6. 時々、トオヤ
噂というのはアテにならないものだな。
トオヤはちらと金髪の美丈夫を見遣った。能力は本物のようで、彼は難無く魔物を倒していく。
やる気が無く、いつも依頼は適当。
女好きでいつも侍らせている。恋人が居ようがお構いなしの節操無し。
そのくせ、飽きたら簡単に捨てる。
ランクも実は人任せで実力ではない。
外見良くても中身空っぽ。
……とまぁ、中々ボロクソに噂されているSランクだが。やはり自分の目で見た方がいいと、トオヤは心の中で頷いた。
逃げ出そうとしていた最後の一体を両断すると、カイは息を吐く。
「これで全部か?」
「そうらしい。うらら、大丈夫か?」
「う…うん、平気!」
うららは元気に返事をするが、困惑が見え隠れしている。一番警戒していたのだから無理もない。
三人の急拵えパーティであったものの、上手く連携が取れスムーズに片付けられた。怪我も無く、何よりである。
「よし、後は巣を壊せば終わりだな。うらら頼んだ」
「…分かった」
まだ距離はあるが、うららは素直に頷き杖を巣穴へ向けた。
「なんか拍子抜けしちゃった」
「噂はそういうものだ。話半分に聞いて自分の目で判断する方が賢明だな」
「それは…分かってるけどさ」
無事依頼を果たし、ギルドにて報告中。
全員で行くこともなし、とカイに任せて二人は隅に移動し、行き交う同業者を眺める。相変わらず、騒がしい。
「全部嘘、なんてことないでしょ?実際もててるわけだし」
「異性関係はともかく…実力は本物だな。運だけでSランクにはなれない。況してやソロだ。それはうららも分かってるだろう」
冒険者Sランクは、未だ数人しか居ない最高位。AランクとSランクの間には高い壁があるのだ。
うららは素直に頷いた。
「トオヤは組むの、嫌じゃなかったの?」
「依頼は依頼。割り切らなきゃ稼げないだろう。それに真意を知るいい機会だとしか思わなかったな」
「大人…」
「大人だが?そう言うお前は…聞くまでもないか」
彼女は顔合わせの際、警戒心丸出しで杖を構えたままだった。それで何故組もうと思えたのか。トオヤはそっちの方が不思議でならない。
「だって…私はソロとか無理だもん。だから嫌でも我慢しなきゃって」
「あれで我慢してたのか」
「だからその、悪いことしちゃったのかなって思ってる…」
「気にしてなさそうだからいいんじゃないか?うららが気になるなら謝ればいいし、嘘か真か話してみればいい。どちらにせよ長い付き合いになりそうだしな」
「え、なんで。今回だけでしょ?」
「俺達は全員ソロだぞ。俺もお前も組める相手を探してる。そしてカイは数少ないSランク。お互いの能力を補い合える、丁度いい組み合わせだと考えられての…謂わばお試しパーティ期間だろうな」
「何それ聞いてない!!」
「何騒いでんだ。終わったぞ」
いつの間にやら話題の主が戻ってきていた。
うららはさっとトオヤの背に隠れる。まだ疑いは晴れていないらしい。カイはそれを呆れ顔で眺めていたが…やがて、フッと笑った。
「安心しろ。子供に手ぇ出す趣味はない」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!?」
「何聞いたか知らんが警戒しすぎ。噂ってのはどっかで背びれ尾ひれ胸びれついて原型なくすんだよ。あと妬み嫉み恨みもつく」
「原型木っ端微塵だな」
「私もう成人!十六!!結婚もできんだかんね!!」
「俺は十九」
「お前らどこを主張してる。ついでだから俺は二十五だ」
「誰が年教えてって言ったのさ!!遠慮してた私が馬鹿だった!女とみると見境なく手ぇ出して星の数泣かせてるってほんとですか?!」
「なんで敬語。ねぇよ。あと侍らせたこともねぇからな」
「ほんとですか??!なんで?!」
「お前俺にどうあって欲しいんだよ。まぁコレだろ?何もしなくても向こうから来るんだわ」
「なんか腹立つ」
「うらら、屋内の攻撃魔法はやめろ。カイ、お前が敵多いのはそういう所だと思うぞ」
Sランクは自分の外見が他人にどう映るかを正しく理解していた。
全くわかっていないか、分かっていながら態と謙遜する人間よりかはマシ…かもしれない、多分。
中々いいパーティになるんじゃないの?と、下の騒ぎを眺めながら、仕掛人のギルドマスターは一人満足げに頷いていた。