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魔猫と人の子 時々、  作者: 原田 和


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51.





 「群生地に?」


 「はい、毎年そこで夏を過ごしているんです。涼しい所ですから」


魔猫は暑さに強いのか。夏は年々厳しくなっている。対策をしておかなくては、体調を崩してしまうだろう。それを訊くため、レオたちを連れ訪れたシドは腰を下ろす。

場所は、約束で教えられないという。こうと決めたら、梃子でも動かない部分があるファスだ。言わないと決めたら、本当に言わない。


 「残念だけど仕方ないね。魔物には魔物の決まり事があるというし…」


もし出入りできなくなれば、また探さなくてはならない。それで済めばいいが、最悪なのは命を取られる事である。『約束』というのは本来重いものだ。

人の世では軽く扱われがちだが、魔物は違う。そう理解しておかなくてはならない。


 「レオたちの巣も、過ごしやすいように風通りはよくしてあげてください」


冷やし過ぎも良くないという。ある程度暑さに慣れておかないと、すぐにバテてしまうからだ。

その辺は人間と余り変わりないらしい。涼しい場所は自分たちで見付けられるが、影を作るのもいい。目の届く範囲に作れば、安心できる。

頷き、メモをするシドに、本当に優しい人だとファスは微笑む。

魔猫たちは外にて魔法を披露している。修行と勉強の成果は出ているようだ、時折歓声が上がっている。


 「夏の間は会えないのなら、レオたちは落ち込むだろうね。ご飯が食べられない訳だし」


 「作っていくつもりですけど、暑くなると長くは置いておけないですからね…」


日持ちするものを作るが、それでも暑さは容赦なく上回る。魔研には便利な魔道具があるが、無限には入らないし、劣化を止められる訳でもない。

夏が本格的になるまでは、ファスはレオたちも満足するように作り続けるつもりだ。


 「そろそろ、お昼の準備をしますね」


 「あぁ、ありがとう」


来てからずっと魔法を使っているので、そろそろ魔力切れになる。いつもの薬草茶を注いでおいて、下拵えをしていたお昼ご飯に取り掛かる。

今日はハンバーグ。レオが気になった料理だ。シドが持ってきてくれたレシピと食材を使い、初めて作ったモノ。上手くいくといいけど、とファスの目は真剣だ。

温めたフライパンに、成形したハンバーグを乗せ、じっくり焼いていく。その間に、小さな深皿にサラダを盛り、パンとスープを温める。ごはんがいいと言うコも居るかもしれないので、よそっておいた。


 「あとは…」


窯でじっくり焼いた野菜を、お皿に盛り付けソースを準備。トマトをベースに作ったソースは少し濃い甘めの味。ハンバーグを焼いた後に出る旨味と絡め、味を見て整え……、ファスは頷いた。

それをそれぞれのお皿に、たっぷりとかける。これで完成だ。


 「いい匂い。美味しそうだね」


 「レオたち、気に入ってくれるといいんですけど」


最近のレオたちは、休みの時に全員で料理本を囲み、毎回にゃいにゃい話し込んでいた。

それに気付いたシドが問うてみると、ファスのご飯が食べたい、との事。あくまで食べたいのは『ファスの』で、魔研側で用意したものは口にしないのだ。気になる料理がそれぞれあり、絞り込もうと話し合いをしていたが纏まらず、レオたちは困っていた。

いつか来るかもしれないと思っていたシドは、一応聞きに行ってみたが、やはり快い返事。材料は此方で必ず用意するからと強く宣言し、そして今日、記念すべき第一回お食事会となった。

流れでシドも参加しているが、ファスの性格上、レオたちだけとはならないのだ。テーブルにはきちんとシドの分もある。

匂いに気付いたモフモフ達が駆け込んでくる。急いでタライに水を張り、しっかり手を洗うと、いそいそとテーブルへ。全員鼻を動かし、喉を鳴らす。


 「遅くなってごめんね、どうぞ」


 「にゃあ!」


 「にゃい!」


皆の目が輝いているが、心なしかレオがより強く見える。ハンバーグにそっとスプーンを入れ、その柔らかさに、ふわふわの湯気に期待が膨らむ。少し冷まして、ぱくりと一口。


 「…!にゃいぃぃぃぃ……!!」


おいしい、と言われずとも分かるレオの様子に、にゃいにゃいと止まらない様子に、ファスは安堵。シドはそんなにか、とつられて一口。


 「……おいしい。本当に初めて作ったのかい?それに、思ったよりあっさり食べられるし……薬草使ってる?」


 「は、はい。凄いですね、細かく刻んでるし、味も変わらないのに」


ファスが使ったのは、薬にもなるハーブの一種だ。お肉を柔らかく、独特の匂いも緩和してくれるので、干し肉を使う時もいつも入れているという。パクたちは鼻もいいので、匂いでもおいしそうと感じてくれるように、色々と試したそうだ。


 「じゃあ、自力で見付けたのか。流石だね」


料理はシンプルなもの程、難しい。山暮らしという事もあり、制限がついた中で自然と腕が上がったのだろう。シドは感嘆した。


 「前から君のは美味しいと思っていたけれど、食材の旨さを引き出しているからか。そういう塩梅は中々難しいと聞くよ。ファスは感覚が優れているんだね」


 「え、そんな、……あ、ありがとうございます…」


弟子が居れば、驚愕の表情を浮かべていた事だろう。シドは余り人を褒めないのだ。

一生懸命食べながらも、耳を動かし聞いていたパクたちはででんと胸を張った。レオたちもモクモク食べ続ける。サラダもスープも、どんどん皿を空にしていく。ソースも気に入ったようで、残さないようパンにつけて。

おかわりが欲しいのか、まだ残っているシドの皿をロックオンしているコらがちらほら…。


 「これは僕のだよ」


 「少し休んだら、デザートがあるからね。食べられなくなっちゃうよ」


 「みみっっ」


尻尾をぴんと立て、返事をするはクリームだ。デザートはクリーム希望の、ふわふわパンケーキである。お裾分けでは無かったおやつ。パクたちは食べた事があるというので、楽しみなのだ。勿論、目の前のご飯も残さず食べたいが……、パンを食べたので、入りそうにない。全員分、ご飯がちょこんと残っていた。


 「にゃいにゃあ……」


 「大丈夫だよ、多めに作ってたから。これはおむすびにしようか。みんなの分も作るね」


何度も頷くレオたち。明日のご飯があるのは嬉しい。けれど残してしまったのは申し訳ない。


 「ううん。それより、たくさん食べてくれてありがとう」


 「にゃーあ、にゃ?」


 「にゃい!」


ファスは嬉しそうに微笑んで、みんなの口元についたままのソースを拭う。


 「片付けてくるので休んでてください。シドさんもデザート、食べますよね?」


 「そうだね、僕も食べた事ないんだ。是非」


頷き、台所に向かうファス。それに続くように、パクたちが慣れた様子でお皿を運ぶ。それを見たレオたちも手伝い始めた。できる事で、お返しがしたいらしい。そのモフ弟子の姿勢を眺め、シドは思った。

ファスは子育てがうまいな、と。






 「ファスさんのごはんが恋しい…」


南都は年中を通して暖かい。というより、暑い。

うららはヒリヒリする口の中を、果物で休ませる。スープの器はもう空っぽ。

食欲をそそる香辛料の匂いが、店内にも漂う。三人は辛さ控えめをお願いしたのだが、それでも汗ばむ程だ。


 「……」


トオヤはいつにも増して無言。胃の辺りをさすっている。

南都特有の料理たちは、静かにダメージを蓄積させているようだ。

此処は香辛料の特産地。地元で獲れた食材は、たいてい干物や塩漬けにされるのだが、それでも気温に耐えられずダメになってしまう事も。保存に頭を悩ませていた南都の者達を救ったのが、今や多種多様となった香辛料だった。料理にもふんだんに使われ、辛味のなかに旨味もあり、ご飯が進む。


 「……」


カイは無言で完食、トオヤも何とか完食した。うららはゆっくり、完食に向かっている。

進む……味なのだが、それがひと月も続くと、流石に辛い。辛党でも何でもない者には、辛い。他の味を求めても、どの屋台も酒場も大体辛味だ。甘辛いものも見付けはしたが、三人が求める味ではなかった。

ファスの料理が恋しい。

うららの台詞が全てを物語っていた。明日はスープか果物で腹を満たす事になるだろう。

何故、食べるのか。食べ物がそのまま、魔物討伐の燃料になるからである。空腹では動けない。


 「…胃の辺りに治癒が効けばいいんだが」


討伐の方は滞りなく進んでいる。別の所で三人はダメージを受けてしまっているが。

宿に帰り、それぞれの部屋へ。一人一部屋、これはありがたかった。


 「そうだ、……」


カイは荷物を寄せると、薬袋を探る。色々と詰めてくれたが、流石に胃薬はないよなぁ…と、考えつつも、僅かな希望で探り続ける。いくら何でも、料理でダメージを受けるとは思いもしないだろう。

傷薬、毒消し、麻痺除け、目の薬液………、これブレンドしたら胃薬にならねぇかな。

カイの思考があぶねぇ方向に傾きかけた時、手にカサリと当たった。取り出してみると、小瓶に紙が巻き付いている。


 「?こんなの入れてたか……、………!!」


 “南は辛い料理が主だと聞いたので、胃薬も入れておきます。飲み方は…”


ファスからの贈り物であった。にゃあにゃあと仲良く薬を作って喜び合う幻覚が見える…。

外から二人分の荒い足音が聞こえるがどうでもいい、取り敢えず手紙は大事に折り畳む。会えるのはまだ先なのだ。

ノックも無しに戸が開け放たれた。やはりである。二人の手にも、同じ小瓶。


 「聖母がくれたの!!!」


 「ひとさじ飲めばいいってお手軽過ぎやしないか?!もう効いた!!」


トオヤはもう服用したらしい。腹から声が出ている。

それに気付いたうらら、急いで持ってきたスプーンで粉薬を掬う。カイもひとさじ。

じんわりと、ほのかな甘みが喉を通っていくのが分かる。すぐに溶け、水無しでも平気だ。先に溶かして飲んでも、問題ないらしい。


 「この辺ラクになった…!」


 「口がヒリヒリしてたけど、治まってる……!」


 「少しの量でこの効き目…。一日一回、いや三日に一回、か…?」


カイもうららも、薬の効果と聖母たちの優しさに、ひたすら感動。トオヤはいつもの調子を取り戻したか、薬の残量を見て逆算している。顔色が良くなっていた。


 「今日はよく寝られそうだ……」


しみじみと呟くトオヤに、二人は何度も頷いていた。




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