表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/107

80. 時々、合流





 「にゃあ!」


 「今日もいっぱい採れたね、みんなお疲れ様」


今日も今日とて、ファスとパクたちは薬草、山菜採りに精を出す。朝から頑張った成果は、目の前のカゴでよく分かった。パクたちは満足気に胸を張る。


 「少し、急ごうか。あ、ありがとうダイチ」


 「ぶにゃ」


先程までは青空も見えていたが、今はどんよりしていて降ってきそうだ。手分けしてカゴを持つと、全員急ぎ足で巣へ向かう。ぽつ、と雨粒が落ちてくる頃には、なんとか帰り着きホッと一安心。大事な薬草たちも濡れずに済んだ。

雨脚はどんどん強くなっていく。パクたちの予報では、明日の昼まで降り続くという。ちょっとだけ、肌寒くもなるそうだ。

ファスは薪と食料の確認中。パクたちは採った薬草の下処理だ。


 「にゃんにゃ」


 「なぁう」


しらゆきとはやてで、一つ一つ確認しながら分けると、大きなザルに重ならないよう置いていく。


 「ぶにゃあ、にゃ」


 「にゃむー」


汚れがついたものがあれば、オネムの魔法でキレイに洗い、ダイチが優しく水気を取る。


 「にゃあ、にゃあにゃ」


 「んに、んにゃ」


パクとソラは山菜を取り分け、これの処理はファスと一緒にするので置いておく。

にゃあにゃあと手際良く続け、今日のカゴは空に。できた!と喉をゴロゴロさせていると、ふんわりいい匂いが漂ってきた。お昼ごはんを運んできたファスが、にこりと笑う。


 「みんな、ありがとう。ごはんにしよう」


尻尾をぴんと立て、急いで手を洗いテーブルに着く。焼きたてのパンの上には、昨日の残りの卵サラダを乗っけて、とろりとしたチーズがかけられている。そして、温かい野菜スープといつもの薬草茶。


 「にゃあぁぁぁ……!」


 「卵はこれだけ。パンのおかわりはあるから、言ってね」


全員頷き、目を輝かせていただきます。ファスのごはんは今日もおいしい。

おいしいものは元気が出る。午後も頑張ろう!と、言い合っていたパクたちだが……。


 「………。ふふ、おやすみ」


満腹満足で爆睡するパクたちに、そっと毛布を掛け、ファスは優しく微笑んでいた。









Sランクの機嫌が悪い。

今も仏頂面で、幌馬車から外を眺めている。うららも、そこまでではないが元気が無い。トオヤはいつも通りだ。

遠征が延びに延び、癒し達に会えぬまま数ヶ月。しかも、王都に帰り着く頃は、向こうも薬草群生地に行っているという。会えぬは同じだ。


 「……何の為に王都に行って、何の為に生きればいいんだろうな……」


 「トオヤー。お前んトコのリーダー、なんか哲学的な事言ってるー」


 「放っておいてくれ。人は、深く考察したい時もあるんだ」


 「疲れてんの?疲れてんだな??」


 「兄貴、町見えた!!」


 「元気なお知らせありがとよ弟よ!雨の中の野宿はきっついからなー、部屋あんのかね」


探索兄弟だけではない。同じ馬車が二台程続き、周りには馬に乗っている者らも居る。全員同業者だ。

今回、異常が感知されたとあるダンジョンにて、大規模な間引きが行われた。

数か月前から、ダンジョン内の魔素が増えたり減ったりと安定しない。本来は出ない筈の階層で、高レベルの魔物が出る。と、明らかにおかしい。

大量発生の前触れではないかと懸念したギルマスが、各ギルドに人員要請。そうして募った猛者達が一暴れ。まだ安心はできないが、一先ず落ち着いたので戻ってきた次第である。カイ達は、Sランク故の強制参加だ。

それ自体に文句は言わない。高ランクになれば、それ相応の責任が伴う。ただ、


 「タイミング悪いよ………もふもふもふぅぅぅー…」


うららの一言に尽きる。依頼を終わらせ、やっと帰れるぞ、となった所での強制参加。カイ達は全滅させる勢いで狩った。八つ当たりである。

がたん、と馬車が止まる。町に入ったようだ。荷物を手に、全員で冒険者ギルドへ移動。雨脚は強くなる一方だ。冷たい寒いとやんやと言いながら、ギルド内はあっという間に人で溢れ返る。

タオルを配り回っている受付嬢に礼を言い、トオヤは二人にも手渡す。


 「今回のリーダーはあの兄弟だから、報告は任せるとして。宿を取らないとな」


 「私、お風呂でさっぱりしたい」


ギルド提供の宿もあるが、基本素泊まりなのだ。値段が手頃な分、壁も薄い。

此処に集まっているのは、Cランクから上の同業達。宿を借りる余裕はあるだろう。そうなると、早く動かねば全て満室になる可能性が。


 「あ、あの、よければ私達が取って来ようか?」


振り向けば、数人の女達が。全員、頬を染めカイとトオヤを見ている。

一緒の宿に泊まってあわよくば親睦を深めようという魂胆ですね。とは、うらら。

今回のような大規模討伐でもない限り、Aランク以下の者は二人に近付く機会は無い。合流した時も騒がしかった。当然ながら、こういう時は自ら蚊帳の外に行くうららである。


 「いや、俺らは、」


 「お、居た居たぁ!聞いて喜べお前ら。野郎共ー!ギルマスが、宿をまるっと確保してくれてんだってよ!」


互いの財布を見せ合って、素泊まりを覚悟していたいくつかのパーティが素早く注目する。


 「メシ出る!風呂は、隣で繋がってるから行けるって言ってたぞ!!」


 「あ、但し酒代風呂代は各自な!以上!!」


うおおぉぉぉっ!!兄弟からの知らせに、冒険者達は拳を突き上げる。気の早い者は、宿に向かって走る。兄弟は身軽に階段を下り、カイ達に手を振った。


 「やっぱ二週間そこら、様子見になるってよ。その間の宿代、ギルドから出してくれんだってさぁ!太っ腹だよなぁ、飲もうぜ!ん、お姉さん方も一緒に飲む?」


イエ、結構です。女達は冷めた顔で去って行った。この落差よ。

兄弟はしばらく後姿を見送り、カイとトオヤに振り返った。


 「酷くね?酒おごれや」


 「俺は大盛り食いたい」


 「俺らにたかるな」


 「めちゃくちゃおごってくれたら、お前達にコレをやろう……。ギルマスからのおく、はえーよSランクゥ。間って知ってる?大事なんよ、間って。話の緩急をつけるには絶妙な間が必要でさぁ」


エルドが得意気に掲げたメモを、カイは秒で奪った。ギルマスの配慮らしく、三人の部屋はもう決まっているとの事。


 「三人部屋で充分広いってよ。うららちゃんは、繋がってるけど鍵付き扉あるから安心。因みにその隣は俺らな。なんか、お前の事情承知してるみたいな感じよ?此処のギルマス。なんかあったん?」


 「まぁな……」


カイは何も言わず、中身を確認すると歩き出す。エルドはAランクの二人に視線を遣るが、訳知り顔で頷いていた。知っている者は知っている、宿でのエピソードがあるらしい。


 「何々、教えろよ。話してくれたらおごらんでいいから」


 「カイがソロで動いていた時、宿に女が入り込む事が何度かあったらしい」


 「やっぱおごれや」


ただのモテエピソードかよ。と、興味が失せ、無になったエルドだが。オーベルから距離を取る為、トオヤを盾にしていたうららが首を振る。


 「態々ね、身内だって嘘ついて入ってくるんだって。で、居る時は追い返してたんだけど、」


当然、依頼で出ている時もある。過去、カイに一目惚れした行動力のある女が、留守中に堂々と入り込み、部屋を整え出迎えた事があったらしい。因みに宿屋の関係者ではない。

カイからしたら、面識の無い人間が勝手に部屋を漁り、あちこち触られた上迫られた恐怖体験でしかない。それからは徹底しているとか。


 「私も嫌だよ。怖いよ。最大出力の攻撃魔法放つよ」


 「あー、それは俺も嫌だわ。今まで無いけど。その女はどうしたん?」


さぁ、とAランク二人は揃って首を傾げる。危うく犯罪者になる所だったと、真顔で呟いていたらしいので、生きてはいるのだろう。


 「ただの怖い話だったな。弟よ、覚えておけ。一番恐しいのは、マジギレした美形だ」


 「おう、分かった?」


 「え、そっち?」


兄弟の言動には慣れているトオヤは、相手をする事もなくさっさと移動。思わずツッコんだうららだが、盾にはしっかりついていった。






夕飯も終え、明日の準備をするファス。鞄に、薬を丁寧に入れていく。パクたちも手伝い、瓶が割れないように隙間にタオルを詰める。それから買うものを確認し、お金とメモも入れる。


 「傷薬に、血止めに毒消し。……ポポワタゲはどうしよう、二つ…三つぐらいなら大丈夫かな」


 「にゃー。にゃあにゃ、にぃ」


 「そうだね、二つにしようか。あとは麻痺消し、これぐらいかな」


 「にゃん、にゃーあ?」


薬棚には、まだいっぱいある。もう持っていかないの?と、しらゆきは首を傾げる。


 「うん。此処で売るのは初めてだから、まずはこれだけで行ってみる」


多く持っていくと、初めての場所では必ず疑われてしまうのだ。盗んだものではないかと。

慣れない、初めての場所では緊張してしまうファス。きっとその態度が、不審に思われてしまうのだろう…と本人は考えているが。実際は、安く買い叩こうと目論む者が、幾人か居たりもする。

なので様子見の時は、基本的な薬一式分だけと決めていた。


 「んにー?にゃあ」


 「なぅ、なー」


 「どうだろう…。大きな町だけど、薬師ギルドはあるのかな」


薬草群生地以外にも、薬草が採れる土地はいくつかある。点々と移動していた過去、パクたちが安全と確認した土地には、今もお世話になっている。此処はその中の一つ、来るのは久しぶりだ。

森の近くには、大きな町があった。今以上に人が怖かったファスは、眺めるだけで森から出る事は無いまま。しかし、今回は買い物の為、行ってみる事にしたのだ。

パクたちは心配だが、ファスが頑張ろうとしているのだ、できる手助けはしようと頷き合った。


 「ぶにゃ、ぶにゃにゃ」


 「にゃむ……にゃーむぅ…」


 「そろそろ、寝ようか。ありがとうオネム、手伝ってくれて」


オネムは限界なのか、うつらうつらと舟を漕いでいた。倒れないよう、ダイチが支えている。

みんなでベッドへと潜り込む。外からは雨音。昼間よりは落ち着いてきたようだ。

少し冷えてきたが、パクたちが側に居てくれるので暖かい。


 「にゃあ…」


 「おやすみ…」


すり、と寄ってくるパクたちを優しく撫で、ファスは目を閉じた。

明日、無事に終えられますようにと願いながら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます ダイチかわいいよダイチ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ