7. 時々、うらら
まぁ、噂通りなんて流石に思ってなかったけど。
うららはじぃと前を歩く金髪を見る。火のない所に煙は立たぬ、というではないか。
なんとなく男二人の為人は分かってきた。カイもそうだが、トオヤも中々有名だ。
まずは聖魔法という使い手の少ない技を持つ。確か結界術と治癒に特化した魔法だった筈だ。その効果は抜群で、トオヤが操る結界は並の魔物では破れない。治癒はどんな深手を負ってもすぐ治してしまう。
これだけだとトオヤも同じく後衛タイプに思えるが、彼は体術を得意としている。武器に振り回される非力な自分とは大違いだ。
パーティで重宝がられるだろうに、なんでソロなんだろう。
『あぁ、最初は組んでたんだぞ。共に切磋琢磨して成長できればよかったんだが…なんかどんどん俺の能力頼りになってきてな。お前の結界あればいける、とパーティの力量にあってない依頼をバンバン取り始めて。俺にだって限界はある。何度か止めても埒が明かん。終いに身体強化してリーダーに踵落とし入れて抜けた』
なんか苦労してた。
ソロになった時は清々しい気持ちだったらしい。
うららは続けてカイを眺める。
噂は変化する。最近彼について耳にしたのは、『変わった』ということ。
それまではやる気なく、何をするにも億劫そうであったのがどうしたことか。ある日を境に精力的に動き始め、今に至る。
様子を見る限り、依頼は最後までやり通しているし、此方に丸投げすることもない。
それなりに責任感はあるし、やる気もある。
これはもしや、あの推測は当たってるかもしれない。
「ねーカイ、」
「なんだよ今度は」
うんざりした顔を向けられたが、為人を知るには会話が一番近道だ。お陰で最初の警戒心はもう無い。
「恋人いるの?それか、好きな人いるとか」
「は?」
「ただの好奇心。Sランクになったのは惚れた相手のためだって聞いたよ」
「あほか。真に受けるな」
「なんだ。お礼言おうと思ったのに」
今度は怪訝な表情になる。
「その人のお陰でカイが変わったのなら、いい事じゃん。私もトオヤも組める相手ができてさ。でも違うのかぁ」
うららは孤児院仲間で組んでいた。
けれどうららの能力が突出してしまい、バランスが取れなくなり抜ける事に。
その力に見合ったトコに入れてもらえよ、と仲間から励まされたものの。中々出会えなかった。
様々なパーティを転々としたが、嫌な思いも沢山した。
時には命を掛ける稼業だ。信用できない相手に背を預けるなど、出来はしない。
その点では、カイもトオヤも信用できる。お試しパーティ期間は思ったより充実していた。
「うわ」
依頼を終えて戻ってきたら、嫌な場面に遭遇した。
同業者が村人に絡んでいる。胸倉を掴み、怒鳴り、今にも殴りそうだ。ああいうのは一定数居る。絡まれている黒髪の人は抵抗しているが、周りは見るだけで助けようとしない。
見て見ぬふりなぞ出来ないうららは走り出したが、それより早く動く者が。
「え?」
あの金髪はカイだ。
腕を掴んで村人を放し…なんと然程変わらない体格の同業を片手で絞め上げ始めた。ものの数秒だ。
早すぎてうららには見えなかった。
「え、えー?あ、何してんのさ!!」
「大丈夫か?」
「……、」
Sランクに絞められている男は置いといて、残りの仲間であろう二人を睨む。トオヤは咳き込む村人に手を貸していた。
「冒険者は一般の人達に手ぇ出しちゃだめって知らないの?!最低!!」
「う、うるせぇなお前らには関係ないだろ!悪いのはそいつだ!得体の知れないモン売りつけようとしやがって、だから、」
「正直に言った方がいいぞ。見ろ、仲間の顔色」
「…う…、うわぁ…なんだろうあの色……!っっつーかお前らこそ同業の殺しは、」
「安心しろ。何とも形容し難い色だが生きてはいる。多分」
「多分?!」
「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ」
カイの目は据わっている。鋭い眼光を向けられ、男らは青褪め大人しくなる。
「あいつ殴ったの、お前?それともそっちのお前?それともこれ?」
うららは首を傾げ、黒髪の青年を覗き込む。頬が赤くなっていた。青年は少し震えているが大きな怪我はないらしい。薄暗い中よく見えたな、とカイを見上げる。
これ?と片腕でブラブラするは人間なのだが、本当に生きているのだろうか…。
カイは、笑った。目は全然だが。
男たちはガタガタ震え始める。相対しているのがSランクと気付いたのだろう。此処は彼に任せようと、うららはトオヤに促され青年を連れ路地から出た。
トオヤはそのまま青年の耳を塞ぎ、うららは己で塞ぐ。
仄暗い路地から野太い悲鳴が響く。
「夕日がきれいだね」
「そうだな」
「…?」
二人はしばらく現実から目を背けていた。