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序章 魔術公爵

改稿して読みやすくなりました。よろしくお願いします。

「もし、魔法が使える世界とそうでない世界があると考える者があるならば、それは大きな誤解であり、魔法に一度も触れたことのない者か、あるいは見たことのない者の、著しい勘違いと言うべきであって、それを私は是としない。常識とは必ずしもそれが真実とは限らないものであり、ひいては誤った事実を述べることを、正当化する免罪符たり得るのだ」


 ……以上は、ドイツ出身にして魔術公爵と呼ばれるほどの腕を持つ世界的な手品師、ウィルヘルム・フォン・バウムガルテン(本名ウィルヘルム・アドルフ・バウムガルテン)が、ニューヨークの大手新聞社のインタビューで放ったと知られる台詞である。


 彼はこれまでに、それこそ常識では測れない数多の手品を成功させており、「手品師殺し」などという物騒な名で呼ばれるオーストリアの探偵、フレデリック・ローエルが唯一種を見破れなかった手品師であった。


 フレデリックは、手品の種を破るためならばどんな手でも使った。それこそ探偵として身に着けた、尾行、聞き込み、数々の専門知識に基づく鋭い洞察力、果てには盗聴や盗撮と言った怪しい手段も試したが、それでも、ウィルヘルムの手品の種は割れなかった。


 このままでは手品師殺しの名折れ、何としても種を解き明かしたい──。そう思ったフレデリックは、ついにウィルヘルムの手品のアシスタント、ネリー・ニューキャッスルを誘拐してしまった。


 彼女は白金の長い髪と紺青の瞳が特徴的な美人で、一週間前からネリーに付き(まと)っている疑惑がフレデリックにはあったため、彼ら二人が行方不明になったと知れたとき、ウィルヘルムとフレデリックの関係を知る者からは、「あいつついにやったか」などと言われる始末であった。ここまでくると、もはや狂気的な執念である。


 フレデリックは確かに、「ついにやった」ので、反論の余地はないのだが、彼はアシスタントを連れ去ることで、一つでもウィルヘルムの手品の種が知りたかったのだ。知りたかったのだが、フレデリックがネリーから聞き出せたのは、「知ったところで、あなたには再現できませんよ」という、なんとも役に立たない一言だけであった。


 同日ネリーは無事に帰宅し、その三日後、フレデリックの窒息死体が、イギリスロンドンのテムズ川に浮かんでいるのが発見された。


 どう見ても他殺なのだが、最有力容疑者候補のネリーは、何しろ誘拐の被害者であり、フレデリックを殺害した証拠もなければ、遺体をドイツのカッセルからイギリスのロンドンまで、六六〇キロメートルもの距離を移動させた方法と理由も不明だったので、ネリーが逮捕されることはなかった。


 ウィルヘルムは後に、「種のない手品は見破れないし、証拠のないトリックは解明できず完全犯罪になる」と語っており、彼らはフレデリックの死に何らかの形で関わっていると思われるが、「探偵ローエル殺害事件」の真相は闇に葬られている。




 ウィルヘルムは手品の種を見破られることはなかったが、彼は種を見破れる人物について、ある雑誌の取材で言及したことがあった。フレデリック・ローエルの死から、およそ一ヶ月後のことである。


「私は、私の手品が見破られたことはないが、それが可能な人間(・・)が地球上に四人いることを知っている。恐らく彼らにとってみれば、私の手品などほんの初歩的な技術に過ぎない。もし彼らが巨大な野心を抱いていれば、世界制服をも企て、実行することができるだろう」


 同様に、こうも語っている。


「私は彼らに会ったことはないし、名前も知らないが、私のように表の世界で名を馳せるようなことは、ほぼありえないはずだ」


 それから一年がたったある日、ウィルヘルムが語った四人のうち一人が死亡し、一ヶ月後に新たな一人がその枠を埋めることになった。


 新たに加わる者は日本人の男子高校生で、名を細川(ほそかわ)(ゆう)という。

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