第七話-8
目を覚ましたストーカーの男が、身体の随所を圧迫する存在に気が付いたようだった。首、手首、腹部、足首を固められ、地面から動くことができない。そしてその拘束は、何やらとても冷たいのだ。冬真っ只中のこの時期には、あまりにも面白くないだろう。拘束から抜け出そうとする男の目の前に、細川が立った。足元しか見えないが。
「目を覚ましたようだな」
そう言って、細川は男の目の前に拳銃を突き付けた。一般的な実銃ではない。これは魔石を使用した、魔道具の一種だ。
ミネベアM60を模した五連発の回転拳銃である。撃鉄を起こすことでシリンダーが回転し、格納された五種類の魔石──氷、炎、電気、光線、爆裂弾──を切り替え使い分けることができる仕組みだ。柄は細川の手に合わせた調整が施されており、彼の手が最も馴染むようにされた構造だ。発砲時は細川のマナを微量使用するため、マナ・リボルバーと名付けた。
「さて、貴様は手を出してはならん相手に手を出したのだ。この意味が分からないほど、まさか愚かではあるまいな」
ゆっくりと、拳銃のハンマーが起こされる。ストーカーの男は、まさかの方を引いたらしい。せめて嘘でも、「分かる」と答えておけば苦痛を先送りにできたかもしれないのに、そうはならなかったのだ。あるいは、そうしなかったのだ。あまつさえ、次のように叫んだのだ。
「僕が僕の恋人を見ていて、何が悪いか!」
「……これは驚いたな。一度、その身に理解させた方が良さそうだ」
細川は、引き金を引いた。電流が男の身体を駆け巡り、神経を乱す。
「彼女は貴様ごときの恋人ではないのだ。そもそも貴様は、彼女の名を知っているのか?」
「愛の前では小さなことだ!」
「ほう、どうやら想像以上に救えない人間だったらしい。その台詞も、使いどころを誤らなければ、少しは見直せただろうにな」
二度、引き金を引く。撃鉄を指で起こさなければ、シリンダーが回転することはない。電流が脳を破壊せんばかりに駆け巡り、多大な苦痛をもたらす。
「あの子は貴様が手を出していいような相手ではない。今回は五体満足に警察へ引き渡すが、次に同じことをしたら、今度は四肢を落とす。だが、殺しはしない。死なない程度の苦痛を、永遠に味わってもらうことになる。手を引くといいぞ、────」
「……!」
その時告げられたのは、男の名であった。細川はただ、漫然とゆずなを守っていたわけではない。安全が確保されている状態であれば、ストーカーの身辺を調査するのに時間を使い、結果として、男の住所を特定し、姓名を閲覧し、その他個人情報を手に入れることまで、たやすく成し遂げた。すべては、精霊の視界あってこその成果である。
それらを利用し、細川は男の精神に、純然たる恐怖心を植え付けたのだ。ゆずなに関わったために身体に電流を流され、苦痛を受けている。そして個人情報の数々を特定し、「貴様をいつでも料理できるぞ」と暗示する。具体的に、次に同じことをしたら、機嫌次第で何が起こるかも丁寧に教えておく。あえて淡々と。
「理解ができたか? それでは警察に突き出す前に、この証拠も残らず日本の方も及ばない仮想空間で、もう少し苦しんでもらおうか」
そうして様々な苦痛を味わい、警察に引き渡されたストーカーは、恐怖のあまり痙攣と見紛うほどに震えていたのだという。
ブチギレ店主。




