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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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29/201

第四話-8

 ひとまず契約については了承を得たものの、そこから全ての契約を済ませるのに二日かかった。それからさらに、二日後のこと。広大な仮想空間に、一人と一匹の姿があった。


 契約を結んだ後、ライは細川の右肩の上を定位置と定めたらしく、現在もその狭い方の上に乗って豊かな毛並みの尾を細川の首に巻き付けている。細川としては、かなり気持ちがいい。


「それじゃあユウ、精霊術魔法の使い方を復習しようか」


 その定位置に着席したまま、ライが喋り始める。肩の上に乗っていると口から耳までが近くてうるさく思えそうだが、ライの座り方は背中を伸ばした模範的な姿勢なので、これで意外と距離が確保されている。少なくとも、耳元で話されて聴覚に影響が出る、などといった心配は必要なさそうだ。


「使い方は簡単だよ。覚えてる?」


「ああ。まずは使用方向を決め、マナを必要に応じて成形し集める。ここまでは昨日までに何度もやらされた。放課後、本を読む時間もないほどに」


「そこまでできたら、あとは詠唱するだけだね。精霊たちはもう準備できてるよ」


 深呼吸し、伸ばした腕の先に集めたマナの形が乱れないように注意する。そして一言の詠唱。


「──アル・フューレ」


 細川の手元から、鋭利な氷塊が亜音速で射出される。一秒に満たない時間飛行すると、氷塊は前方に接地された氷板を貫いた。なかなかの威力である。


「今の氷塊、どれくらいの質量があるんだ?」


「フューレ一発分が、ちょうど一ソーペルだから……質量だと、四ヘラクルーかな?」


「……知らない単位しかないな」


 恐らくは第二世界空間の単位だろう。第一世界空間在住の細川には全く馴染みがなく、何を言っているのかさっぱり分からない。この場にラザムでもいれば解説を求められたのかもしれないが、生憎現在は、細川のペンダントに触れてしまったため、眠ってしまっている。あと三〇分は動けないだろう。


 これはなにも、細川が大切にしていたペンダントに無断で触れた罰を受けた、という話ではない。ペンダントというのは精霊術師の証のもので、精霊と契約した者全員が持つことになる。精霊集落の地下で産出されるマナ水晶と呼ばれる物質に、特殊な加工を施すことで作成されるペンダントだ。


 これは精霊術師が首から下げている限り、常に精霊集落と繋がっていて精霊たちが行き来できるようになっているものだ。たとえ細川が共和国外にいたとしても、そもそも第二世界空間にいなくとも、精霊たちは自由に精霊集落を出入りできる。


 そのペンダントに施される加工の一つが、ペンダントの盗難及び強奪防止加工だ。それはいいのだが、この加工は精霊と精霊術師以外がペンダントに触れた場合、触れた者に強烈な電流が走り、約一時間ほど気絶するという仕掛けなのだ。


 些かやりすぎのような気もするが、その効果は確かで、ラザムでさえ感電して昏倒している。過去にはこの仕掛けを利用した精霊術師が、ペンダントの仕掛けを知らない敵対者にあえて盗ませることで、難なく敵の捕獲に成功した、などという逸話があるほどだ。


 細川の精霊術魔法習得を祝うかのように、契約した精霊たちが彼を囲んだ。否、実際に祝福しているのだ。契約を結んだ今、細川には精霊たちが何を言いたいのかが分かっている。二三の赤い微精霊、一七の緑の準精霊、そして五五の青い本精霊、それに大精霊のライを加えた九六の精霊が、細川と契約を結んだ。精霊集落の全精霊だ。


 これだけの精霊と契約していれば、各々得意不得意もある。基本的にどの精霊たちも多少の戦闘能力はあるが、生物の治療に適性のある精霊もいる。彼らは魔法店の隣に新たに併設された施設、精霊病院に交代で常駐し、来訪者を癒す役目を与えられた。


 それらを思い返し、ライが細川に言う。


「けど、ユウって魔法適性高いね。精霊術って適応するのに、一週間かかることもあるのに」


 最低でも三日、という呟きまでは、細川の耳には届かなかった。

フューレの質量について、まさかの単位換算を間違えていたことが分かったため修正しました。

「〇・二五ヘラクルー」→「四ヘラクルー」

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