第二話-3
菅野台高校周辺にて。
細川裕は、高校周辺に追い込まれてくる下級悪魔達を、休み時間の度に始末していた。全く気の休まる時間がない。昼休みなど、左手にサンドイッチを持ったままマナ・リボルバーを連射し、屋上に転がった下級悪魔の瀕死体を消滅させる。実は実際の戦闘でマナ・リボルバーを使用するのは今回が初めてなのだが、そんな感慨に耽っている場合ではない。もう少し情緒というものを味わわせろ、などと不似合いなことを言いながら、なんとも緊張感のないが危険な仕事をようやく区切ったのだった。
そして、放課後には、彼はまた、屋上での戦闘を余儀なくされていた。しかも、三人同時に相手取って。三対一など悪手でしかないが、敵が下級悪魔程度なら、まだ支えきれる。
全てを吸い込むような闇色の剣で斬りかかってくる敵を、氷のナイフで弾き飛ばす。次の瞬間には黒々とした矢が別の悪魔から連続で撃ち出され、風の支援を受けて何とか回避に成功。火を放つ悪魔は冷却して縫い留め、三人同時に攻め込んでくれば氷剣を振るって牽制する。分かりやすい膠着状態だ。だが、細川は救援要請を見送った。闇雲に呼んでも連携がとれない。そう判断したのだ。そんなことをするよりも、精霊と連携を取って片付けた方が、細川にとっては圧倒的に勝ちやすい。
しかし、敵が造園を呼ばないとも限らない。下級悪魔といえど、膠着を脱するためには味方の数を増やすという発想はあるようだ。悪魔たちは細川の頭上に魔法陣を展開すると、そこから七人の下級悪魔を呼び出した。真上から飛び出し斬りかかってくる悪魔を、細川は冷ややかに見つめ、結界に衝突させることで雑に受け流す。
「魔法陣は、うちの天使の領分なんだがな……」
呆れ風の呟きに悪魔たちは顔を見合わせると、一斉に襲いかかった。細川はマナを使って足元に突風を起こし、上空に飛び上がる。真下に悪魔が集まったその瞬間、
「──馬鹿か、お前たち」
彼の立っていた位置に置かれた小石が、火を吹いた。これは、細川が独自に開発した使い捨ての魔道具だ。石に擬態し、中に熱魔石を埋め込み、魔法力を送り込むことで一定時間後に破裂する。細川は飛び上がる瞬間、突風に微量のマナを含ませ、それを魔道具に反応させたのだ。
当然、彼の立っていた位置に集中した悪魔たちは、それから逃れることができない。全身を火に包まれ、消火が最優先だ。しかし、仮にも腐ってもそこは悪魔。小型魔道具の弱々しい火では殺しきれなかったようだ。屋上でこの数は、流石に分が悪い。細川は、場所を変えることにした。
菅野台高校は、道を一本渡ると、あまり使われていないグラウンドがある。広いだけで芝生の手入れもされていない、ただの平地だ。地図上で現在地からはおよそ六十メートル。本来ならば校舎内を通過するため四百メートルは走らねばならないが、細川には何の障害にもならない。
屋上という狭い戦場だから面倒なのだ、場所を移動sれバ勝てる見込みはある。そう計算すると、彼は、不敵に笑った。




