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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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33/201

第五話-2

 雨が降り(しき)る中、傘のない細川は、それを意に介したふうでもない。せいぜい視界の悪さに文句を言うだけだ。それというのも。


「結界を変形させて雨をしのいでいるのさ。簡単だし、両手が空くし、傘よりもレインコートよりも確実に雨に当たらない。いいことしかないな」


「そう簡単に出来ることじゃないよー。ユウ、前から思ってたけど魔法適性高すぎ」


「そうか? 煽てても何も出ないぞ?」


「そっか。そりゃ残念」


「……おい、今のはなんだ?」


「ポンチョだね。自転車で向かい風でぱたぱた広がって、エリマキトカゲかな?」


「そんな話はしていない」


 肩に乗ったライを途中から抱き抱えながら、彼らは雨の中を進んでいく。順調に買い物を済ませ、そろそろ帰ろうかというとき。公園のそばを通りかかり、交差点を曲がろうと角から出たところで──結界に、何かが衝突した。


 細川が驚いて前を見ると、そこには尻もちをついて手をさする、一人の少女がいた。


 細川は誰かが走って接近していることには気付いていた。しかしそれでも衝突したというのは、天気のことを抜きにしても、あまりにも不自然だ。


 傘も結界もないのに、雨に濡れた形跡のない服と身体、防寒対策はされた格好。それはこの冬という季節としては、何らおかしなことではない。しかし、この少女には決定的に不自然な点があった。この少女は細川の記憶だとつい最近死亡していることである。


「なぜ、こんなところに……」


 気付けば、疑問の声さえ零れていた。目の前の状況が信じられない。細川は己の目を疑ったが、どう見てもニュース番組で見た少女だった。細川の独り言で人にぶつかったことを知覚したのか、


「あ、ごめんなさい」


 と言って少女がその場を去ろうとする。引き留めようとして細川は手を伸ばしたが、思ったよりも結界の範囲が広かったのか、少女の方から再び衝突して尻餅をついたので、どうやらその必要はなさそうだった。


「ライ」


「うん、なに?」


「幽霊も、結界に触れるものなのか?」


「触れてもおかしくはないんじゃないかな。ボクみたいに実体を持たない精霊でも、結界があったら通り抜けられないから」


 それならこの少女が衝突してきてもおかしくはないか、と細川は考え、少女の身許を確信した。彼女はどうやら、細川のコートから顔を出したライに驚いているらしく、ぽかんとして見上げている。まあ、傘も持たない男にぶつかったかと思えばそれが男の結界で、さらにその男のコートから狸が顔を出すなど、普通想像できるものではない。


 ちなみに精霊はエネルギーの塊であって熱を持つので、こうして密着しているとかなり温かい。人間カイロという言葉があるが、精霊でも代替可能なようだ。


 細川は身許を確信した少女を結界に入れてやると、その正体を口にした。


「君は、つい先週雪山で雪崩に巻き込まれたはずの、平井(ひらい)柚那(ゆな)だね?」

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