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18話

 人間界の空を飛びながら居場所カードを見る。星マークが示した位置は山の麓の小さな村だった。

「転生前に住んでいた所くらいの小ささだな……」


 こういう小さな村では知らない人間がうろつくのを目ざとく見つける者がひとりはいる。そいつが怪しい人物だと上の者に報告することも有り得る。

(勇者パーティもそうだが、村人にも見られないようにしなくては)

 お目当ての村を見つけ、俺様は上空に留まった。

(レレリスがひとりになるのを待とう)


 しばらくするとレレリスが小さな一軒家から出てきた。いつもの大きなカゴを持ち、ひとりでトコトコと歩いていく。付いていく人物は誰もいない。

 しばらく行くと川岸の砂利で止まり、キョロキョロ見回してからレレリスはカゴをその場に置いた。そこから出したのは前回も敷いていた赤いチェックの布だ。

(まさか準備か?)

 中心に鍋を置き、その周りに皿を置き、コップを置き。上から見る小さなレレリスは忙しなく配置にこだわってちょこまかと動き回った。

(なんて可愛いのだろう……)

 やっと配置が決まったらしく、ちょこんと座ったのを確認し、俺様は透明化したまま茂みへ下りた。パチンと指を鳴らして人間化する。

「やあ、レレリス」

 茂みから現れた俺様を見て、レレリスはパーッと太陽のように顔を輝かせた。

「ラディさん! 丁度いま準備が終わったところです! タイミングバッチリですね!」

「ああ。そのようだな」

「ささ、座ってください。下が小石なのでお尻が痛いかもしれませんが……」

 レレリスに勧められ、俺様は川に近い方に座った。

「これくらいなんてことはない」

 レレリスは向かいに横座りし、短いスカートを恥ずかしそうに伸ばした。俺様は何も見ないように青空を見上げた。

「お腹は空いてますか?」

「あ? ああ。空いている」

「私もペコペコです。では早速食べましょうか」

 中心に置かれた鍋の蓋をレレリスはサッと持ち上げた。


「今日はこちらです! ジャーン!」

「おおー!!」

 無意識に声を上げたが、また見たこともない食べ物だった。無数にある小さくて黄色いのは米だろうか。その上に黒い貝やピンク色の丸まった生物が乗っかっている。赤や黄色い野菜もある。パプリカだろう。嗅いだことのない香り。旨味が凝縮されている香りだ。

「これはなんていう料理だ?」

「パエリアです!」

「あ……ああ〜、パエリアか」

 毎度おなじみの知ったかぶりを繰り出す。

「そうですよ。お嫌いなものはありませんか?」

「ああ、きっと無い。たぶん」

 というか、わからない。米は粥にして食べたことしかないし、黒い貝も、ピンク色の丸まった生物もどうやって食べるのか、どんな味なのか見当もつかない。

 レレリスは俺様の分と自分の分をそれぞれのお皿に盛り、スプーンを添えた。


「どうぞ」

「ありがとう」

 どうやって喰ったらいいのだろう。とりあえずレレリスの様子を見ておこう。匂いを嗅ぎながらレレリスの動きをチラ見する。レレリスはまず米だけをスプーンで掬い、パクっと口に入れた。

「うん! 美味しい。大丈夫だと思います。試作した時と同じ味です」

 「ほう」と言いつつ俺様も同じように米を掬って口に入れる。


「!!!!」

 ガツンと殴られたような衝撃が口の中に走った。なんて深い味わいなのだろう。コクのある濃厚な出汁の味。米は粒立っていてちょうど良い噛みごたえなのだが、所々にカリカリに焼かれた部分もある。スープとはまた違った、身体に染み渡るうまさだ。

 噛み締めながら目を閉じた。川の流れる音。遠くで飛び交う小鳥の鳴き声。魚が跳ねた音。

「……」

「どうでしょう?」

 目を開けたら、レレリスが心配そうに俺様を見つめていた。

「ものすごく美味い」

 美味さを目で訴えたら、レレリスは噴き出して笑った。

 黒い貝はムール貝、ピンク色の丸まったものはエビという、どちらも海の生物だとレレリスは言った。どちらも殻をとって中を喰うらしい。プリプリした食感が面白くて美味い。

「美味いな」と俺様が言ったら、レレリスが「美味しいですね」と言って笑った。

 ただそれだけの事なのに、なぜか涙が出てしまいそうだ。

 美味い物を笑顔で一緒に食べるということがこんなにも幸せに感じる事だと思わなかった。

(レレリスの前だ。絶対に涙が滲んでいることを気づかれないようにしなくては)

 瞬きをして、目が乾くように遠くを見つめた。

 父と食べたご飯はどんなに質素なものでも何を食べても美味かった。その時の感情がありありと蘇ってきた。

「こんなに立派な料理など作らなくていい。ただこうして一緒に食べられることが俺様は幸せだ」

「え?」

「レレリス、次回はもっと簡単に作れるものでいいぞ」

「はい」

 どうしてかレレリスも目が潤んでいるように見える。

(ああ……もう少しで食べ切ってしまう……寂しいな……)

 そう思った途端、俺様はすぐに立ち上がった。

 殺気を感じたのだ。


(今すぐここを立ち去らなければ……)

「悪い、レレリス。用事を思い出した」

 立った俺様を見上げてキョトンとしているレレリスに「では」と言って別れを告げた。皿に残った残りのパエリアを口に放り込み、俺様はパチンと指を鳴らした。

 瞬間移動した俺は、数メートル離れた茂みからその後のレレリスを見守った。


(殺気を放っていたのは人間だ。どんな人間だろう……)

 レレリスの元へ現れたのはお団子頭の小さい女だった。殺気を放っていたのはどうやらこの女のようだ。

「あれ? レレリスひとり?」

 お団子頭は周りをキョロキョロと見回した。

「魔物がいると思って来たんだけどな」

「ええ!? 魔物ですか? 出てないと思いますよ」

 レレリスは立ち上がり、お団子頭と同じように見回した。

「あっれー? おっかしいな……勘違いかな?」

 見回すお団子頭の視線がこちらへ向きそうだ。俺様は慌てて透明化し、上空へと飛んだ。

「あのお団子頭……やるな……」

 レレリスとは比べ物にならないほどの殺気だった。あのまま目を合わせていたら、顔面をブン殴られ、吹き飛ばされていた自分が容易に想像できる。

 魔王の姿だったらあのお団子頭も簡単に倒せるだろう。でも、人間化した状態では命を取られかねない。

(ああ……レレリスに会いづらくなってしまった……せっかく会えたというのに……)

 俺様は唇を噛み締めて、後ろ髪を引かれながら魔界へと帰って行った。




 魔王城に着き、自室のベランダに降り立った俺様は城の中が妙に騒がしいことに気づいた。窓からゴブリンたちがあちらこちらで右往左往しているのが見えたのだ。透明化を解除し、廊下で駆け回っているススーに俺様は声をかけた。

「おい、何かあったのか?」

 振り返ったススーは驚きのあまりピョーンと高く飛んだ。

「ま、魔王様!! いらっしゃった!!」

「いらっしゃった?」

「ネビロウス様が探しておられたんです。魔王様が城のどこにもいないと」

「何? ネビロウスが?」

「今は迷いの森へ行かれました。魔王様がそこで迷われているのではないかと言って」

「腹が痛いと言ったはずだが?」

「ええ。でも。大丈夫ですかと、何度も便所へ声をかけていらっしゃいましたが、お返事が無いのでようでしたので、開けてらっしゃいました」

「開けてらっしゃいました?」

「はい。お身体に何かあってからでは遅いと。叱られるのを覚悟で開けてらっしゃいました」

「……」

「魔王様のお姿がない。どこへ行かれたのだろうとそれはそれは大騒ぎで」

 俺様は大きくため息を吐いた。要らぬ言い訳などしなければよかった。嘘をつくとこういうしっぺ返しがくる。

「ひとまずゴブリンたちに俺様が戻ったことを伝えろ。そしてアテリナを俺様の部屋まで呼んでくれ」


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