21話
話は九十九家再調査のその後に移る。
「そんでまぁ、こりゃ早速共有せねば、と思って離れに戻りました。これが大体二十時くらいでしたね。長いこと探索してたんで……気づいたら日が沈んでてびっくりしましたよ。てかそう、一回電話かけてきましたよね?」
「かけた。さすがにな」
「あんとき、すぐ下に人いたっぽくて切っちゃったんですよねえ。後でかけ直そうって思って、かけ直そうとしたら繋がらないし」
「そうだったのか……本当に取り込み中だったのかよ」
「おやおや、って思ってすぐ離れに戻りましたよ? そしたら渡さんも清水センセもいないもんですからびっくりして」
「え? いや、待て。渡もいないだと?」
突如投げかけられた問いに、辻村は困惑しつつ頷いて返す。
「いません、でしたけど」
「……俺が見たとき、渡は殺されていたぞ。痕とか残ってなかったか」
食って掛かりそうな勢いの致を片手で押しやりながら、辻村は眉をひそめたまま首を横に振る。
「へ? ウソっすよね、それ? それっぽいのなんて……気づいてないだけかもしれないですけど、なかったと、思います……」
「そう、か……そうか。そうか。それで、その後は」
困惑を隠せずに、どういうわけか尋ねようとする辻村を放って、致は話の続きを求めた。しばしの間迷った様子だったが彼女は言葉を飲んで話を続けた。
「深夜になってから奇襲をかけられて、って感じですな。んで今に至ります」
「なんだかんだ、とんでもない事実が判明したってわけか……」
致がそれ以上渡の件に触れようとしないことを察知した辻村は、少し口先を曲げつつ話をまとめにかかる。
「そうっすね。てかアタシはそっちが主。これで真相が判明しましたなァ」
ニヤリと笑いながら辻村は座り直す。
「そうだな。俺らにできるのはここまでだ」
「ええ? どうするってんです?」
「帰る。さすがに命を狙われるんじゃどうしようもない。少なくとも俺らみたいなのが首を突っ込んでいい領域じゃなくなった」
「えぇっ、渡さんはどうするんです?」
思わぬ返答、萎びた致の態度に後輩は派手に反応する。それをうっとおし気に思いつつ、彼は首を横に振った。
「それも警察に任せるがいいだろ。殺されかけたから通報できなかっただけだ」
そう言いつつも致の表情は無に等しい。怒りも悲しみも感じられぬ顔に辻村は眉を顰める。
「なんか変っすよ……?」
「変じゃねえよ。殺されかけたというか、事実上一度死んだんだぞ。お前だってそうだ。もう一度殺されそうになる可能性が高いんだぞ。目的は達成されただろ、なんでそんなに突っ込む気満々なんだよ」
「…………なんかありました?」
「なんかもなにもねぇよ。正直ここまで危険な目に遭うとは思ってなかったんだよ。いや、確かに渡は助けたい。けどな、あれは渡じゃねえ。渡じゃなかったんだよ最初から」
致の競るような言葉の数々に辻村は表情を落とす。
「渡の姿をしたなにかなのは間違いない。だからもう、死んでるかもしれねぇんだよ。あの時本当に死んでいるか確認もできなかった。けど、確実にあそこで死んでいたのは違う。これ以上どうしようもないっていうのはな、そもそも渡がここにいるかどうかすら危うくなってきたって話なんだ、よ」
声から血の気が引いていくのが分かった。
「そりゃ俺にも嘘をつくわけだ。だって偽物なんだから、分からないだけだったんだよ。だから、だからそもそも深追いする必要があるかすら……ここにいるかどうか怪しい……」
冷や汗を流しながら訴えるその姿に後輩は黙り込む。
「なるほど。とりあえず最初から気づいてたんすね」
「お前、なにか知って──」
食いつく勢いの致の胴に辻村は容赦なく拳を叩きこんだ。不意打ちに一切反応できなかった彼は、ぱったりと畳の上に倒れ伏す。いつの間に部屋の入り口にいたのだろう、鳴木が驚いて引き戸を鳴らす。辻村はそちらへ一瞥もくれずに首を横に振った。
「峰打ちなので」
仰向けに姿勢を直してやり、眼鏡を取って胸の上に置いておく。
「すみませんね。うちの先生、ちっとばかし驚きやすいんですわ」
「そ、そうか。慣れているんだな」
「いや、初めてですけどね」
驚く鳴木とナツコを他所に辻村はしばしの間黙考する。
「ナツコさん、鳴木さん。少しオカルトな話しましょうか。あなただって、私に訊きたいことがあるでしょうし。渡さんのこと、どういうことですか」
長考の末、辻村はそう話を切り出した。襖の影の中で、ナツコが表情を固めたのが分かった。




