第五話-5
細川は、柚那との間に契約を結んだ。とはいえ、負担がかかるのは細川だけだ。精霊術師として結ぶ契約は、当事者の心臓を見えない鎖で縛り付ける。慣れれば何も感じないが、交わす瞬間は緊張が強くなる。それを柚那に感じさせたくないと細川が考えた末、彼一人が負担を受けることになり、細心の注意を払った結果、目眩を起こした。
契約は、僧侶集団の手が絶えるまで、または細川自身が死亡するまで、柚那を魔法店で保護するというもの。今は、そうして店に向かう途中だ。
雨も止み、寒空の下を並んで歩く。柚那曰く、僧侶集団は割ととんでもないタイミングで襲いかかってくると言うので、早速契約が反故にならないよう、手を繋いで歩くことになった。──ライをととかげがいれば、大抵の脅威には刃向かえると思うが。
柚那はとかげが気に入ったらしく、右肩に乗せて歩いている。これが実は龍になるんだよと言ったところかなり驚いたのだが、喋る狸のライと比べてどちらが驚かれたかと問われれば、答えは迷うところだ。
しかし、見るほどに柚那は幽霊らしさを捨てている。その最たるものが──、
「見てよ、幽霊が笑ってる」
この表情の豊かさだ。幽霊と聞いて、誰がこんな姿を想像できるのか。とにかく、道のりは順調、平和な散歩だった。──そのときまでは。
「──柚那?」
その声でいち早く敵襲に気づいたのは、柚那の肩に乗っていたとかげだった。それは柚那の肩の上でくるりと後ろを向くと、小さく首を振って無数の氷塊を生成し、SMGのように、高速で射出する。
一拍ほど遅れて振り向いた細川とライが氷塊の描いた軌跡を辿ると、そこにいたのは。
「……やられた。とかげに先制攻撃されるなんて」
氷の盾を生み出して氷の矢を弾き飛ばし、舌打ちした一人の少女だ。銀白色の髪と、氷のような水色の瞳。肌は病的に青白く、身長と体型から見るに、年齢はおそらく、一三、四歳といったところか。
「さらに気温が下がったな。雪女か」
ありえない角度から正体を看破し、細川がコートの襟を立てる。このようなとき、細川の洞察は何故か正確だ。いい所を持っていく、仮に主人公体質とでも名付けておこうか。そして次の瞬間。
いきなり、吹雪が起きた。別に決して全くもって、ふざけているわけではない。
「寒いの苦手なんだよなあ。ライ、焚き火とか出せないか??」
「ボクと契約したのは失敗だったかもね。他の精霊ならともかく、ボクは氷と風しか使えないよ。かまくらなら作れる」
「意味ねえなそれは」
この状況で軽口を叩く。細川とライの意外な欠点が露呈した。ちなみにかまくらというものは、蝋燭の一本でもないと暖を取れないものである。ただあるだけでは不十分なのだ。不完全体もいいところである。
そして肝心の、吹雪を起こした少女の目的だが、彼女は次のように細川に要求した。
「私の妹を、返しなさい」
「妹?」
細川達は、ちらりと隣に立つ柚那を見た。




