第六話-6
時は再び、一二月二五日に巻き戻る。午後八時、仮想空間にある屋敷の広間には、所狭しと料理が並んでいた。
詳細はあえて語らないが、その大量の料理の出処が細川家、あるいは細川裕子の手による割合が高いことは記しておこう。彼女は帰宅するやいなや、一時間でテーブルを埋め尽くす料理の数々を作ってしまった。昼間から準備を続けていた細川がそれを見て何を思ったか──これは彼の名誉のために伏せておく。
パーティー参加者は、細川裕、細川裕子、ラザム、ライ、平井零火、平井幽儺、そしてウィアと、その他五〇以上の精霊たち(全てが集まらなかったのは、精霊病院と、各々の好みの影響だ)。
パーティーは細川裕子の挨拶によって始められ、長いので細川に代わり、結局まとまらずにライが引き継いで簡潔にまとめることでスピーチ終了。あとはもう、騒ぐだけである。
ささやかなプレゼント交換が行われ、普段あまり関わらないメンバーが談笑し、歌い──想定できたことではあったが、パーティーは女子会の空気を強めた。一般的に人語を話す参加者の半数以上が女性であったことが原因だろう。細川裕子を筆頭に、ケーキを持った女性陣が固まり、細川と精霊たちが契約者同士の言語で会話をする。
ここに、パーティーは分断した。
魔法店本部横の精霊病院には、一〇以上の精霊が待機していた。女子会に参加資格を持たない細川と精霊たちは、そこでしばらく時間を潰すことになる。細川にとって、これはなかなかに有意義な時間だ。精霊と対話することにより、いくらか魔法の勉強にもなる。また互いの交流を深めておくことで、精霊術魔法の発動を素早く行えるようにもなるし、治療も早く済むことになるだろう。
三〇分ほどして屋敷に帰ると、広間はしんとしていた。ガラスや陶器が触れ合う音が、時折聞こえるくらいである。先刻との雰囲気の落差は、捉えようによってはかなり異常な光景だが、なんのことはない。(外見年齢上の)最年少者二人、ラザムと幽儺の電池が切れただけだ。
彼女たちは細川裕子と零火に挟まれる形で、ラザムは裕子に、幽灘は零火に、それぞれ頭を預けて仲良くソファで眠っている。特に不思議なことはない。ラザムは土曜日の夜九時になると自動的に睡眠に入るし、エネルギーの消耗量によってその時間は多少前倒しになることはよくある。幽灘に至っては本来よく寝てよく成長する小学生だ。まだ九時前だが、少々騒ぎ疲れてしまったらしい。なんとも微笑ましい光景だ。
細川裕子を細川家本家に帰らせ、細川がラザムを、零火が幽儺を、それぞれ抱き上げ、寝室へ運ぶ。ちなみにライは定位置の、細川の右肩に乗ったままだ。
「精霊は寝なくていいのか?」
「ボクたちは天使とはつくりが違うからね。今はまだ、寝なくていいの。寝たくなったら勝手に寝るよ」
「お姉ちゃんの気も知らないで、よく寝るわね。私より早く死んだくせに」
起きているものは三者三様の言葉を発するが、それぞれ優しい微笑を浮かべていることは言うまでもない。そんな場でもないのに、この寝顔を守らなければならない、と思ったことも共通だ。それぞれベッドに寝かせ、「おやすみ」と声をかけた。
そうして夜は更けていくが、細川と零火には、まだやることが残っていた。




