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73. 


今回は少し短いです。






今日は一段と冷える。外を覗けば、ちらちらと雪が降っていた。

パクとダイチが窓に張り付き、耳を忙しなく動かす。しばらく冷え込む、春はその後だ。そう言っていたパクたち。カイとファスはそれに従い、薪を新たに買い込み、毛布をもう一枚追加。勿論、パクたちの備えも忘れない。簡易ベッドの下に敷き、掛ける為の毛布も準備。


 「どうかな、あったかい?」


 「にゃむ!」


 「んにゃにゃ!」


潜り込んだオネムとソラは、喉を鳴らして丸くなる。気に入ってくれたようだ。

他にやっておくことは、とファスは部屋を見渡す。廊下を渡った先、玄関近くの小部屋を、倉庫代わりに使っている。今日使う食糧分を持ってきておこう。ファスは大きめのカゴを持って小部屋へ。その後を、しらゆきとはやてがついていく。手伝ってくれるようだ。


 「ありがとう。今日は何にしようかな…、食べたいのある?」


 「ななぁ」


 「にーぃ、に」


 「おかゆと、スープだね。あともう一つ…煮物、とか」


ふたりはコクコクと頷き、手分けして食材チェックへ。場所が変わっても、チェックは欠かさない。弱りかけている食材を中心に、カゴへ移していく。しらゆきが卵を見付け、ファスを呼ぶ。


 「にゃん、にーに」


 「……そうだった。これも使っておかないと」


何日か前に、市場で買ってきてくれたものだ。小部屋は寒いくらいの温度だが、早めに使った方がいい。


 「卵料理……。おかゆに入れるには、ちょっと多いし」


悩みながら、小部屋を出る。カゴから取り出し、テーブルに広げているとパクたちが覗き込んできた。何ができるのかと、みんな興味津々だ。

卵は、ボウル一盛りある。とりあえず、お菓子用にといくつか選り分けておいた。作るのは明日だ。


 「そうだ、おかゆは明日でもいいかな?作ってみたいのが……?」


全員が耳を動かし、玄関を見ている。誰か近付いて来ているようだ。足音は、二人分。

来客の予定は聞いていない。ファスは首を傾げつつ、寝室に促した。隠れ終わった丁度その時、戸が叩かれる。


 「居るかい、大家だけど」


 「は、はいっ」


声も気配も、間違い無い。それでも用心の為、細く開ける。目の前には、カゴを持った大家と、もう一人。

ファスは目を丸くした。






…王都へ戻る、カイとうららの足取りは軽い。

この寒波の影響か、寒冷地に住む魔物の動きが変わり、行動範囲を広げたらしい。王都近くでも目撃され、カイ達の出番となった。

結界があるので、入り込まれる心配は無い。けれど放っておいて、巣食われたら厄介であるし、パクたちの巣もある。大事な巣を壊されてしまったら、癒したちがどんなに悲しむ事か。

そんな事は絶対に許されない。魔物共は、早急に速やかに、そして確実に駆逐された。

流石Sランクパーティ最高かよ強すぎるだろ美形眼福勇者よマジカッコイイ瞬殺初めて見た云々……。一応ついて来ていた同業達は、もうやる事がなさ過ぎてガヤに徹した。全力で騒いだ。寒いからだ。

無事に討伐が終わり、カイ達はゆっくり戻る。


 「今日のごはんは何かなー」


家に帰れば、暖かい部屋に温かいごはん、モフモフな癒しが待っている。想像だけでうららはゴキゲンに、雪道をスキップ。転びそうだな、と眺めるはトオヤだ。


 「あ、そうだ。近々、師匠がお邪魔するかもよ」


 「分かった。返り討ちにしてやる」


 「何しに来ると思ってるの?!レオちゃんたち連れてくだけだよ!!」


寒さが本格的になってからというもの、レオたちは巣に籠りがちになってしまった。巣は暖かく保たれているので、薬作りや魔法の勉強、読書等々をにゃいにゃい元気にやっている。しかし、時折外に出ても、やはりすぐに戻ってしまうらしい。

無理を強いてはいけないので様子見していたが、運動不足にならないかと懸念したシド、冬場の様子を見る為に訪ねたいと言っていたという。


 「大魔導も、すっかり世話焼きになっているな」


 「師匠、元々面倒見はいいんだよ。弟子に対して、ちゃんと向き合ってるし。厳しいけど」


厳し過ぎるが故に、音を上げる者も多いそうだ。


 「レオちゃんたちには、優しい方だけどねー。それにいつも、楽しそうに学んでるし……だから師匠も応えてくれるんだよ」


 「……うらら、カイのアパートを教えたのか?」


 「まさかぁ、勝手には言わないよ。だからこうして訊いて、………お?」


首を傾げるうらら。その様子から、大魔導は知っている口ぶりで伝えたのだろう。そして実際、知っている。

一陣の風と共に、Sランクが消えた。

どうやら、同じ考えに至ったようだ。トオヤは溜息一つ、早足で進む。


 「座る場所はあるだろうか…」


 「ど、どうしようトオヤ、町が、王都が壊滅したら……!!」


 「そこまではしないだろう。困るのはファス達だからな」


今頃、アパート内は十一匹のモフモフで溢れている筈だ。






にゃあにゃあにゃいにゃい。

十一匹のモフモフたちは、なるべく静かに、けれど楽しそうに歩き回る。

向こうの巣より広いね、本がたくさん置けるよ、ココなら薬草保存もできるね等々。レオたちは感想を言い合う。此処は広いので、全員入ってものんびりできる。

ファスはお茶とおやつを運んでくると、声を掛けた。椅子が無いので、床に柔らかい敷物を敷いて、小さなテーブルを置き、ちょっとしたお茶会のように用意。喜々と駆けてきたモフモフたち、早速いただきます。

楽しんでいる様子に、ファスはにこりと笑うとシドの元へ。彼は先にくつろいでいた。


 「驚きました、まさかシドさんが来るなんて…」


 「近くまで転移で来たんだけど…初訪問だしね。あの男もうるさいから、歩いてきた。でも此処の大家はしっかりしてるね」


彼女は、シドとファスが本当に知り合いだと確認すると、去って行った。


 「身分証明を見せても、態度を崩さなかったよ。安全面は大丈夫そうだ」


 「はい、とてもいい人です。でも、すごいですね。初めてなのに、転移できるなんて…」


 「元々見回りで、あちこち行ってるから。大体の位置は把握済みだよ」


勿論、レオたちは連れて歩けない。なので此処で、待機していたレオたちを転移させたのだ。君達の気配を探れば、すぐ分かるよ。と、事も無げに口にするが。

この広い王都で、更に人が溢れかえっている中で探るのは、中々骨の要る作業に違いない。疲れも酷いだろうに、それをあっさりとやってのけるのが大魔導シドなのだ。ファスはただただ、感心するばかりである。


 「あ、お茶おかわりしますか?」


 「うん、頼むよ」


一緒に出していたおやつも空になっている。シドは特に何も言わない分、行動で示してくれる。こうして早く無くなったということは、甘いものを欲しているのだろう。ファスは追加のお茶と、ドライフルーツを少し、お皿に入れて持って行った。




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