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52.




パンケーキ、おいしかった。

クリームはぺろりと口元を舐め、お腹をさする。甘過ぎなくてふわふわで、ジャムやシロップと一緒に食べると丁度よくて、果物も乗せてくれて大満足だ。パクたちもお気に入りのおやつらしい。

また、作ってくれるかなぁ。クリームは片付けのお手伝いをしながら、ファスを見上げる。

ファスはスゴイ。おいしいものをたくさん作れる。毎日食べられるパクたちが、ちょっと羨ましいけど、こうして作ってもらえるだけでも嬉しい。


 「ありがとう、はやて、クリーム。御蔭で早く終わったよ」


 「なうっ!」


 「みみっ!」


 「ふふ、また今度、ケーキ作るからね」


 「ににぃっ!」


約束してくれた、嬉しい!はやても楽しみなのか、喉をゴロゴロしている。

夏の間は、パクたちは涼しい所に移動するらしい。薬草がたくさんある場所。でも、教えられないとパクは言った。

きっとそこは、他の魔物の縄張りなのだ。だから、教えられない。『約束』は、絶対。それが分かってるから、レオもそれ以上は訊かなかった。


 「戻ってていいよ、後は詰めるだけだから」


はやては頷いて、先に出た。クリームも続こうとしたが、訊きたい事を思い出し、また戻る。

どうしたの、としゃがんでくれるファスに、クリームは問うた。


 「にに、にゃう…みみっ?」


ファスは首を傾げつつも、頷いた。耳をぴんと立て、クリームは無邪気に話していく。パクたちは全員で話していて気付いていない。本を読むシドは、何か話しているなと思うくらいで、内容までは分からない。分かるのは、ファスだけだ。

そんなファスの顔が……みるみる赤くなる。気付いたクリームが、大丈夫?と気遣う程に。


 「……だ、だい、だいじょうぶ」


 「ににっにっ」


 「う、うん、ホントに、へ、平気。あ、じゅ、準備、準備しなきゃ。うん、ま、まってて、ね」


 「み、みみっ」


ためらいながらもクリームは頷き、みんなの元へ。

それを見送り、ファスは背を向け、何度も深呼吸。


 「……だいじょうぶ…」


…顔が赤いのが、自分でも分かる。混乱しているのも。

クリームはいいコだ、嘘なんてつかないだろう。でも、勘違いをしているかもしれない。

シドに直接訊けば分かるが、流石にそんな勇気は無い。かと言って本人に訊くのは、もっと無理というもの。

とにかく、とファスは顔のほてりが収まるように、丁寧におむすびを詰めていく。

仲良く料理本を見ているのだろう、次はこれがいいとかこれ食べた事あるとか、にゃあにゃあ言い合っている。それを耳に入れながら、ゆっくり落ち着いていくファスだった。






パクたちは毎日三食、しっかり食べているのかといえば、そうではない。

魔素が充分足りている時は食べないのだ。そんな日はファスも、ゆっくり休む。

お客さんが来る日は、ファスはいつも以上に頑張る。ご飯もたくさんだ。なのでパクたちは、お茶だけの時も。ファスは食べてもいいのだけれど、同じようにたくさん食べたからと一緒にお茶を飲む。無理している様子はないので、みんなで楽しんでいる。


 「にーぃ?」


今日は特にお疲れなのか、ぼんやりするファスにしらゆきが心配気に声を掛ける。様子に気付いたはやてとダイチとソラで、寝る準備。早目に休めるようにだ。


 「にぃ、にゃんにゃ」


 「……うん。そうだね、考え過ぎてもダメかも」


何か悩んでいるのか、けれど口にはしない。まだ話せないのかもしれない。パクたちは顔を見合わせ、片付けを終えたファスをベッドへ押し込む。山の朝晩は、まだ冷える時があるのだ。

ちゃんと入ったのを見届け、パクたちもごそごそ潜り込む。これで丁度いい。


 「んにゃ?」


 「まだ、よく分からなくて……俺も、こんがらがって……けど、ちゃんと話すから、聞いてくれる?」


 「にゃあ、にゃーあ」


勿論だ。全員でゴロゴロ喉を鳴らす。それでようやく安心したように笑うと、ファスは目を閉じた。

どうしたのだろう。レオたちが帰る少し前から、様子が変だった。何か思い悩んでいるのだ。

でも、話してくれると言ってくれた。だからパクたちは見守りつつ、待つと決める。無理をするようなら、止められるのは自分たちだ。暗闇の中、六匹は頷き合う。穏やかな寝息に、パクたちは寄り添うと目を閉じた。






え、とレオはクリームを見た。当のクリームはしゅんとしている。

おいしいご飯をいっぱい食べて、大満足のレオたちは巣でまったりとしていた。それぞれで本を読んでいると、ファスを困らせちゃったと、クリームがぽつりと零したのである。

一体、何を。どんなわがままを言ったのか、内容によってはきちんと謝らなくては。レオは少々きつめに問い質した。

しかし…、聞かされたのは思っていたのとは違った。クリームは以前聞いた、師と姉弟子の会話を伝えただけだった。

姉弟子の仲間、カイという凄腕冒険者。彼はレオたちから見ても、ファスが好きなのだというのがよく分かった。そしてファスも、一緒の時は嬉しそうで。クリームはそれを言っただけだ。

『好き』はイイコトだと思っている。好きだから一緒に居るし、パクたちも好き。ファスも、ファスの作るご飯も好きで、師も姉弟子もその仲間の人も好き。

好きがいっぱいなのは、安心で幸せなのだ。


 「にゃいぃ?」


 「みみ、にぃ…」


けれどファスは困った顔で、動揺していたという。その理由はレオもクリームも分からない。ふたりで首を傾げる。

イイコトなのに、何故だろう。


 『あのね、カイって人とファスが、早くコイビト?になればいいのにって、先生とうらら姉が言ってたの。きっと、ファスとカイは好き同士だから、コイビト?になれば好きがいっぱいになって幸せになるんだよ!幸せいっぱいはふくふくで嬉しいの!だからカイとコイビト?になろうよ!』


……と、『恋人』の意味をよく分かっていないクリームが、無邪気に直球をぶん投げたせいだとは流石に分からず。

ふたりにつられて全員で首をかしげる姿を目撃した職員が一人、悶絶した。






カイは大欠伸。そろそろ休まなければと、準備をなんとか終える。

昼と違って、夜は極端に冷える。その寒暖差で体調を崩す者も多い。南都での野宿は、最悪命取りだ。なので、他の国と比べて宿屋は多くあった。

宿の一室にて、最後に予定を確認し明かりを消す。ようやくだ。ようやく討伐を終えられる。ここまで二ヵ月半掛かってしまったが、無理は禁物。対魔だけではない、熱気だけでも体力を奪われるのだ。慎重に動いた方が、結局は早く終わる事もある。

もうすぐ、会える。

そう思うと自然と笑みが浮かぶ。詰めてくれた薬は、充分力になってくれた。礼を言わなくては。

夏の盛りが来る前に、ファスたちは移動する。場所は教えられず、残念ながらついて行く事も駄目らしい。以前のように、巣ごとの移動になるので長期。秋近くまで帰らないというではないか。


 「……やべぇ、ちょっとしか会えねぇ」


此処がもう暑いという事は、じきに王都も夏本番を迎える。様子を見て、移動の準備を始めているのでは。ファスは、パクたちが第一だ。万が一、長引いたとしたら会えずじまいになる。最悪秋まで。


 「……」


なんとしてでも、明日で終わらせなければ。







…カイは実力を遺憾なく発揮した。次々と魔物を駆逐していく姿に、土地の者は盛り上がり、流石Sランク様勇者様と称えていたが。

仲間の二人は理由を察しており、本当に残念なヤツだよと頷き合っていたという。




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