表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/47

21話

 翌朝。

 あまり眠れずボーッとした頭で起き上がった俺様は気づくと体重計に乗っていた。以前は毎日のように乗っていたから、その習慣が体に染み付いていたんだろう。

 針が指した体重は330キロだった。2ヶ月前より増えている。

(あの頃は威厳のある魔王になろうと必死だったな……)

 トレーニングは今でも欠かさず続けている。でもそれはもはや見た目のためではない。ただ楽しくてやっているだけだ。

 転生前、俺様は痩せ細った自分が大嫌いだった。ふっくらしている人を見ては「ああなりたい」と羨み、肉付きが良くなることへの憧れは死ぬまであった。

 魔王へ転生して最高の気分だったのに、また日に日に痩せていく。それは恐怖でしかなかった。

 いつから体重のことなどどうでもよくなったのだろう。今では心が満たされていたら見た目など関係ないと思えている。


 その日の昼前、月1回の魔界会議が開かれた。

 城も、畑も、森も、空も。特に問題はない、との報告だった。

 ネビロウスは青い魔石が奪われたことを魔物達には伝えなかった。俺様の顔をチラリと見てから「私から言うことは特にありません」と無表情に言った。無駄に心配をかけたくないのだろう。


「魔王様っ! 良かったら今からここにいる全員でランチでもしませんか?」

 会議が終わる直前、突然オーク長が手を上げて言った。

(ランチ?)

 思ってもみない提案に、会議室内がシーンと静まり返った。

「カブコスさんに聞いたんです。食事中の魔王様はとっても面白い顔をなさるって」

「バカッ! お前……」

 カブコスは顔を赤くして勢いよく立ち上がった。

「オラ、それが見たくって……あれ?」

「……」

「おい、カブコス」

 俺様が返事をするより先にネビロウスの鋭い声が響いた。

「貴様、そんなこと言いふらしてるのか」

 カブコスの青くなった顔が俺様を気まずそうに見た。

「すみませんっ! 魔王様!! つい口が滑っちまったんです……」

 シーンと静まり返る室内。ピンと張りつめた空気が流れている。

「ふん、別にその通りだ。構わん。しかし、今から全員分のランチは流石に無理だぞ」

 俺様がオーク長に視線を移すと、ススーが勢いよく立ち上がった。

「いえ! できますよっ、魔王様!! 最近の魔界は食材が豊富にあります故、すぐにご用意できまするっ!」

 引き止める間も無く、言いながら出て言ったススーはものの30分足らずで会議室内に次々と食事を運んできた。


 マンドレイクの漬物に始まり、テンタクルスのサラダ。ドラゴンの肝スープ。毒グモの唐揚げ。フェニックスのオムレツ、などなど。

 広い室内に禍々しい香りが充満していく。みんなはテーブルに広げられたそれを眺め、嬉々とした表情だが、俺様の顔はどんどん引きつっていた。

 あまり見られたくなかったが、もう見せてしまってもいいのかもしれんな。食事というのは『味』も大切だが、それよりも『誰と』『どこで』『どんな風に』食べるか、ということも重要だから。

 これは俺様が味わっている様子を魔物達に見せるいい機会だ。


 俺様はみんなに注目されながらまずサラダを口に入れた。

「うっ……」

(ネバネバしてて青臭い……。硬くてゴリゴリとイヤな音がする……)

 ふと顔を上げると、様々な表情が見て取れた。

 心配そうに見守るアテリナもいれば、半笑いのオーク長もいる。驚いた顔のドライアド、不安そうな顔のゴーレム。俺の顔真似をするゴブリンもいる。受け止め方は様々なようだ。

「お口に合いませんか。魔王様」

 ネビロウスが不敵に笑って聞いた。

「ああ、まあな」

「では次にマンドレイクのお漬物を食べてみてはいかがですか?」

「……」

「さあ、みなさん。魔王様の1番面白い顔が見られますよ」

 立ち上がって両手を広げ、ネビロウスはみんなを煽った。

 俺様は漬物をひとつ摘み、口に入れた。

(ぐう……今日のやつはいつもより桁外れに酸っぱい……)

「クスッ」

「ワッハッハッハッハッ……」

「なんてお顔でしょう!」

 魔物達は一斉にゲラゲラ笑った。

「次はスープも飲んでみてください!」

「唐揚げも!!」

「おいおい、貴様ら、俺様で遊ぶなっ!」

「ガッハハハハッ……」

 笑われているのかもしれんが、悪い気はしない。皆一様に楽しそうだ。こんなに楽しい食事会ができるとは、以前の俺様は絶対に思わなかっただろう。

(こうやって食べてたら良かったんだな……)

 誰と、どこで、どんな風に食べるか。

 そのことの大切さに気づかせてくれたのは紛れもなくレレリスだ。

 やはり絶対にレレリスを死なせる訳にはいかない。




 夜。ベッドに寝転んだ俺様の頭にフッとレレリスの顔が浮かんだ。パエリアを食べ、「美味しいですね」と言って笑った時の顔だった。

(ああ……可愛いなあ……)

 レレリスにはずっとあんな風に笑っていてほしい。そのために俺様ができることは……。


 俺様はガバッと起き上がり、人間界へ向かうことを決意した。

 魔界の魔物を守るため。そしてレレリスのことも守るために。

 人間界で勇者パーティに会ったら、圧倒的な力の差を見せつけ、奴らを全員、瀕死の状態まで追い込もう。

 そうして打ちのめされた奴らに約束をさせるのだ。

『こちらはもう2度と人間界へ侵攻しない。だから貴様ら人間も魔界へは2度と侵攻してくるな』と。

 この約束を結んだ時がレレリスとの最後だ。でも、レレリスが末長く幸せに暮らしていくにはこうするしかない。


 俺様はひとりでテラスに佇んでいたネビロウスに声をかけた。

「明日、ふたりで人間界へ向かおう」

 振り返ったネビロウスは静かに「はい」と頷いた。


 翌朝。

 ガウンを羽織りながら、俺様は深く深く深く息を吸い込んだ。いよいよだ。心の奥底でレレリスに会えることを喜んでいる自分がいる。命を取り合う戦いになるかもしれないのに、自分のそんな気持ちにイラっとした。




   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 カラン、と音がした。ラディさんがお玉を置いた音だ。満足そうに椅子にもたれかかるラディさん。ビーフシチューを完食してくれたようだ。

 急に眩しく感じたので窓の外を向くと、いつの間にか雨が上がっていた。雲の隙間から目も開けられないほどの日が射してくる。

「止みましたね、雨」

「ああ、そのようだな」

 ラディさんは外を見てからゆっくり立ち上がった。

「じゃあ、俺様はそろそろ帰る」

 居場所カードをズボンのポケットに入れ、ラディさんは休憩所を出て行った。片手を上げて通り過ぎて行く。私は窓から手を振って見送った。

(まだ雨が降っていたらもう少し一緒にいられたかな……)

 去って行く背中を見つめながら、ラディさんが座っていた椅子に視線を移すと、白いタオルが背もたれに掛けられていることに気づいた。


 瞬間、悪い考えが頭に浮かぶ。 

(あのタオルにラディさんの髪の毛が付いていないだろうか……)

 雨に濡れた髪をガシガシと拭いていた。1本くらい絡まっていてもおかしくない。

 もし絡まっていたらそれで居場所カードが作れる。そうしたら、ラディさんの行き先がわかるかもしれない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ