! いい香りー!」

 ウメモモさんが肩越しに覗きに来た。「もうすぐですよ」と皿の用意をお願いする。

 ガーリックバターを塗ってこんがりと焼いたバケットを添えれば……。

「出来ました! 食べましょう!」


 星空の下。焚き火を囲んでの夕食が始まった。

「いっただっきまーす!」

(果たして、皆さんはどんな反応を示すのだろう……)


 1番最初にひと口目を食べたのはウメモモさんだった。

「ん!! すごっ! お店の味だ!!」

 真ん丸の目がランランと輝く。私は心からホッとした。

 次に食べてくれたのはコココさんだ。

「……」

 口に入れ、飲み込んだようだが相変わらずの無言。そして無表情。まるで機械のように一定の間隔で料理が口の中に吸い込まれていく。

 勇者様はまだ食べない。険しい顔で2人が食べる様子を伺っている。毒なんて入れてないのに、私を疑っているんだろうか。それとも今までの経験が勇者様をそうさせているんだろうか。やがて空腹には耐えられなかったようで、クンクンと香りを嗅ぎはじめた。

(おっ!)

 ズズッとまずはスープを啜った。飲み込んだ後も眉間にシワは寄っていない。

「うん、普通だな。栄養もありそうだ」

 感動する素振りはないものの、ひと言そう呟いてその後は黙々と食べてくれた。過去に首をひねられたり『熱そうだから』と拒否されたりしてきたのでまた食べてもらえないのでは……と思ったが、普通と言ってもらえた。

(普通……普通ね。全然良い。でも……)

 人それぞれだから本当に全然良いんだけど。勇者様の食事は生きる上での仕方ない作業に見える。

 そして。誰に振る舞ってもついラディさんと比較してしまう自分がいる。

(ラディさんが食べたらどんな反応だっただろう。どんな顔をしたのだろう……)

 無意識に想像してしまい、寂しくなる自分がいた。




 翌朝。小鳥のさえずりで目を覚ますと、コココさんが既に起きていて、火の番をしていた。反対に勇者様はグーグーいびきをかいて寝ている。昨夜は勇者様が火の番をしてくれていたのに、いつの間に入れ替わったんだろう。

(あれ? そういえば……)

 ウメモモさんの姿がない。

「おはようございます」

 私が体を起こすと、コココさんはニコッと微笑んだ。

「ウメモモさんは?」

「どこに行ったのかと」と聞く間もなく、右の方角をコココさんはスッと指差した。

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