第三話-6
あの腕はどういう理屈で伸縮しているのだろうか。
ただの殴り合いならば細川にも経験はあるが、魔法を使った戦闘はそもそも想定外だった。まともに戦力になりそうな魔術は知らないのだ。ラザムが動ければその辺りも訊くことができたのだが、どうやら力尽きて動かない彼女を無理やり起こすわけにもいかないので、この場は細川が自力でどうにかするしかないのだ。
そのためにも、敵がどうやって動くのかを推測しなければならない。しかし彼は、ルシャルカが言うように新米の魔力使用者である。魔術知識などたかが知れているし、分析などしようもない。銀魔力に比べれば、上位の魔術なのだろう、という、当たり前のことしか想像することができないのだ。
とりあえず、銀魔力だけでは対処しきれないだろう、と考えた細川は、別の魔術を使用することにした。
ルシャルカの腕を押さえ込む銀魔力の鞭は、相当量の魔力を使って密度を上げているにもかかわらず、宙に浮いたままのルシャルカが加えてくる圧力に負け、既に引き裂かれそうになっている。押し切られれば、一瞬の後に細川たちは潰されてしまうだろう。
この場はなにも、堕天使に勝つ必要はないのだ。問題はいかにしてこちら側の被害を押さえ込むかであり、手段を選んでいる場合ではない。言い方を変えれば、押し負けそうだからと言って押し返す必要はない。適当に力を受け流して直に攻撃を受けなければ、それでもかまわない。
とはいえ、これ以上の攻撃を躊躇させる程度の攻撃は加えなければ、このまま前任の魔力使用者たちと同じ末路を辿ることになるだろう。それは避けなければならない。
一度もやったことのない試みであり、いきなり実践で使いたい方法ではないが、一応方法がないわけではない。そもそもこれは、攻撃魔術などではない。言うなれば、スコップで敵を殴るようなものだ。殴られればそれは痛いに違いないが、元々は殴打用の道具ではない。
細川は堕天使の手を掴んでいる銀魔力の先端を変形させ、筒状にすると、その奥で二種類の魔術を組み合わせた魔法陣を組み上げた。ラザム曰く、魔術使用時における魔法陣というものは魔術の発動をしやすくするものなのだが、研究者たちにとっては、新たに考案した魔術魔法を検証するのにも使用されるのだという。
魔法陣は、魔術魔法のエネルギーの流れそのものを表しているもので、これを検証することで、同時に発動させる二つ以上の魔術魔法が互いに影響し合わないか、あるいはどのように影響し合うのか、などの要素をなんとなく推測することができる。
調べてみると、今から使用する魔術魔法はエネルギーの流れが複雑ではないので、干渉は大きくないようだった。これなら同時に使用しても問題はない。細川は銀魔力の筒の底に、大量の魔力を集めて流し込んだ。銀魔力は魔力を伝達しやすい性質があるのだ。
魔力が魔法陣を流れ、二種類の魔術が発動する。筒の先から、高電圧を伴った巨大な火柱が吹きあがった。
こいつ今三つの魔術を同時に操っていることになるんですが、頭の中どうなってるんでしょうね。




