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【改稿版】気まぐれ魔法店  作者: 春井涼(中口徹)
Ⅰ期 伝説の始まり

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第二話-4

「実験器具なんか、俺の家にはないぞ」


「作ればいいんです。お金もかかりませんよ」


「……おい、君は俺が魔法の壺でも持っていて、そこから実験器具が湧き出してくるとでも思っているのか?」


「魔術魔法があるじゃないですか」


「銀魔力でどうにかするのか?」


「確かに銀魔力も使いますが」


 ラザムの言うところは、こうである。第二世界空間ではほとんど知られていないが、天使たちの間では、物質操作魔術の存在が知られている。これは魔法力を用いて、その場にある物質──特に原子の化合や原子核の構造を変更し、全く別の物質をその場に作り出す技術なのだ。例えばラザムが魔法店の壁や床などを作成した魔術がこれで、彼女の場合、大気成分として無尽蔵に存在する窒素原子の構造を変更することで、壁材や床材を生み出したのだという。


「いや待て、仮にそれが可能だとして、どれだけの時間がかかると思っている? 天使の魔術能力がどれだけのものかは知らないが、そんな繊細な作業を実用レベルでそう簡単に習得できると思うのか?」


「本来一ヶ月かかる飛行魔術の習得を、一週間で済ませてしまったのはどなたでしたっけ」


「いやそれは俺だが。だが原子の構造をいじるのは規模が違うぞ、規模が」


「細川さんなら大丈夫です。とりあえずやってみませんか?」


「その自信はどこから来るんだ。どこにそんな確信を持つ要素があったというんだ?」


 ──初級魔術の際にはついに該当しなかったが、今度こそ、地獄の訓練が執り行われた。




 夏休みに入ると──店主と依頼人との高校では開始日が違ったが──、宣言通り、新島は魔法店に現れた。一日目は打ち合わせ、二日目は化学、三日目は生物、四日目、五日目は休みを入れ、六日目に物理実験を予定する。


 予定だけを見ればよくできた流れに見えるだろう。が、実際はそうでもない。とくに店主の側はぼやく頻度が普段の彼と比べても尋常ではなく、


「俺は塾を始めたつもりはないんだが」


 とか、


「なんで俺がこんなことをしなくちゃならんのだ」


 などとぶつくさつぶやき、ラザムを苦笑させている。ついには五日目夜の就寝前、


「うまくいくもんかねえ」


 と余計なことをつぶやいた。


「大丈夫ですよ。あれだけ準備して練習もしたじゃないですか。これだけやってどこに失敗する要素があるんです? 安心してください。終わったら初依頼完了のお祝いをしましょう」


「発言が失敗するフラグでしかないんだがなあ。というか、どうしてそう自信満々なんだ?」


「こういうものはなんだかんだあっても、最終的にうまくいくものと相場は決まってるんです。安心していいですよ」


「失敗フラグもそれを見越したものであると?」


「失敗フラグが何かはよくわかりませんが、あんまり不安視すると本当に失敗しちゃいますよ」


 細川は深くため息をついた。


「わかったわかった。あんまり悲観的にならないようにするよ」


 もっとも、悲観的なのは元からである。計画を立てる時は楽観的に、いざ実行に移すと途端に悲観的になるのが細川の特徴だ。


 あまり他人に易々と気を許して心中へ立ち入らせることをしない彼だが、ラザムのことは既に完全に信頼しており、いくらか気を許している面がある。とはいえ、誰もその点に気づいていないのだが。 


 そうこうしているうち、物理を教える日が来てしまった。最後の最後まで、細川は、「柄じゃない」とぼやき続けたが。

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