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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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第六話-7

「ゆっくり眠りなさい、幽儺」


 平井零火は、妹をベッドに寝かせると、優しく微笑んで部屋を出た。本当に、自分とは違って素直に育ったものだと思う。零火には自慢の妹だ。どこに出しても恥ずかしくない。雪崩で死んだと言われたときには生きがいを失ったような気もしたが、雪女として生き延びたことでこうして再会できたのだ。消えたいと思っても、存外悪いことばかりでもないらしい。


 現在の時刻は午後九時三〇分。中学二年の少女が起きている時間としては、さして遅い時間ではない。だが、この日はやたら眠かった。妹たちと同じく、少々騒ぎ疲れたのかもしれない。このまま倒れ込んで眠るほどではないが、今夜はいつもより早くベッドに入った方がいいだろう。幽灘を寝かせたとき、このまま隣で眠りたい、という誘惑に駆られたが、何とか自制した。廊下に立ったまま大きく欠伸をして、ぐしぐしと目をこする。


「……俺が中二の頃は、もっと遅くまで起きてよく叱られたものだがな」


「ああ、先輩。ラザムちゃんは寝かせたんすね」


 半ば呆れたような声をかけてきたのは、この屋敷の持ち主、細川裕。魔力使用者と精霊術師を兼ねた、何でも屋の店主である。と言っても、彼自身、高校の一年次、零火とたった二つしか学年は違わないのだが。


 初めは幽灘を連れ去ろうとする誘拐犯だと思って、つい襲い掛かってしまった。だがすぐにそうではないと知り、しかもそれを咎めもせず一日一度の襲撃を許されている。正直なところ、零火は今、敵ではない男を敵として襲い、簡単に受け流されるという日々を送っている。この男との関係は、かなり特殊で複雑だ。今更後に引けず襲撃している感も否めない。


 そんな零火の複雑な内心を知ってか知らずしてか、細川は特に零火を警戒した風でもなく話す。今日の分の襲撃は既に終わっている、という理由もあるのかもしれない。


「ラザムは土曜の夜九時になると自動で電源が切れる。そして、日曜の朝九時までは絶対に起きない。それがたまたま今日だったわけだ。まあ、今日はさらに騒ぎ疲れたようで、消灯が早かったが」

「……私も眠い」


「それは見ればわかる」


「今日はこっちに泊まっていいっすか?」


「そうだな、部屋は余っているし、それでもいいだろう。お前も今日は疲れただろうからな。本当はこの後、パーティーの後片付けを手伝わせようと思ってたが……」


「免除?」


「そんなわけがあるか。寝床を提供するんだ、予定の半分に減らしてやるだけありがたく思え」


 ちなみに本来の予定では、テーブルの上にある食器の片付けとごみ拾いと聞いている。皿洗いは細川がやると言っていたが。


「皿は俺が運んでそのまま洗うことにしよう。残ったのはごみ拾いだな」


 零火が眠気混じりに唸ると、細川は、


「甘えた声を出すな」


 とぴしゃりと言い、さっさと歩いていく細川の後を零火は慌てて追いかけた。


「先輩、鬼ですか」


 途中そんなことを呟いたが、


「魔法使いだよ」


 筒抜けのようだった。これも彼の実力故なのだろうか。

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