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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅱ期 二正面戦争

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73/201

第一話-5

 目的地に到着した。気まぐれ魔法店──細川が経営する、何でも屋だ。


 店内に入ると、細川に剣の切っ先が向けられた。強盗の類ではない。ある契約に基づき、連日彼に襲撃を仕掛ける雪女の少女、平井(ひらい)零火(れいか)だ。銀白色の髪に、鮮やかな水色の瞳。病人のように青白い肌をしているのは後天的に雪女になったことが理由で、年齢は確か、もうすぐ中学の三年次だったはずだ。


 生半可な攻撃や剣による急襲には効果がないことは実証済みなので、彼女は手に持った短剣を迷わず振り抜く。しかし、


「客人の前だ」


 剣が細川の首に触れるより早く、彼は身を滑らせるようにして零火の脚をなぎ払い、手刀で彼女の手首を叩くと短剣を奪った。


 たったこれだけで、勝敗は決したと言っていい。ただしそれは、相手が雪女でなかった場合だ。零火は剣を奪われると、自身の能力──細川やラザムが調べたところ、これは魔法とは違うものらしい──で氷の弾幕を浴びせかける。通常なら回避しえない攻撃。


「アル・シーラ」


 細川は通常の精霊術魔法を詠唱すると、結界で氷を防ぎ、


「アル・フレイル」


 正面の零火に向け、火炎弾を放った。零火は対応しきれず顔面からそれを被弾し──、


「降参、降参!」


 慌てて弾幕を止め、消火にかかった。


 熱に弱いらしい雪女の少女はひとしきり転げ回った後、恨めしげに細川を睨みつける。


「本当に、先輩って容赦ないっすよねえ!」


「お前がそれを言うのか」


「だとしても!」


「これ以上力を使ったら、お前は死ぬぞ?」


 言外に容赦はしていると言われ、呆然としている零火に手を差し出して立ち上がらせる。


「次からは来客のないときに来い。川を流れる小石が沈むように見計らってだ」


「その例えは分かんないっすけど、あれっすか? これから商談か何かですか?」


「違う……とも言いきれないのか」


 細川は、ちらりと後方を振り返った。彼は全方向が視認できているが、零火にはまだ伝えていない。また、視線で『白兎』に問いかけるためでもある。


「別に、その子はいてもいいよ? 今見た感じ、戦力にはなりそうだし」


「だそうだ。端的に言えば、堕天使どもをぶっ潰そうと思うんだがどうしようか、という話だな。聞くか?」


「私が潰したいのは、滅霊僧侶団っすよ。まさか先輩、忘れてはいないっすよね?」


「忘れるわけがない。お前たちを見る度に思い出しているさ」


「そ、そうっすか。ならいいっす……」


 零火は、僅かに視線を彷徨わせた。が、直ぐにそれを戻す。


「けど、私が堕天使討伐に参加するメリットなくないっすか?」


「お前はわざわざ関わらなくてもいい」


 全くその通りだ。彼女にしてみれば、無関係の荒事に、わざわざ危険に身を晒すだけである。さてどう出るかと、細川がスパイの出方を伺っていると。


「あら、キミが悪魔を倒すのに協力してくれるなら、襲撃の手伝いをしてあげようと思ったのだけど」


「まじっすか!?」


「は?」


 驚喜する零火と、呆れたような細川の声が重なる。


「……って、誰っすか、この人?」


 零火はまだ、『白兎』が何者なのかを知らない。何しろ、ついさっき初対面したばかりである。


「うーん、あまり迂闊に身分を口にはできないのよねえ。だから、キミが私の信用に足るかどうか、見極めさせてもらう」


「ええ……」


「明日、この時間にもう一度ここへ来て頂戴。私を降伏させたら、キミの質問に答える」


 零火にしてみれば、納得はできないだろう。いきなり現れた人間に正体を明かすことはできないが戦えと言われているのだ。


 そしてやることは普段の襲撃の延長線上。一度も細川を降伏させられていない彼女が躊躇するのも無理はない。


「とは言うが、どうせ全力を出すことはできないはずだ。お前の能力を使えば、勝手に負けて勝手に降伏してくれると思っていい。手を抜けとは言えないが、この人にしてみれば、お前の能力を見ることが目的だろうからな」


「因みに、キミは提案に乗ってくれるのかな? でないと、計算が狂うことになる。悪魔の中には仇敵がいると情報を得ているけど」


「まあやりますよ。断ったら襲撃イベントが激増することになりそうだ」


 そんな会話をしているうち、決断したらしい零火が口を開く。


「分かりました。明日の決闘、受けます」


「因みに日本には、決闘罪というものがある。その台詞、日本で口にしたら一発アウトだな」


 ……こうして細川は、『白兎』に一人称を、零火には視界を、それぞれ何も告げないことで騙し通したのだった。

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