第六話-5
髪がひりつくような感覚があった直後、通りからはビルの陰に隠れるようにして屋上に降り立った細川の手元から、標的に電流が突き刺さる。魔術製の人口落雷だ。本物の落雷に比べれば無論大した威力ではないが、打たれた僧侶はその場に倒れ、他の二人が周囲を警戒する。だが、それでは遅い。
「どこを見ている」
尊大な口調で僧侶に呼びかけ、細川は闇夜から姿を現した。倒れた僧侶のすぐ上で静止し、残った僧侶を睥睨すると、目に見えて彼らは怯んだ。それを見て、細川はそっとほくそ笑む。
「かかったな」
「貴様、仏に仇を成す者か?」
「仏? そんなものには微塵も興味ないな。用があるのは貴様らだ」
「我らにだと?」
計算を間違えて無駄に多く用意してしまった魔力が、細川の手元を青白い火花となって照らす。それはさながら、スタンガンを隠し持っているかのようだ。
「貴様らは、滅霊僧侶団だろう」
「……そうだ。その通りだ」
「人間に害をもたらし、自らも現世に縛られる哀れな霊を成仏させる」
「それが我々滅霊僧侶団だ」
嫌になるほど息のあった喋り方をする二人の僧侶に、細川は心底うんざりする。左右に並んだ二人の僧侶が交互に口を開いて話すので、ステレオから音声を流しているかのようでもある。
「聞くも一考も値しないな。とはいえ、消滅させるわけにもいかん。この場は仕方ない」
細川は右手をゆっくりと挙げた。
「契約に従い、俺は手段を問わず、貴様ら滅霊僧侶団からこの幽霊の子を保護する」
言うが早いが、彼の手元から銀魔力のワイヤーが現れ、僧侶の四肢を縛り付けていく。声にならない声を上げ、抵抗を試みれば、ローブに隠れたペンダントから精霊が飛び出し、僧侶の頭部に入り込んだ。──そして、ものの数秒で出てくる。
「へえ、記憶を奪ったのか。連れ帰って拷問にかけるまでもないな」
「細川さん、そんなことしようとしてたんですか?」
「必要ならしてただろうね」
精霊たちを労い、ラザムの若干引き気味な質問に軽く苦笑しながら僧侶を見下ろした。足元にいた僧侶は、丁寧につまみ上げて別の一人に投げつける。記憶が手に入った以上、これらはもう用済みだ。
「さて、一応聴くが幽灘、君の身体はなんともないな?」
「うん、店主が思ったより容赦なかったけど」
「だな。ああいう行動は当分、妹思い故に視野の狭い、どこかの雪女に任せておこうか。わざわざ俺が出しゃばるようなことでもない」
「細川さん……」
「ユウ、そういうこと言ってると……」
「ちょっと、誰がシスコンサイコパス雪女よ!」
「誰もそこまでは言ってはないぞ」
丁度いいところで、噂をされていた本人が現れる。しかし、そのシスコンサイコパス雪女の方は、細川の足元に転がる僧侶を見て、
「えっと先輩、これは一体……?」
「見ての通りだ」
「ぶっ倒れてるっすけど」
「ぶっ倒れてるからな」
「何したんすか?」
「用水路に溜まった汚泥を掻き出すように、記憶を奪っただけだ。情報は手に入ったから、その両手に抱えた木偶の坊は捨てて行っていいぞ」
細川は、零火が掴んでいる僧侶を指して言った。滅霊僧侶団の一人だろう。今回は無駄になってしまったが、無事に捕えてきたらしい。
「せっかく拷問用に捕まえてきたのに……」
「全面戦争はまだ先だ」
やらない、とまでは、細川は一言も言わなかった。滅霊僧侶団は、いずれ潰す決断である。




