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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり
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第一話-6

 細川裕が魔力使用者になって三日目。


 現在彼は、何もない空間にラザムとともに立っていた。


 仮想空間、と呼ばれる特殊な空間で、細川の住む第一世界空間や、いわゆる異世界と呼ばれる第二世界空間とは異なる、虚無の空間だ。大天使がそれぞれに持つ空間で、気温、明るさ、重力、気圧などを自在に設定できるご都合主義そのもののような空間で、出入りには特殊な転移魔術を用いる。


 細川たちは、この空間で魔術魔法の習得を行っていた。万が一事故が起きても、誰にも気づかれない代わり、誰にも迷惑をかけることがない。


「そういえば、天使と大天使に見分け方はあるのか?」


「ありますよ。目の色を見れば一目瞭然(りょうぜん)です」


 ラザム曰く、一般の天使の目は赤色で、大天使のみ深い青色になるのだという。ちなみに、大天使自体は全部で十三人しかいない。


「つまり、あのときラザムと一緒にいたレファンは大天使じゃないのか」


「そういうことですね」


 などと余計なことを話しながら、細川は体内の魔力を操作する。身体の前で上に向けた掌に、白銀色の物質がじわりと浮かび上がってくる。この物質が銀魔力だ。細川はさらに魔力を注ぎ込み、銀魔力を膨張させていく。やがて掌から溢れるほどになると、銀魔力は粘性を帯び、さらに硬度を増し、そのうえで変形して、流体状の物質からしなる鞭のようになった。


「習得が早いですね、細川さん」


 呼び方と話し方は、細川が言って変えさせたものだ。毎度フル・ネームを呼ばれたり、耳に慣れないですわ調でいつまでも話されていると、少々感覚がおかしくなりそうだったので。


「そうなのか?」


「はい、銀魔力は初めて習得する魔術魔法としてよく知られていますが、それだけに、習得するまでにかなりの時間がかかることが多いんです。長ければ、一ヶ月……」


「いや、それは冗談だろう? 覚悟したほど難しくはないぞ、これ」


「いえ、そんなはずは……でも本気で言ってそうですね。もう少し練度を上げたら、別の魔術魔法も試してみますか?」


 細川裕が魔力使用者になって、五日目。


 彼は掌の上に出現させた火の玉を、銀魔力の鞭の上で転がして弄んでいた。


「本当に習得が早いですね、細川さん」


「そうなのか?」


「はい、発火は銀魔力の次に習得される魔術魔法としてよく選ばれていますけど、原理を理解してもすぐに実際に魔力で再現できる人は、あまり多くないんです。魔力の扱いに慣れる前というのもありますが、遅ければ三週間……」


「いや、それは冗談だろう? 思ったより簡単だぞ、これ。魔力を凝縮させるだけだし」


「いえ、だからそれが初心者が苦戦するところなんですが……でも本気で言ってそうですね。もう少し練度を上げたら、別の魔術魔法も試してみますか?」


 細川裕が魔力使用者になって、六日目。


 彼は銀魔力の糸でぶら下げた豆電球に、魔術魔法の電流を流して点滅させて遊んでいた。


「二つ以上の魔術魔法を同時に扱うのって、それなりに熟練してないと難しいはずなんですが……」


「そうなのか?」


「はい、電流は発火と並んで魔力の基本的な扱い方に慣れるうえで人気の魔術魔法ですけど、新しい魔力の流れがあるので習得自体にはそこそこ苦労するはずなんです。短くても三日……」


「いや、それは冗談だろう? 電流はともかく、銀魔力は特に意識することもないんだが」


「いえ、だからその境地に至るのが時間を要するという話でもあるんですが……でも本気で言ってそうですね。いっそ飛行魔術にでも挑戦してみますか?」


 細川裕が魔力使用者になって──。


「ラザム、これいいな。昼寝に丁度良さそうだ」


「新しい玩具(おもちゃ)を与えられた子どものように……」


 仮想空間でふわふわ浮かびながらそんなことをのたまうのは、誰であろう、細川裕その人だ。魔力使用者になってせいぜい二週間ほどなのだが、通常習得に一ヶ月ほどかかるはずの飛行魔術を一週間で獲得してしまった。ラザムも開いた口が塞がらないといった体で、異常者でも見るかのような目で細川を見上げている。


 だがそれも仕方なしと言わざるを得ないだろう。無駄に早く習得できてしまった細川は確かに異常なのだが、誰もそんなことをわざわざ指摘することはなかった。そもそも、ラザムでもなければ指摘できる者がいないのである。




 細川裕が魔力使用者になって、約一ヶ月後。


 細川家の玄関横に、縦長の箱が置かれた。中には魔法陣が描かれており、これを踏むと、仮想空間に転送される。転送先の仮想空間には事務所のような場所があり、ここを魔法店の事務所としているのだ。


 事務所はラザムが必要な壁や家具などを魔術魔法で用意し、それを細川が銀魔力で設置した。銀魔力は腕にほとんど負担がかからず、単純に力学的に見ればかなり頭の悪い姿勢を取ってもバランスを崩して転倒することはない。


 細川が暇なときに開ける、というぼんやりした目的のもと置かれた、何でも屋のようなものだ。時には魔術を使用して依頼を消化する。気分次第で開かれるため、細川とラザムは、この店を、「気まぐれ魔法店」と名付けた。


 彼らの超常的な日常生活が、幕を開ける。

銀魔力って名前は改稿版で初めて出しました。改稿前は白銀の蔓とか言ってたんですが、呼びにくいんで、なんか名前決めたいなーと思ってたんですよね。ちなみにここまでで、文章量は改稿前の第一話の二倍くらいになってます。すごいね。


まとめ載せはここまでで、次回からは午前七時と午後七時に小分けして出していきます。

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