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魔猫と人の子 時々、  作者: 原田 和


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71. 



のんびり更新ですが、今年もよろしくお願いします








 「にゃーあ…」


パクたちを順番にブラッシングしながら、ファスは微笑む。冬場は、パクたちが冷えてしまってはいけないので、お風呂の回数が減る。なので代わりのブラッシング。これも気持ちいいらしく、パクたちは嫌がらず大人しいものだ。つやつやサラサラになって満足気な、しらゆきとはやてにオネムが暖炉前でころりと転がる。膝に乗って撫でられているパクは、喉をゴロゴロ。平和な風景だ。

家主のカイはお風呂中。押し問答の末、先に入る事になったファスは、片付けも終え後は寝るだけ。しかし、今頃になって気付いてしまった。ベッドが一つだという事実に。


 「…床で寝よう」


 「にゃ?」


 「んにゃ、んにに?」


 「うん、パクたちと寝てもいい?」


それは構わないけど、と、パクたちは首を傾げる。でも果たして、あの男が許すだろうか。

無理矢理引っ張り込まれて終了な場面しか、思い浮かばないパクたちである。


 「あ、」


水音が止まり、戸が開く音。カイが上がったようだ。

ちょっとごめんね、とソラを膝から降ろすと、寝間着を抱えてお風呂場へ。いつものクセなのか、タオルは持っていくが、これは置きっぱなしなのだ。初めての同居時、タオル一枚で現れたのには驚いた。

カイは平気かもしれないが、風邪を心配したファスはいそいそと運ぶようにしている。

……因みにパクたちは、態と持っていかないのだと気付いている。


 「カイ、いいですか?」


 「んー?あ、ありがとな」


ひょいと覗けば、髪を拭いている所だった。相変わらず、無駄のない引き締まった体である。

じろじろ見るのは失礼なので、寝間着をカゴへ置いてファスは廊下を戻る。


 「……」


自身の腕に目を遣った。……比べるまでもない。カイは細く見えるが筋肉はしっかりついている。羨ましい限りだ。結構力仕事もしているつもりなのだが、一向に変化なし。

こういう体質なのかもしれないと諦めたものの、もう少し力があれば、パクたちを楽々運べるのに。そう考えながら溜息を零すファスに、どうしたの?とパクたちが寄り添う。


 「んー……カイが羨ましいなって。俺ももう少し鍛えれば、筋肉つくかなぁ」


 「にゃーにゃ」


 「えっ」


今のままでいいよ。パクたちは力強く頷いた。

鍛えれば、強くなれるかもしれないが……ムキムキのファスはなんか違う。想像できない。コレ、ファスジャナイ……!

六対の目が強く光り、今のままでいいよと更に重ねてくる。


 「えっ?」


パクたちの謎の強い圧に、ファスは動揺しかない。そして、会話を理解したか定かではないが、同意見の者がもう一人。そっと近付き、ファスを背後から抱え込む。


 「っ??!」


 「今のまんまがいいなぁ、俺は。うん。鍛えなくても程よく弾力あるし。触り心地も俺好み」


 「わっ……?!」


 「それに赤くなったファスはあったかい」


ぎゅうと抱き込まれたファスは真っ赤だ。体温も上がっている。

まるで恋人同士のような雰囲気を醸し出しているが、流されてはいけない。この二人はまだ、両想いだと発覚したが伝え合っていない状態。カイは分かっているが、ファスにとってはまだ片思いなのだ。

故に、モフモフガードは発動された。どっすどっすと四方から猫パンチが入り、ファスを解放させる。


 「ふっっしゃあぁぁ!!!」


 「ハイ、コーサンデス」


ぴしりと尻尾で床を叩き、本気の威嚇を見せるパクたちに、カイは早々に白旗を上げた。

ファスは赤いまま、ブラッシングを再開。ダイチを無言で撫でている。パクたちをフォローする余裕も無いらしい。


 「かわいいなぁ」


 「あ、え、やってみます、か?」


うららが普段からかわいいを連呼しているせいだろうか、ダイチに向けられた言葉と思ったのだろう、クシを差し出してくる。カイは首を振った。ダイチの目が胡乱だったので。


 「信用ねーなー…」


 「なー…」


小声で零したつもりだったが、耳が良いパクたちはしっかり拾ったのだろう。低い声で鳴き、ぷいとそっぽ向かれた。

さらっと恋人のように立ち振る舞う男に、信用も何も無い。大事な家族を弄ぶような真似は、絶対に許さん。まるでそう言っているようである。

やはり、手強い。カイは乾いた笑みを浮かべ、髪を拭いた。







 「ファスは俺と寝るの嫌か?」


 「い、いやというか……」


 「こんな冷えてんのに床で寝るとか、そんな嫌われるような事したんなら謝る」


 「ち、違いますっ、カイは何も悪くありませんっ」


 「じゃあいいな?よし、寝よう」


……やはり。パクたちはうとうとしながら、そのやり取りを聞いていた。

ファスの小さな悲鳴に、引っ張り込まれたのだと分かる。一緒に寝てもいいのだが、万が一風邪を引いてしまってはいけない。なのでパクたちは邪魔をせず、眠りを優先する事にした。オネムはもう寝息を立てている。


 「やっぱファスが居るとあったけー…。マジ癒し」


 「あ、の、もう少し、離れてもいい、ですか……」


 「無理、寒い。このままがいい。……嫌か?」


ファスは黙り込んでしまった。恐らく、真っ赤になっているのだろう。ソラの寝息が加わる。

パクは頭を起こし、欠伸を一つ。


 「にゃーあ…」


 「…あ、お、おやすみ」


寄り添う二人の姿を、ちらと確認。パクは目を閉じた。

騒いでは起こしてしまうと思ったか、ファスは諦めたようだ。小声でのやり取りの後、静かになった。

落ち着かず、時折身動いでいたファスだが、疲れもあったか寝息に変わり。それを耳で確認したパクたちも、やれやれと睡魔に身を任せた。


 「……アカン。赤い顔で涙目ってマジ煽ってくるなラスボスめぇ……」


Sランクの呟きも耳にしたが、気にせず丸くなる。なんやかんやで、ファス大事なあの男は無理強いはしないのだ。そこは信用しているパクたちだった。






……盛大な溜息を吐くカイを、見守り組は眺めていた。

期間限定の同居は二度目という事もあり、慣れも早かったらしく、ファスとパクたちは問題無く過ごしているという。今日も、モフモフと共にいってらっしゃいと見送られ、Sランクはすこぶる元気であった。

とはいえ、急ぎの依頼も今は無い。ギルドには一応顔を出すものの、他と同じくやる事は特に無かった。


 「幸せすぎてツライ」


 「ねーねー、そろそろお邪魔していいー?ファスさんのごはん食べたい」


 「何言ってやがる新婚だぞ。遠慮しろや」


 「お前が何を言ってるんだ。相変わらずいい感じにやられているな」


 「勿論、手ぶらじゃないよ。見て!シスターさんからの御礼のお手紙!!」


寄付という形のお裾分けは、大変助かっているそうだ。冬に入る前に渡された薬と茶葉も、今では持ってきたうららに祈る程である。


 「体調崩す子、今回少なかったんだ。それだけでも凄く嬉しい」


 「そうか。渡しとく」


 「うん、私から渡すね。だから行っていい?」


カイもうららも折れない。バチッと謎の火花が飛ぶ。

会話の一部分だけ聞けば、うららがカイに迫っていると見えなくもない。しかし彼女の目的は、癒しのモフモフとおいしいごはんである。ただ家主がカイなので、一応伺っているだけだ。断られても訪ねるつもり満々な姿を、アレクは手を止め眺めていた。

此処は執務室。実は居たアレクはギルマスとしての仕事を全うしていただけなのだが、なんか情報量が多過ぎて停止。

こんな時は、いつでもどこでも冷静なトオヤを頼るに限る。アレクは視線を送った。


 「何から訊きたいんですか」


 「ファスってあのファス君でいいかな?」


野菜の良さを教えてくれた、あのフードの青年である。彼とSランクが知り合いだというのは認識していたが、聞き間違いでなければ、


 「そのファスですね。そしてカイの発言は聞き間違いじゃありません」


 「あー、そうなんだ。分かった把握。これは他所に話したらアカンやつだね?」


 「話したら最期ですね。首と胴体が離れていると思って結構です」


トオヤはいい笑顔だ。アレクはアルカイックスマイルを返した。と同時に、あのSランクが変わった原因を察する。

しかし、それは彼だけではなく、三人全員。トオヤは雰囲気が柔らかくなった、うららは笑顔が更に明るくなったと言われているのだ。


 「ところでトオヤ君、その本は?」


 「これは、ファスに貸す約束をしたので」


あぁ、行くつもりなんだな。

アレクは、いい方向に変わった三人を微笑ましく眺めた。ファスという存在に感謝しながら。



できれば俺も食べたい。そう思いながら……。




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