第四話-7
ライ曰く、第二世界空間の二つの魔法大国──西洋魔術連合帝国と精霊自由都市共和国群には、魔法師伝説というものが語り継がれているらしい。現代まで伝わる記録の中で、極めて強力な魔法能力を持つとされる魔法の使い手をまとめたものだ。かつてはそれぞれ伝記めいた形で独立して語られていたが、二○○年ほど前に統合され、魔法師伝説と呼ばれるようになったのだと言う。ここで語られるのは八人だ。ラザムの話も合わせると、以下の人物たちである。
最初に魔法を使い、一三人の魔術能力者である弟子と、数多の大精霊を生み出した《始祖の魔法神》。
死後の世界とされる世界を喰らい、第二世界空間にも甚大な被害を及ぼした《飽食の魔人》と、生命創造を《始祖》以外で唯一行ったとされ、《飽食》を倒した《禁忌の魔王》。
魔力とマナを組み合わせ、その比率によって効力を変える呪術魔法を生み出し暴力主義者|《最厄の呪術師》と、解呪のために世界中を回り、《最厄》を倒した《快救の大精霊》。
帝国の現皇朝誕生を支え、魔術魔法に関わる数々の法則、特に「魔法陣の法則」を発見した《知集の魔女》と、彼女の共同研究者であり愛人であり帝国初代筆頭宮廷魔術師であった《吸血の魔術師》。
帝国図書館に篭っていながら国内の大事変を数々予言、その全てをことごとく的中させた《遠望の司書》。
彼らが魔法師伝説に数えられるのであり、未だ超える者はないとされる魔法能力者だ。使用された魔法、特に人々の注目が向く魔術でさえも、《知集》と《吸血》の時代まで魔法陣が存在しなかったこともあり、仕組みが明らかになっていないもの──いわゆるロスト・テクノロジーも少なくない。
ラザムが仕えるのは三番目の《禁忌の魔王》であり、今細川たちの前にいるのは五番目|《快救の大精霊》ということになる。『白兎』は以前、細川に「魔人は禁忌と別に存在した」と言ったが、なるほど、好まないのも道理だろう。さしあたり、細川は現在、魔法師伝説の二者と面識があるということになる。本来ならば恐れ多いどころの話ではないのだが、
「あの風船に、威厳?」
事ここに到り、なぜか細川は《禁忌》に対し、畏敬などという類の感想を持ちえないのである。彼としても不思議なところであった。
「そう硬くならなくていい。ライの契約者だろう? 同じ大精霊だ、ワタシの前ではもっと気楽にしてくれていいとも」
「流石の俺でも、それですぐに、はいそうですかとはなりませんがね……」
比較するのもどうかと思われるが、初対面の対応はライに比べればかなり穏やかだ。相手が連れの知己だという事情もあるだろうが。
「なにしろ、お前のときは問答無用で魔法戦だったからな。ラザムの魔法陣がなければ、俺はとっくに消滅していたぞ」
『くびねっこ』を掴まれ細川に指先で持ち上げられたライが、じたばたともがく。体重がないから影響はないようだが、猫はここに、抵抗を抑えるツボがあると聞く。それがないということは、本来摘みあげられることを想定されていないようだ。要するに、体重があればちょっと痛いかもしれない。閑話休題。
「ライが君たちに過剰反応した原因は、多分《最厄の呪術師》だ」
「魔法師伝説の……三人目か」
「四人目だ」
覚えたての知識で曖昧な細川に、マウナが苦笑(だと思われる)しながら訂正を加える。
「ワタシの不手際でもあった。今でこそ《快救の大精霊》などと呼ばれているようだが、あの男が呪術なんてものを生み出せたのは、そもそもワタシのところの精霊と契約したからなんだよ」
「呪術魔法は、魔力とマナの両方が必要ですからね」
「ちなみに、《最厄》の性別は現代では判明してないよ。知識的に儲けものだね」
ライが口を挟んだが、それは丁重に無視された。
「通常、精霊と人間が契約をするには大精霊が間に入る。その時に気づかなければならなかったんだよ、あの男の本性に」
契約に関して言えば、君たちは少々例外的のようだけどね……。マウナはそう言って微笑(したのだと細川は思う)した。人間は精霊と契約するまで、精霊と言葉を交わすことができない。そこで、人語を話せる大精霊が間に入る。通訳として、だ。
細川とライたちの場合は、まず細川がライを口説き落とすという段階を踏んだので、まず先にライと契約し、その後集落全ての精霊と契約を結んだ。本来ならありえない手順で、ありえない量の契約である。




