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魔猫と人の子 時々、  作者: 原田 和


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閑話 薬師達は、日々戦う




ハードな職場である。薬師ギルドという所は。

なんせ、常に人手不足。例え、今年入ってきたばかりの新人にも、容赦なく仕事は割り振られる。

幸いなのは、上司や先輩達、受付嬢の方々が優しく、割り振る前に説明をしっかりしてくれ、分からないと訊きに行ってもちゃんと教えてくれる、できた人々の集まりである事か。

お前話聞いてんのか考える頭ないんか見て分かんねぇのか忙しいんだよてめぇに割く時間なんてねぇわちゃんと見ろや書いてあんだろ目ぇないんかボケェ云々。

……そんな罵詈雑言があちこちで飛び交っていたならば、薬師ギルドなんて爆ぜてしまえと願っていただろう。実際、薬と名の付くものなら作れる薬師、実行に移せるのだから恐ろしい。

ハードではあるが、メンタルストレスはフリーである。これならば、忙しい先輩方の力になるんだと頑張れる。新人達はメモを片手に、毎日必死に知識を詰め込んでいた。


 「今日は、薬の査定をしてもらうよ。我々だけでは、限界がある。外から売りに来てくれる方は貴重だよ。でもね、扱うのは薬。妥協は駄目だ。それを自分か親兄弟、大切な人に使えるかを意識して。半端な薬を売ったとなれば、信用問題にもなるからね。それだけは何があっても、心に留めていて欲しい」


新人達は真剣に頷く。


 「まずは効能の有無。これは差異が出るから、上級中級下級に選別。差異の程度はファイルに纏めて、此処に置いてある。これは共用だから、使ったら必ず戻しておく事!」


 「はい!それは傷薬や毒消しとかのも載っていますか?!」


 「種類別に書いているよ。分かりにくい箇所があれば言って、修正するから」


新人達は揃ってハッとした顔になる。これ以上は、例え小さな仕事でも増やしてはならない……!と。

これは理解力が試される。

査定の流れを教えてもらい、メモを取り続ける新人達。その姿は頼もしい。ファイルを読み込む目も真剣だ。


 「査定、お願いします」


受付嬢が、薬が入ったカゴを持ってくる。彼女達も査定はできるのだが、それは加工される前の薬草だけなのだ。もう一人が、薬草束を運んでくると、査定済みの札を付ける。


 「こっちは全部毒消しになります、そっちは化膿止め。あと、少量ですがカタカゴ、入ってきました」


 「ありがとう、後で持っていくよ」


 「それと、これは例の……彼の分です」


 「!……そうか…。それはここへ。ありがとう」


新人達は顔を見合わせた。先輩の空気が一瞬、変わったからだ。先輩は無言で、運ばれてきた薬を丁寧に、一本一本確認している。その一挙一動を見逃すまいと、違和感を脇に置いて観察を続けた。


 「はい、オッケーでーす。値段はいつも通りでー」


 「はーい」


 「はやっっ??!」


 「軽くない??!」


査定は秒で終わった。もっとかかる筈なのにと、新人達に動揺が走る。その様子に、先輩薬師は笑った。


 「これは常連さんが売りに来てくれるものでね、ほとんど把握済みなんだよ」


 「な、なるほど……」


 「彼の薬は素晴らしいよ。薬師である僕が、思わず嫉妬を覚えてしまう程にね。毎回毎回、手を入れる必要がないものを作ってくるんだから」


 「あ、あの、その人はお知り合いなんですか?個人経営の薬師さんとか…」


 「……そうか…。君達はまだ、聞いていなかったのか…」


先輩は少し、遠くを見るような目になり、そして新人達を見回した。






…今日も忙しかった。新人達は疲れてはいたが、それは心地よいものであった。職場の環境、大事。

ハードではあるものの、定時には何があっても終えるよう注意されている。過去、薬不足に陥った一件で、薬師ギルド職員全員が身に染みたのだ。やり過ぎると理性を失うと。

薬を求めてやってきた横柄な客に、笑顔で劇薬を渡そうと勝手に体が動いた一人が正気に返り、働き方改革を切に訴えたそうだ。ギルマスが、即行で動いたのは言うまでもない。

そんな事があったと噂で耳にした新人達、変わって良かったと頷き合う。


 「でさ、ホントかな。先輩が言ってたの」


 「試験で満点だったのに、落ちたっていう?魔法が使えなかったから、だよね」


薬師試験は難関だ。優秀な人材を求めているからこその、厳しさ。満点を取る方が難しい。

無事合格できた新人達でさえ、満点は取れていなかった。

大通りに面した酒場。仕事帰りは、此処で夕飯を済ませるのが常だった。店は相変わらず賑やかだ。


 『試合に勝って、勝負で負けたって気分だったな』


そう言った先輩の顔は、清々しいものであった。彼はその年で成績一位で薬師になったが、もしその、落ちた人が魔法も使えていたら。


 「……俺も、先輩と同じ気分になる。その人は薬、よく売りに来てるんだろ?悔しいっていうか……なんか、モヤモヤしないのかな」


 「してたら、あんなスッキリした顔してないと思うよ。大人だよね、その人の実力を認めてるんだもん。それに、実力があるのに…魔法が使えないってだけで落とされるのも、悔しいと思う」


 「うん…。難しさを知ってるから、先輩も気持ちが分かったんじゃないかな。実技の制限時間って……」


 「二時間半。それで全部手作業で作った事になる。しかも、不備がある薬草に毒草を全部見分けて。……私、正直に言ってそこまでできるか自信無い」


ポツリと零した同僚に、全員ためらいながら頷く。


 「魔法、使えると……抽出段階で無効化できるし、実際問題なくできてるし、な」


 「だよね、私もそう。……昔はもっと、細かいとこまで見てた筈なんだけど。なんか、見抜く目が衰えてる気がする……」


何かあってからじゃ遅いのにな、と全員が重い溜息を零す。


 「魔法使って作る方が、確かに効率はいい。いいけど……僕、全部魔法任せにしてないかなって、ちょっと思ったんだけど、みんなは?」


全員、頷く。

沈黙が下りる。しばらくもくもくと食べ続け、ぐいと水を煽った。明日も仕事なので、酒は無しだ。


 「私、今度の休みにフィールドワークしようと思う」


 「僕は、基本から見直そうかな」


 「俺は……悪い、一緒にやらせてくれ」


 「いいよー。朝早いけどいい?」


 「私、安心安全って、断言できるものを作れるようになりたい。だから……ちょっと作業器具一式、調達してくる」


 「今から?!店閉まってるよって、待って待って!みんなで行こう!!外暗いし!」


 「ええ?!ちょ、あ、お金、此処に置いてまーす!ごちそうさまでした!!」


新人薬師達は、触発されたようだ。改めて目標定めた彼らの顔は、明るかった。










 「あいつらはぁ。これじゃ足りないっての……」


 「じゃ、残りはこれで」


多目に渡されたお金に、マスターの目が丸くなる。


 「いいのかい?知り合いか?」


 「いや?けど面白い話が聞けたからさ、その礼も兼ねて」


に、と笑うはSランク冒険者のカイだ。テーブルには、Aランク冒険者のトオヤとうららも居る。

三人共飲んでいたのか、機嫌がいい。

マスターとしては、払ってくれるなら文句はないのだ。ホクホク顔で戻っていった。


 「満点、だったんだー」


 「落ちたとしか聞いてなかったな。まぁ本人も、そこは重要視してなかったようだし」


 「普通はそこなんだけどな。やれる事は全部やって、満足したんだろうな」


意外な場所で、意外な人物の噂を耳にした三人。あの時の行動は、いい意味で薬師達に影響を与えているらしい。


 「……飲むかー」


 「私も!」


 「俺も、もう一杯」


自分事のように嬉しい気分の三人は、この日珍しく深酒になったそうな。








モフモフたちは、当然!とばかりに、ででんと胸を張っていたそうな



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