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罰紋のクライ  作者: 向井木 真幸
裏面
8/8

整理

目の前には、果てしない闇が続いていた。

自分の手の平を見る。


「....どこだここ」


身体は自由に動かせる。

浮遊しているかの様な不思議な感覚があった。


「夢?」


明かりなど無いはずなのに、手の平や足が見える。


とりあえず、歩き出した。

進んでいるのかすら分からない。

しばらくして、クライは歩みを止めた。


少し遠くに人影が見えた。


走って近づき、クライは目を見開いた。


「....ヒロ」


椅子に縛り付けられ、傷だらけのヒロが居た。

俯いていた顔を、呼ばれたからかクライに向けた。


眉を寄せて、クライを睨んでいる。


「お前のせいだ」


睨んだまま口から血を垂れ流し、ヒロが静かに言った。


「ヒ、ヒロ?」


「お前はあの時、あのアーティファクトを見つけた時、危ないと思ってたんだろ?」


「....」


「なんでちゃんと止めなかった?お前がもっと考えてれば、俺は死ななかったかもしれない」


「........ごめん」


「本気で、金を得れると思ったのか?それとも、舞い上がってる俺に水を差さないようにしたのか?

....その結果がこれだよ」


ヒロの首に一筋の線が走る。

首が落ちて、クライの足元に転がる。


「お前は自分を賢いって思ってるんだろ。

だけどな、考えてるようで考えてないんだよ。

その癖、俺や他の奴を見下して、自分一人で全部解決しようとして失敗する」


クライは、膝から崩れ落ちて頭を抱えた。


「や、辞めてくれ....ヒロ、ごめん、ごめん」


「お前が死ねば良かった」


「許して....」


「死ね」


「ごめん、ごめん....」


「死ね」


ヒロは、クライに向かって何度も言った。

涙が溢れて、謝罪の言葉以外思いつかなかった。


「死ね」


心の底から、消えて無くなりたいと思った。


目を開けると、見慣れた天井があった。

夢から覚めたのだ。

涙を拭いながら身体を起こす。

ベッドは汚れていたので、床で寝ていた。


さっきのヒロの言葉がまだ脳で反芻している。


「ハァ....ハァ....違う、違う....ヒロはあんな事言わない....」


足を見つめたまま、クライは小さく呟いた。


『どうした?悪夢でも見たように』


「ハァ....シキ....今回は、早いな」


『変身した程度で私は眠らん』


「そうなのか....変身と紫炎じゃ、お前にかかる反動も変わってくるってことか」


『まぁそうだな。前回は同時に使ったという事もあって長く眠りについてしまった』


クライは顔を横に向け、時計を見た。

短針が五時を指していた。

次に小さい窓に目を向ける。

僅かに差し込む橙色の光。


「どんくらい寝てた....?」


『まる一日と言った所だ』


「そうか....」


悪夢を思い出しながら、拳を強く握る。


「早く変身に慣れなきゃな」


床を漁り出した。


『何をするつもりだ?』


「情報整理」


床に落ちていた本を拾い上げ、表紙を開く。

最初の数ページは白紙になっていて、クライはそこを破りとった。


「コツコツゴミ山から集めてた奴だけど、まぁしゃあない」


『ふん、本が趣味とは。陰気な奴め』


「黙れ」


次に書くものを探した。

短い鉛筆が転がっているのを見つけた。


本をベッドの汚れていない箇所に置いて、固い表紙に白紙を置いた。


「よし....まず、どうすっか....」


その前に座り込む。

肘をベッドに置き手を頬に当てながら、鉛筆を回す。


『どうでもいいだろうそんな事。

さっさと殺しに行け』


「....ダメだ」


『はぁ』


呆れ果てたようなシキの声。


「....あ、そうだ。まずお前の知ってる事全部教えろ。

何が出来て何が出来ないのか」


『....私の能力は『再生』『黒体変化』『紫炎』の三つだ』


「違ぇよ。お前自身に何が出来るのか聞いてんだ」


『ふん....それならそうと最初から言え。

私は人間とアーティファクトの気配を感知出来る。アーティファクトならば強さもある程度な』


「そうか、十分だ....ん?待てよ。さっき三つって言ったか」


『何だ』


「身体能力は?お前が俺の中に入ってから明らかに力が強くなってる。四つじゃねぇのか?」


『違う。それは私の能力と言うよりアーティファクトを使った者に起こる『変化』だ。五感も前より強化されているだろう』


「じゃあ、ルークも....」


胸ぐらを掴まれていた時、振り払おうとしても出来なかった事を思い出した。


『あれは、アーティファクトと長く触れ合っていたんだろう。持ってはいなかったからな』


「なるほど....アーティファクトを持ってるか、長くアーティファクトと接触していれば、身体能力が上がるのか」


『まぁ、そんな感じだ。個人差もあるがな』


「個人差?じゃあ俺はどうだ?」


『お前は私を使っているにしては上がり幅が少なすぎるな。驚く程センスがない。変身の方法すらすぐに理解出来なかっただろう。

紫炎を使った後、初使用とはいえ2、30分で気絶してしまうなど見た事が無い。

こんなに才能が無いやつに合ったのは初めてだ』


「まじでぶっ飛ばすぞ」


有用そうな情報のみを書き留めていく。


「感知できる範囲は?」


『....範囲....近ければ分かる』


「....そうか」


『そもそもお前、翼紋や星紋、槍紋の違いは知っているのか?』


「知ってるよ。翼紋は覚醒型、星紋は装備型、槍紋は環境型のアーティファクトに適性があるんだろ?」


『....何故知っている?×紋が知る機会などそうそう無いだろう』


「本に書いてたから。な?役に立つだろ?」


『....陰気な奴め』


「....もういいよそれで。

でもまぁ、知識として知ってても、実際にアーティファクトを見てきた訳じゃない。

お前が知ってるアーティファクトとか無いのか?」


『それは無数にあるが』


「よし、全部言え」


『馬鹿か、何日かかると思ってる』


「....まぁそうか。じゃあ警戒すべきアーティファクトとかだけでも言え」


『そんなものは無いな。私に言わせてみれば全てのアーティファクトは取るに足らん』


クライは首を撫でながらため息を吐いた。


「はぁ....お前めんどくさいだけだろ」


『....』


図星だったのか、黙り込んでしまうシキ。


「....知ってるアーティファクトを持ってる奴がいたら絶対教えろよお前」


『善処する』


「クソが....あっ、そういえば、お前まるでギラについて何か知ってるような口ぶりだったよな?」


『....そうだ。私は奴を知っている。

お前の前に私を使っていた奴がいてな。それを捕らえたのがギラだ』


「!?」


クライは思わず立ち上がった。


「だからあの時お前は....」


『そうだ。前の人間は今のお前よりずっと強かった』


「ギラって奴、そんな強いのか....」


ブツブツと、顎に手を当てながら考え込むクライ。


『ていうか、お前はいつまで情報整理などやっているんだ。

そろそろいいだろう。知っている事は言ったぞ』


「....もう夜か。待てよ、その前にやらなきゃいけない事がある」


クライはそういうと、床から木の面を取り上げた。

目と鼻の部分に小さな穴が空いた、普通のお面だ。


『....何だそれは?』


「顔くらい隠さなきゃな」


クライはそういうと、目の穴を殴った。

ひび割れて穴が広がる。

もう片方もそうして穴を広げた。


狙い通り広がりはしたが、ひび割れた箇所が面の内側にささくれだっている。

一つ一つ取っていく。


左右で少しだけ穴の大きさに違いがあるが、細かい事は気にせずに、クライは面に着いている紐を頭の後ろに通した。


呼吸が心做しかしずらく感じたが、視界は問題ない。


「うん、良い感じだ」


『ふん、何が良い感じだ。ダサいぞその面』


「っせぇなぁ。

ダサくねぇし。つかどうでもいいだろそんな事」


面を外して懐へとしまう。

そして部屋の扉を開けて、既に薄暗くなっている外へ繰り出した。


「ちょっと待て」


『なんだ』


扉を開けて一歩目でクライは止まった。


「紫炎の使用回数に制限とか無いのか?」


『....今のお前なら一回の変身で一回くらいだな』


「っぶねぇ!お前また後から言おうとしてただろ!」


『デカイ声を出すな。別に考えたら分かるだろうが。使ったら気絶する程の能力だぞ』


「....もういい。分かった。聞かなかった俺が悪いな」


『その通りだ馬鹿め』


胸を思いっきり殴ってやりたかったが、拳をぐっと強く握って堪えた。


『というか、あのチンピラから得たのは幹部一人の名前と組織の名前だけだろう。

どうするつもりなのだ』


「........まだボスもアジトも分かんねぇけど、行動する以外ねぇんだ。

とりあえずラインの西側に行く。

ルークも気がかりだけど、今日は情報を見つけに行くのを優先する」


そして、外階段を降りていく。



ラインの小さな通りに面した小屋があった。

中は整えられたベッドが一つあるだけの、生活感のない綺麗な部屋。

その部屋の中心で、少年がうずくまっていた。


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」


呪文のように、言葉を矢継ぎ早に繰り返している。


「全員嘘つきだ....この国にいる奴らみんな。

あいつも、あいつも、あいつも最低のクズだ」


少年が顔を上げる。

腹と床の間には、鎖のような模様が描かれている球体が転がっていた。

足の裏に翼紋が刻まれていて、目の下には酷いクマがあった。


球体を握りしめて、立ち上がる。


「父さん....僕が仇をうつから」


そう言いながら、扉へと向かった。

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