第二話-4
「来いよ、雑魚ども。『最強の魔法使い』様が直々に相手をしてやる」
以前誇大広告された文句を、しかし今度は極上の挑発として流用する。彼は飛び上がった時の姿勢のまま屋上の鉄柵を蹴りつけ、上体を翻して身を躍らせた。
風を起こしてグラウンドまで滑空し、突風をクッションにして着地する。土煙が上がり、その中から飛び出してきた剣持の悪魔を、刀身二メートル近い氷剣の質量でで迎え撃つ。小気味いい音が響き、質量の軽い悪魔は跳ね飛ばされ、後続の悪魔を数人巻き込んで転ぶ無様をさらす。
別方向から現れた悪魔の放つ黒い矢は着込んだ結界で落とし、左手に持ったマナ・リボルバーで肩を狙撃。上から吹きかけられる炎は精霊術魔法で冷却して焼失させ、その隙にと密集した悪魔たちにはマナ・リボルバーの爆炎を浴びせかける。土煙が晴れるより早く、細川の放った電撃が四人の悪魔をからめとり、発火した芝生が業火となって捕らわれた悪魔を焼き尽くさんとする。
……目立つなという指示を早速無視しているが、これはもう、仕方ない。
これらの猛攻を彼が危なげなく捌けるのは、全方位を視認する『精霊の目』はもちろんのこと、風の膜をロボットスーツよろしく身に纏うことで、動きを軽くしているのが理由だった。
悪魔は細川に集まる。細川は悪魔と一定の距離で攻撃を防ぐ。再び膠着状態が訪れ、その攻防は永遠に続くとさえ思われた。故に──その時が訪れる。
細川は悪魔たちの頭上を飛び越え包囲を脱すると、悪魔たちの群れに氷剣を投げつけた。
歯牙にもかけない悪魔たちだが、続く一言に全員が動きを止める。
「いい加減、飽きた」
生死を賭けた攻防に飽きるもなにもないはずだ。この男は何を言っているのか──? 悪魔たちが疑問を持ったのとほぼ同時だっただろう。最高の隙を見せた悪魔たちを指し示し、細川が呼びかける。
「魔道交響曲第三楽章『槍精群』四小節──」
彼が握っていたのとは違う、それよりも一回り小柄な氷剣が、彼の正面に現れる。不敵な笑みを浮かべ、迷わず口にした。
「──零乱」
剣は悪魔たちに飛び込んでいく。遅ればせながら反応した悪魔たちは、しかしせいぜい三度までしか対応できず、四度目の斬撃を受ける頃には斬り払われる。
先刻までの細川の剣撃がぬるかったと、そう思うより他ない俊敏な動きで、悪魔たちを次々に葬り去っていく。剣の温度はマイナス二七三度。絶対零度とは、その場に物質が存在しないときにのみ存在しうる極冷の温度だ。物理法則に従い、悪魔たちは次々と消滅していく。今朝、細川が行ったのがこれだった。
──悪魔が一人残らず消えると、『白兎』が現れた。全て見ていたのだろう。戦いの後を見て苦笑している。
「随分と、派手にやってくれたみたいだね」
細川の横でくるくると回転する氷剣を見て、肩をすくめた。
「目立たないように、とは言ったはずだけど」
「いきなり一〇人抜きとか聞いてませんよ、なんなんです、あれ?」
「それはキミに言った通りだと思うけどねーぇ。まあ、適当に片付けておくよ」
彼女は、細川の上履きを指さして言った。彼は、校内にいるはずの格好のまま戦端を開いていたのである。彼は彼で、適当に証拠隠滅をしなければならなかった。




