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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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32/201

第五話-1 幽霊精霊雪女

 年末は、何かと買い物が多くなり、忙しさを増す時期だ。見なくてはいけないもの、読まなくてはいけないもの、買わなくてはいけないもの(あえて日用品や食品には限らぬ)、行かなくてはならない場所、しなくてはいけないこと──。


 要するに、人と物と金が動きまくる、そんな時期だ。もっとも、動きたがらない者もいるようだが。その筆頭はと言えば、


「細川さん、いつまでそうやって寝ているんです?」


「ラザム、あと五分……」


「その言葉、今日何度目だと思ってます?」


 ラザムに叱られているこの男、細川裕。彼は部活動もなく雨の降る土曜日の、すでに半分を眠って過ごしていた。ただの長期休暇であればここまで言われることもなかったのだろうが、今はまだ、長期休暇でもなければむしろ師走の後半だ。そんなことより、とラザムの説教を払いのけ、細川は無造作に頭の上に手を運ぶ。


「ライ、こいつはなんだ?」


 細川が開いた手の中には、一匹のとかげがいた。死んでいるように微動だにしないが、微かなマナの動きは感じられる。それにより、このとかげが精霊に関係のありそうな生物であることも、一応は想像がついた。


 細川の首にかけられたペンダントから抜け出るように現れたライは、そのとかげを見ると、「本精霊だね」と言い切った。


「本精霊? 本精霊なら、実体を持たずに青く発光するんじゃなかったか?」


「本精霊の中は、その後大精霊に昇格して精霊集落を作ることがあるんだよ。でもこの子はまた別みたいだね。ボクたちにもよく分かってない原理だけど、稀に大精霊にならずに、別の生き物になる個体があるんだ。この子は多分、いずれ龍になるよ」


 納得しづらい話だが、疑ったところでどうしようもない。ラザムも驚いた顔でとかげを見つめているが、とかげの方は、何食わぬ顔で眠っている。何やらとんでもないものと契約したらしいことには気付いたが、だからといって、今すぐにこの精霊をどうにかしようとは、細川は考えない。まあ龍になったらペンダントは通れなくなるだろうからホルーンに帰すことになるだろうが、その程度だ。


 そしてそんな話は挟んだが、結局細川はベッドの上。ここから動く気配は、今のところはない。


「それで、細川さんはいつまで寝てるんですか」


「じゃああと一〇分」


「さっきより延びてるじゃないですか……」


 助けを求めるラザムの視線を受け、ライも協力することにした。


「ユウ」


「なんだ、ライ」


「今日中に買いに行かないと、そろそろお米なくなっちゃうんじゃない?」


「ああ、そいつは問題だなあ……」


 渋々といった体で細川は起き上がり、そのまま浮かび上がると、ようやくベッドから降り立った。朝と呼べるような時間帯は過ぎ、そろそろ昼食の時間である。


 それから細川は朝食だが昼食だか分からない食事を摂り、あたかも幽霊のように無気力に浮遊しながら用意を整え、コートの中にライを入れて外出した。


 ……傘も持たずに。

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