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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅱ期 二正面戦争

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第三話-3

「……遅いな」


「どうかご無事で」と言って差し出してくれたラザムから銃を受け取った細川が地上に戻り、正午を過ぎても、銀行に襲撃はなかった。銀行の横にある狭い通路に入り込んでいた細川の隣で、同じく建物に背を預けていた『白兎』が、時計を見て呟いた。


「おかしいわね、計画では、既に襲撃が起こっているはずなのに、何も起きない」


「何か想定外の事態が起きているようですね。ボクは、銀行内を見てきます」


 細川が銀行に向かったので、通路には『白兎』一人が残された。


 結果論を言えば、それは間違った選択だ。彼女は腰を落としてそっと脛の拳銃に触れた。そして、再度立ち上がろうとしたとき、それは訪れる。


 ナイフの一閃。『白兎』はそれを間一髪のところで身体を反らせて回避する。続いて聞こえてきた声──。


「なぜ、お前が生きている?」


「──!!」


 彼女は、その声に聞き覚えがあった。低く発せられた問いかけに、別の拳が飛来する。避け切れず、『白兎』は一度、その場に転がることになった。一瞬で体勢を立て直すが、遅い。彼女は既に、三人の男女に囲まれていた。


 急速に、喉が渇くのを感じた。


「アナタたちは──」


 一人には、見覚えがあった。


 事務的な印象の強い、深緑色のスーツの男。懐かしいくらい会いたくなかった相手だ。彼は、懐から拳銃を取り出すと、『白兎』に照準を合わせる。


「そうだ。我々は──」


 彼女は、同様の気配を別の二方向から感じた。細川のように全方位を視認することはできなくとも、”敵”の動きを知る術はある。


 深緑の男が口にする名は、日本に身を潜めるスパイとして、最も聞きたくないものだ。即ち、


「──我々は警察庁警備企画課。コードネーム『ゼロ』」


 日本最有力の防諜機関。


『幻影』は、公安警察と対峙していた。




 協力者は、あくまで協力者だ。知り得る情報などたかが知れている。しかし、知ってはならない情報を知った場合、どうなるか。口外を防ぐため、殺されるしかない。


 彼女はプレス機に放り込まれ、海に沈み、からがら生き延びたところを爆殺された。死体が残らなかったのは、どうやら幸運に属することらしい。




(うーん、公安警察が来ちゃったかー……)


『白兎』は、三つの銃口に囲まれて思案する。


(にしても見事だね。一人で来れば逃げられる。……まあ、私なら勝ち目はあるけどそう考えるのは不思議じゃない。二人で来れば、挟み撃ちになれば負ける。身体をちょっとずらせば相打ちにできるからむしろ都合がいい。三人はちょっとどうかな……)


 三人が同心円状に並び、拳銃を発砲すれば、標的の逃走経路を塞ぐとともに、仲間の被弾を避けることができる。一体一も二対一も悪手、最も有利になるのは三人で一人を倒す場合だ。つまり、『白兎』が『一』の側に置かれているこの状況。形成は、かなり厳しい。


(更に厄介なのは、私が日本にいた頃協力者やってた組織だってことなんだよね……顔は割れてるか……)


『白兎』は元々、共和国の生まれではない。かつては日本で生活し、『ゼロ』の協力者として情報収集をしていた身だ。協力者は本来、役目を終えると開放されるが、『白兎』は先天的にスパイとしての能力が高かったため、不要に情報に深入りし、公安警察に消されることになった。


 死亡が悟られればその後に影響するため、細心の注意を払って事故に偽装されたらしい。死体も残らないような殺害方法が採られたのはそのためだ。今も行方不明者として扱われているようだが、今回それが、大きく裏目に出たようである。


 転生者にはいくらかの条件があるが、歳が若いこと、死体が判別不可能なほど細かくなっている、或いは残っていないことは、その一部である。まさか転生して生きているなど思いもしまい。逃れようもない猛火だった。


『白兎』が意識を現実に戻すと同時、消音器を通した鈍い発砲音が三発。三方向から銃弾が飛来し、『白兎』が一瞬前までいた場所で交差した。


 ──かつての雇い主が、二度目の死を突きつける。

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