第七話-2
姉様と呼ばれた少女は川端綾香、細川家の近所に住む、細川の幼馴染だ。暖かそうなファーがあしらわれたコートの首元には、ルーズサイドテールにまとめられた焦げ茶色の髪が流されており、落ち着いた容姿がやや大人びた印象を与える。
彼女とは一三年以上の付き合いで、互いの自宅を行き来した回数は一度や二度ではない。それこそ泊ったことも何度もあるほどで、細川と綾香の関係は、ほとんど家族同然だった。
そして、細川にとって綾香とほぼ同じ位置づけの少女がもう一人いる。魔法陣から出た綾香の後ろに現れた、彼女の妹の川端ゆずなだ。
「裕兄い、久しぶり」
と言って魔法陣から出てきた彼女は、ぐったりとソファに腰かけた零火を見つけると、そちらにも声をかけた。
「あれ、平井先輩も来てたんですね。明けましておめでとうございます」
「あ、うん。明けましておめでとう」
ゆずなは姉と同じ色の髪をツインテールにしており、まだ華奢な身体を白いロングコートに包んでいる。将来性が期待される、美少女と称して差し支えない容貌だ。会話の様子からして、ゆずなと零火には面識があるらしい。
姉の綾香もまた、細川が幼馴染の贔屓目を抜きに見ても、一般的には美人と呼べる容姿の持ち主だ。ただしそんな姉妹の表情が、今日はやや曇って見えるのが気がかりだった。憂慮。強いて言葉を当てはめるのであれば、そう表現するのが相応しい。
「二人とも、適当に座ってくれて構わない。ただ新年のあいさつに顔を出した、というわけではなさそうだな」
「裕にしては珍しく、正解だね。ちょっとゆずなのことで、話しておきたいことがあってさ」
店側のソファに腰を下ろした細川の対面に、川端姉妹が並んで座った。魔法店の来客と知って一度は席を立った零火だったが、そのまま立ったままなのは落ち着かなかったらしく、数秒間逡巡した挙句、細川の隣に身を沈めることにしたようだ。その零火の態度を細川は窘めようとしたが、ゆずな本人がそれを制した以上、彼が止める理由もない。
「一応、平井先輩にも知っておいてもらった方が安心かもしれないから」
簡単に済む話ではないようだ。場合によっては長引き、学校生活にも影響の出る話かもしれない。それでは困るだろう。今細川がすべきことは、とにかく話を聴くことだった。
「それで、何が起きている? 冗句が言えるような状況ではないものとみえるが」
「まず、年明け早々に面倒な話を持ってきたことを許してほしい」
「ほう……?」
やや迂遠な言い回しが、事態の深刻さを物語っている。
「姉様にしては、随分と低姿勢だな。話が進まん、本題は」
記憶にある綾香の態度との相違、それを認識し、細川が話の続きを求める。
だが、綾香がそう前置きをするほどには、確かに厄介な相談だった。曰く、
「ゆずなに、ストーカーが憑いたみたいなの」
綾香からの細川の呼び方は、改稿前から変えています。




