スターマン
「やあ、この星の住人かい? 少しいいかな」
頭に星型のかぶりものをして、全身タイツのような姿にマントがひらひらとついているいかにも怪しい男に声をかけられた。
「僕は星沢星男っていうんだ、人呼んでスターマンって呼ばれている。銀河を救う英雄なんだ! そんな僕の乗っているスターシップの燃料がきれてしまって、燃料をわけてくれないか?」
スターマンと名乗る男は図々しく頼んできた。
「見てわかる通り、この星にはなにもありません。ご覧の通り自然もなければ水もない。飢餓に苦しんでいる我々に、よそ様にお出しできる燃料などありはしないのです。申し訳ございません」
そう告げてその場を去ろうとした僕はその謎の男に腕を掴まれて引き留められた。
「それはちょうどいい。僕はその飢餓を少し解決できるかもしれない」
「それは本当ですか?」
「ああ、本当だとも。だからみんなのいる場所へ連れて行ってくれないか?」
それに、こんなにきれいな黄色の髪の君を放っておけない、スター色に輝いているじゃないか! と謎のほめられ方をした。
僕は少し考えてこの怪しい男をみんなの元へ連れていくことにした。こんな男にも頼らなければいけないぐらい僕たちの飢餓はとてつもないものだった。
道も舗装されていないような道を歩いていくと、そこにはテントが張ってある集落へとたどり着いた。
「限界な集落で飢餓に苦しんでいる人々よ、こんにちは。僕はスターマンだ。君たちを助けにきた!」
きてそうそう高らかに叫んだそいつは明らかに不審な目つきで周りに見られていた。しかしそいつは気にも留めず、マントを翻す。
「さっそくで悪いのだが、いらないものはないか?」
そうして周りをぐるぐると徘徊を始めたスターマンは、今はもう使えなくなった屑鉄を手に取った。
「さあいきますよ! ご覧あそばせ!」
なんだかよくわからない言葉遣いとともに、彼は星型の小さな鉄くずを両手でおにぎりのように包み始める。そしてものの3秒もたたずに握っていた手を離すと、そこには手のひらサイズの星の形をしたものが手いっぱいにあった。
「さあ、どうぞ! ほしたべよ、しみコーン、こんぺいとう、様々な星型のおかしだよ。僕は手に触れた星型のものを、別の星形の”なにか”に変えることができるんだ。今回はお菓子を作ってみたぞ」
そういって1つを摘まみ上げて口に放り込んだ。おいしそうにぼりぼりと食べる様子は、飢餓で苦しんでいる我々にはとても刺さるものだった。
耐えられずに僕は一かけらもらうことにした。たった数秒前まで鉄屑だったそれを口にするのは少し抵抗があったが、それも一口食べるとすぐに忘れてしまった。シャリっという音とともに口の中に広がる久々の味がする食べ物に言葉を失っていた。
「さあ、どうだい? 僕は君たちに害をあたえるつもりはない。だからどうか燃料を補給させてくれはしないかい? そこにある鉄屑もすべて食べ物に変えてあげようじゃないか」
この星の住民たちは、最初こそ恐れていたが、久しぶりにありつけた味のする食べ物を見るや否や、やれ救いの神だのなんだの言って祭り上げた。実際僕も救いのヒーローだと思った。
その晩は、残っていたすべての鉄屑を食べ物にし、お祭り騒ぎをした。この星の住民が、こんなに楽しそうなのは久しぶりの感覚だった。
「いやー、はっはっは。実に気分がいいな、人助けは!」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言えばいいのか」
星の住民のいろんな人たちがお菓子をほおばりながら、次々にお礼を言って回っていた。
「そんなことはいいんだ、燃料をわけてくれないか?」
「救ってもらった以上、お手伝いさせていただきたいのですが、あいにく資源といえるものはほとんどなくなってしまっています。私どもで用意できることでしたら協力したいのですが……」
ああ、それもそうだったな、とスターマンはカラカラと笑っていた。
「でも、大丈夫だ。とても簡単だ。この星の住人の一人を私にくれればいいだけなんだ。私の宇宙船は人が動かしているのさ。ちょっときつい環境だけど大丈夫。寝ずに働ける環境を整えることも私はできるから、問題ない。ただなぜか逃げる人が多くてね。快く仕事を引き受けてもらうためにこうやってヒーローをやっているのさ!」
一瞬間があいて、場は一気に凍り付く。
「私はこんなにも素晴らしい力をもっているのだけれど、いかんせん怖がる人が多くてね。こんなにも快く受け入れてくれたのはこの星が初めてだよ」
「それってつまり……」
住民の誰かが声をあげる。
「誰か一人を差し出さなければいけない、ということなんでしょうか……?」
「まあそういうことだ。いいだろう別に、一人ぐらい!」
またしてもカラカラと笑う。最初からこの男はおかしかったが、ここまでやばいとは思っていなかった。
しかし、恩義を受けた以上、答えないわけにはいかない。
「少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか……なるべく早くに決めますので……」
そうして誰を地獄の24時間強制労働へ向かわせるかの会議が始まってしまった。最初こそ誰がいけだのどうだこうだともめていたが、この星の住民であるリーダーが会議をしきり、やはりどうしても受けられないから断ろうということになった。
結局それが決まったのは次の日の朝だった。
「申し訳ございません。やはりこの星の誰かを犠牲にすることはできません」
代表からそう告げられた時、スターマンと名乗ったそいつは、目を点にして驚いた。
「ええ、もう飢餓に苦しむことはないんだよ? 一人だよ一人、ダメなの!?」
「はい……こう見えても我々は長い期間ともに苦しんできた家族ですから……」
代表はそう答えた。でも、俺はそんなに長い期間一緒に過ごしてきたっけ? とも考えたが、多分俺が知らないだけでそうだったのだろう。
「そうかあ、なら仕方ないな」
そう言って納得してくれたと思った瞬間、彼は地面に手を当てた。
「どうかしましたか?」
「いやなに」
そういってスターマンは、指を鳴らした。
「ちょっと力を使うだけさ」
大きな地響きがなり始め、地面がドンドン崩れていった。そしてその一方で、僕の体はドンドン大きくなっていった。
ダメだ、もうはちきれる___その瞬間ぷつりと思考が切れたような感じがした。
「やあ、この星の住人かい? 少しいいかな」
頭に星型のかぶりものをして、全身タイツのような姿にマントがひらひらとついているいかにも怪しい男に声をかけられた。
「僕は星沢星男っていうんだ、人呼んでスターマンって呼ばれている。銀河を救う英雄なんだ! そんな僕の乗っているスターシップの燃料がきれてしまって、燃料をわけてくれないか?」
スターマンと名乗る男は変わった風貌だったが、特になにか悪い印象は受けなかった。
「見てわかる通り、この星には自然も水も、燃料だってたくさんあります。好きなようにもっていってくれてかまいませんよ」
私はそう言って、にこやかに微笑む。
「この星に来客なんて珍しいですね、歓迎いたしますので、私たちの街へご案内いたしますね」
そういって私は舗装された道路の道を歩きながら、スターマンと名乗る男を案内する。
「そういえば、その手にもっていらっしゃる星型のスナックのようなものはなんなのですか?」
ああ、これかい、とスターマンさんは親指と人差し指でつまんで見せてくれる。
「いやなに、ただの星型のお菓子だよ」
そう言ってひょいっと投げてパクリと食べてしまった。やっぱり少し変わった人なのは間違いないようだ。
「うん、次の星はうまくできたようだな」
「はい? なにか言いましたか?」
スターマンさんが独り言をいったようだったが、私にはよくわからなかった。
今日も私たちのこのきれいな黄色の星は、平和に流れるのだろう。