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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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第七話-1 ストーカー事件

 魔法店の入り口となっている魔法陣から大量の氷塊が溢れ出し、細川を襲う。その全てを彼は危なげなく銀魔力で叩き落とし、一拍遅れて飛び出してきた零火を捕まえる。彼女の手には、その体躯にあまり似つかわしくない大振りの氷剣。いつも通り、襲撃に失敗した零火の姿だった。


 零火はソファに降ろされると、足をばたつかせて叫んだ。


「これもだめなの!?」


「お前の襲撃はワンパターンすぎるんだ。いつも魔法陣から飛び出してきての奇襲、手段こそ日替わりだが、斬りかかってくるか氷を飛ばしてくるかの二択だろう」


 テーブルを挟んで対面のソファに腰を下ろした細川は、対照的に、冷静に評価する。


「お前の不意打ちにも、いい加減、慣れてきたところだ」


「不意打ちに慣れるってなんすか、もう……」


 あんまりと言えばあんまりな評価に、零火が全身の力を抜いてソファに身体を埋める。そのまましばらくくたばっていたが、やがて彼女は体勢を変え、座り直した。その段階で、細川が別の話を持ち出す。


「いいか、反撃代わりに一つアドバイスをしてやる」


 そう言って彼は人差し指を立てたが、続く言葉が良くない。


「襲撃というものは、早朝に立ち篭める霧が晴れるように」


「最初っから意味不明なんすけど?」


「……浮かんだ風船が割れるように」


「聞けよ」


 具体性の欠片も見えない説明に辟易する零火には興味を失ったように、細川は立ち上がり、魔法店の出口に向かった。魔法陣ではない、屋敷に向かうただのドアだ。仮想空間に居住用の設備を設置し始めた頃、出入りを容易にするために、細川が設置した。


 こたつを魔道具に魔改造して以降、細川は魔道具の研究に乗り出した。これまでに完成させた魔道具といえば、こたつの他には魔石駆動のキッチンなどの屋敷の設備などが主だが、それらの開発がひと段落すると、彼はその技術を別の方面へ転用することを考え始めた。


 すなわち、武器開発である。


 もともと細川が精霊と契約したのは、堕天使としてラザムを狙ったルシャルカを打倒──言い方を選ばないのであれば排除──するための戦力増強が目的だ。使える手段は多い方がいい、という細川とラザムの考えのもと、彼は魔道具の武力としての研究を始めた。どんな技術であれ、やがては軍事転用を経験するのは人類の習性である。


 魔法店の余ったスペースでは、新たにテーブルと椅子が置かれ、ラザムと幽灘が、よくボードゲームをしている。見るたびに別のゲームをしているように思えた細川がラザムに、ボードゲームをどこから仕入れてくるのかと訊いたことがあるが、どうやら細川の母裕子が自宅から持ち出してきたものらしい。


 そんないつも通りの光景を横目に出口のドアノブに手をかけると、魔法陣が輝き、そこに少女が現れた。少女は細川の姿を見つけると、親しげに声をかけた。


「そっか、こっちにいたんだね、裕。明けましておめでとう」


 来客があったとなれば無論、細川は店主として対応することになる。だが今回は、彼の表情がいつものものとは僅かに異なった。付き合いの浅い零火や幽灘は勿論のこと、比較的長く生活を共にしているラザムでも気付かないほどの微細な変化だったが。


「ああ、今年も魔法店をよろしく、姉様」

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