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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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39/201

第六話-1 異能と冬休み

「ケーキでも作るか」


 唐突にそんなことを言い出したのは、キッチンに立つ細川だ。現在、細川の在籍する菅野台高等学校と、鈴花の在籍する相木田中学校は、ちょうど冬季休業に入ったところだ。


 一二月二五日、世間が浮かれ、色々なものの値段が高騰する日だ。細川はプレゼントには興味がなく、恋人もいない上に、パーティーに参加する友人もいない(とくにこの一年の孤立具合は酷いものだ)。彼としては、日付とイベントを名目に、単にケーキが食べたいだけでしかない。


 細川家の慣習上、クッキーと違ってケーキはあまりほいほいと食べられるものではない。作る時の手間も段違いだ。この日は細川の母、細川裕子も会社を定時で上がってくると言うので、自然と気合いも入ろうというもの。かくして、細川によるケーキ作りが始まった。


 エプロンを着け、魔術魔法の初期技能である銀魔力を使い、魔石機能のキッチンを自在に操る。


 現在細川がいるのは、地上にある細川家ではない。仮想空間に建てられた、一件の屋敷の中だ。元々はラザムが休息を取ったり、一一月末のこたつ事件以後魔道具の研究にはまった細川や、魔法陣の研究が好きなラザムが、自由に研究を行える場所を求めて設置された一軒家だった。それがいつの間にか細川の暇つぶしや無計画な増設を経て、結局今の屋敷と呼べる大きさにまでなり、魔法店や精霊病院に隣接するようになっていた。


 一二月半ばには一度増築も落ち着いたかに思えたが、その後細川が幽灘(ゆな)(霊体の柚那として区別するために細川が与えた名だ)を拾ってきたため、本格的な住環境が早急(さっきゅう)に必要になり、さらに改築が行われた。その結果、適当に休めれば御の字程度だった屋敷の環境は、ものの五日程度で見違えるように人が住む環境に様変わりした。


 前述の通り、半ばは細川の暇つぶしも兼ねた作業だったので、部屋数は無駄に多く、三二。まともに考えれば使いきれるわけがない。細川は魔道具の研究及び実験に五部屋、ラザムは魔法陣の研究及び実験に四部屋を占領しており、幽儺が寝室と勉強部屋と遊び部屋を確保しているが、それでも二〇部屋ほどが余っている。何度か細川やラザムが爆破事故を起こしては修繕を繰り返し、現在は二部屋が使用不可になっているのだが……。


 ケーキ作りは順調だ。時折ラザムや幽儺が、キッチンを覗きに来るのが微笑ましい。彼女たちは、現在キッチンに隣接した広間のテーブルを使い、ボードゲームに興じている。そこには細川の契約精霊であるライや、幽儺の姉である零火(幽儺と同じく雪女の鈴花を区別するために与えられた)も参加している。それなりの人数だが、逆に言うと、参加者はそれしかいない。


(……ところで、ライは狸の姿をしているのに、どうやってゲームに参加しているんだ?)


 疑問に思って覗いてみると、ライはテーブルに座ったままだった。前足を全く動かしていない。風の魔法を使っているようだ。そういえば、ライの得意分野は氷と風だと言っていたはずだ。そうやって駒を動かす様は、小規模で繊細な飛行魔法のようでもある。傍から見ていても、そのような使い方があるのか、とやや新しい発見があって面白い。

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