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閑話 お掃除日和




朝晩は冷えるが、昼間はまだ暖かい日が続いている。そんな秋の日、パクたちは忙しくなるのだ。

本格的な冬になると、暖炉の火は絶やせない。今が、絶好の機会。パクのまんまるの目は、強い意志を宿した。


 「はい、できたよ」


 「にゃ!」


全員、埃除けのタオルを頭に巻き、手作りのハタキを手に臨戦態勢だ。


 「巣の大掃除、がんばろうね」


朗らかなファスの音頭に、にゃおおぉう!と雄叫びを上げた。






普段から掃除はしているが、暖炉や窯、倉庫に寝室のベッド下等は中々やらない。なので一気にやってしまうのだ。

まずは大事な道具や本を外へ運び、簡易テントに纏めておく。掃除は上から下へ、が基本だという。ぱたぱたと天井から、薬草を吊るす梁もしっかり払う。届かない場所は、はやてが風を操り、ハタキを動かす。下ではオネムが小さな水球を作り、あちこち泳がせ埃を捕まえていく。魔法は便利だ。

小さな煙突も、煤を払い掻き出し、できる限り汚れを落とす。窯も同様に。しっかりマスクをして、山となった灰を布で包むと、一時外へ。汚れ落としになるので、捨てずに使うのだ。

壁を磨き、棚を払い、床を磨く。それから倉庫へ向かう。気づいた時に払っているが、空になる時があまりないので、此処も本格的に。

ファスでは届かない奥も、パクとソラがするりと入り、丁寧に拭いていく。不備はないかしっかりチェックし、換気用の小窓も拭いて完了だ。


 「みんなお疲れ様、休憩にしよう」


 「にぃ!」


 「にゃ!」


一区切りついた時にはお昼になっていた。全員テントに集まり、ファスは礼を言いながらパクたちを軽く拭いていく。この後も続くので、本格的に洗うのはそれからだ。

しらゆきは白いので、余計に黒く見えてしまう。本人は気にした様子はないが、ファスは少しだけ丁寧に拭いておいた。手を洗い、お昼ごはんだ。


 「どうかなー…」


暖かい、とはいっても山の中。時折吹く風は冷たいので、焚火でスープを作っておいた。ぱかとフタを開けると、いい感じにできている。お供は、朝に作っておいたおむすび。おいも入りだ。

それも軽く炙って温め、いただきます。パクたちは喉を鳴らしながら食べる。今日もおいしい。


 「んーにゃ?」


 「うん。傷んでる所は直したし…、屋根はどうだった?」


 「ぶにゃ、ぶにゃにゃー」


 「よかった、じゃあ雪が降っても大丈夫そうだね。後はこっちの本をキレイにして、片付けて……最後に洗濯かな」


 「にゃむ!」


あと少し。日暮れ前には終われそうである。

普段からやっているので、全員慣れたもの。テキパキとそれぞれ動いて、巣はすっきりピカピカに。

パクたちは満足感いっぱいに眺めた。

先に洗っておいた毛布もシーツも、乾いてふわふわだ。

けれど、このままでは入れない。パクたちは振り向いた。

そこには大小のタライにお湯を張り、準備をしてくれているファスが。最後の仕上げ、パクたちもすっきりするのだ。いそいそと頭のタオルを外すと、順番に入っていく。


 「お疲れ様、ありがとうね」


 「にゃーあ…」


一日頑張った家族たちを労いながら、丁寧に泡まみれにして洗う。しらゆきとオネムにお湯を頼みながら、全員を洗い上げタオルで巻くと、ファスは満足気に頷いた。

先に火を入れ、暖めておいた巣に運び入れる。疲れたのか、うとうとしているので毛布をそっと掛けておいた。外はもう日暮れ。流石に寒くなってきた。


 「…あともう少し、」


最後は自分。お湯を取り換え、全身を洗う。それが終わると、冷めないよう差し湯をしていたタライへ。半身出たままだが、下だけでも温めておくと違うのだ。

けれど、外。巣の影で見えにくいけれど、外なのは変わりないので、浸かったまま手早く髪を拭き水気を取る。ささっと身体も拭いて、服を身に着けた。


 「もうお風呂は中かな…」


お湯が冷めるのが早くなってきた。流石に風邪を引いてしまう。

手早く洗濯をし、片付けを終え、暖炉の近くに干す。ファスはようやく座ることができた。


 「無事に終わってよかったぁ…」


すっきりキレイになった巣を見回し、眠るパクたちに目を向ける。

最初は一人でやっていた。パクたちが、快適に過ごせるようにと。

首を傾げていたパクたちだったが、いつの間にか手伝ってくれるようになり、今ではすっかりキレイ好きな魔猫に。巣がキレイになるのが嬉しいし楽しい、と喉を鳴らしてくれた。

教えてくれて、ありがとう、とも。

あんなに喜んでくれるとは思ってなかった。手伝ってくれて、お礼を言ってくれるなんて。


 「……あの時、すごく嬉しかったんだよ」


怒られてばかりで、謝ってばかりだった。

お礼を言われたのは、パクたちが初めてで。不器用な自分でも、できる事があると気付けて。一人じゃなくて、みんなでやればいいんだよと、教えてくれた。


 「みんな、ありがとう」


すやすや眠る家族を、優しく撫でていく。

温かくて、優しい家族。ファスは自然と、微笑んだ。


 「……一緒に居てくれて、ありがとう。次の年も、その次も……みんなと、過ごしたい」


大好きだよ。

ゆっくり撫でていると、パクたちがにゃむにゃむと同時に呟く。ゴロゴロと控えめな音も。

一緒だよ。そう返してくれているようで、幸せな気持ちになる。


 「おやすみなさい」


ファスは毛布にくるまり、横になるとそのまま目を閉じた。

次も、いい年でありますようにと願いながら。





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