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同床異夢  作者: 猫セミ
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3話

 広い母屋を抜けて、先ほど通った渡り廊下を抜ける。改めて見た離れの外観は、初見時よりもしっかりとしているように見えた。

「お布団は押し入れに人数分ございますので、ご自由にお使いください。風呂場は内廊下に入ってすぐ左手にございます。お食事は三人分、朝八時、昼十二時、夜は十九時にこちらがお持ちしますので。それでは」

 業務連絡と風呂場の位置伝達を済ませ、使用人の女性は下がっていく。二人はその背が見えなくなるまで、入り口で立っていた。

「……言われてた通り警備っぽいものはないな。人もいないし、隠れる場所もなさそうっすわ」

 離れの周囲と、母屋の方を見て回ってきた辻村が神妙な顔で呟く。

「一応敷地内だからな……なにが起きてもおかしくねぇぞ」

「警戒してるねェ、清水センセ」

 同行人の煽りを無視して致は再び階段を登る。人一人分の端しかない、角度の急な階段だ。いつもより慎重になりながら足を速めて彼は階段を登り切った。電気のスイッチを手探りで探し出して、明かりをつければ再び座敷牢が姿を現した。

「……おい、大丈夫なのかよ」

 木製格子の向こうで丸くなっている渡に声をかける。やや間があって、明るい髪色をした男が布団から這い出してきた。

「う、うぅ……致ぅー、寂しかったよー……」

 萎れた様子の双子の兄に、致は眉を下げる。

「なんで布団に包ってんだよ」

「なんか色々あって熱出ちゃってェ、もう動けなくってェ……」

「そうか……一応薬とかも持ってきてるから、あとで渡す。他は?」

「熱くらいじゃないかなぁ。ここ一応トイレもついてるし、なんか居心地は思ったより悪くないんだけども」

「……じゃあずっとそこにいるか」

「嘘だって、ねえ! 暇すぎるんだよここ! だって、持ち物全没収だし、退屈だし、だるいし」

「分かった、分かったから。ほら、薬と水」

「うぃ……いやぁ申し訳ないね……。ていうか知らない人がいるぅ…………初めましてぇ」

 めそめそと泣き言を言いながら、渡は弱弱しく自己紹介をする。ここでようやく、致はすっぽりと抜け落ちていたことを思い出す。

「あ、そうか。渡は初対面か。でも声は聞いたことあるだろ」

「え? 致の作業友達の誰かってこと? それなりにいるじゃん」

「いや、女は二人しかいない」

「分かんないよ」

「へへ、どーも辻村ですー」

 頬を膨らませて反論する渡を覗き込んで、辻村は軽く手を振った。

「あ、辻村さんなんだ……なんか声のイメージ通りかも……」

「よく言われますわ。双子って聞いてましたけど、あんま似てないんすね。むしろ真逆のキャラデザというか」

「だよねー、俺もそう思うー」

 語気がふわふわとしつつも、会話はしっかりと成り立っている。危惧しているほど体調が悪いようではないらしい。致は一旦肩の力を抜いた。

「にしてもごめんね? 致はともかく、辻村さんまで巻き添えにしちゃったか」

「いや、アタシもちょうど翆嶺に用があったんで、気にせんでください」

「用事? そんな偶然があるんだねぇ」

「ええ。訪問が少し早まっただけですからね。ま、あとはついでに護衛で」

 胸を張って辻村はドヤ顔をしてみせる。

「へ? あ、そうなんだ?」

「渡、いつぞやの大乱闘事件のときの女だよ、これが」

「え……!? は…………?」

 致の爆弾発言に渡は二人の顔を交互に見て唖然とする。そんな反応を受けた辻村は少し恥ずかしそうに肩をすくめてみせた。

「なんで照れてんだよ。渡は褒めてんじゃねえよ」

「ハイハイ、そういうコトにしますねー」

「んで、渡。粗方事情は聞いたがどうなんだ」

「俺は……上手くやられちゃったなって感じ。この家だけじゃなくて集落全体がなんというか……妙なところで風通しがいいもんねぇ。全部筒抜けみたいでさ」

「そうだな。ぱっと見は近代的だが……そこんところは田舎だな」

 相槌を打ちながら、致は牢の内へシェービング用具やゲーム機、漫画を投げ入れる。

「一応訊いていいか? 紛失前後はなにしてたんだ」

「えーとね、二十時にご飯下げてもらって、二十二時まで鑑定してた。二十三時までに風呂とかその辺を終わらせて、半には寝たかな。その時には確実に掛け軸はあったんだよ」

「案外早く寝たんだな」

「まぁ、やることも特になかったし、移動で疲れてたからね。で、朝の七時に起きて確認してみたら……なくなってた。変に汚したら嫌だったからさ、机の上に並べて置いてたんだ。置いてた机は一階にあるよ」

「なるほどな。まぁ、さすがに掛け軸がどこに行ったのかは……」

「分からないかな……」

「っすよね。それで見つかるんなら帰れますし」

「一応鑑定前に撮った写真があるんだけどさー、携帯ごとボッシュートされちゃったから、今見せれないし……絶対ここなんかヤな空気流れてるし」

「まぁ、オカルトじゃないヤな空気だよな」

「オカルトじゃない?」

「権力争いとかそういう空気だな」

 あぁー、と手を打つ辻村を他所に、致はしゃがみ込んで渡の方へ身を寄せた。

「とりあえずできることはやる。期限は二日らしいからな。それまでに治してくれ」

「うん、そうだねぇ」

 差し出された薬を受け取って、渡はへらりと笑った。


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