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魔猫と人の子 時々、  作者: 原田 和


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閑話 魔道具の行方


Sランクが居なかった理由。

男達は捕まっていました





…疑似恋愛魔道具、というものを御存知だろうか。

厳しい現実社会と戦う、女性による女性の為の魔道具で、それを使えば文字通り恋愛体験ができるのだ。

当初、その存在は知られ確認もされていたものの、注目はされなかった。使用したとある研究員曰く、存在理由が分からない。

しかしある日、来る日も来る日も研究研究資料漬け、となっていた一人の研究員が、ほんの出来心で起動させた事が発端となり、瞬く間に研究所内に広がった。

体験した者らは語る。

作ったヤツ天才かよ……!と。







 「で、これがその例のブツ。現実世界に疲れたアナタに、愛と癒しを届けます。さぁトラーイ!!!」


 「帰れ」


 「待って待って、俺らだって困ってんだよ。報酬代わりに貰ったはいいけど正直いらんし、持ち主だった村長の娘さん、ずっと血の涙流してたし」


 「何で貰ってきたんだ…」


相手すらしないカイに、冷たい目のトオヤ。そんな二人を物ともせず、エルドは溜息つきつき、正面を陣取った。弟のオーベルはもうメニューを見ている。

報酬を受け取ったついでに、昼でも食べようと店に入った所、しれっと探索兄弟も付いて来ていたのである。因みにうららは、遅れて合流予定だ。

突き返されたばかりの魔道具をテーブルに置いたまま、兄弟は何か腹に入れる迄動く気はないらしい。エルドは疲れた笑みを見せた。


 「娘さんがな、俺らの報酬用にって分けてた金を、くすねてコレに変えてたらしいのよ。どうせ学が無ぇから、多少減っても分かんないと思ったらしいのね?酷くね?俺ら命と体張ってんのにその仕打ち」


 「で、それを奪ってきたと」


 「でもよ、言った通りいらんのよ。金がいいの俺らは。血の涙まで流してるしさ?返してやろうって思ってたのよ、真実を聞くまでは。知ってしまったら……知らなかった頃には、戻れないだろ?」


 「何で最後恰好つけた?」


無駄に決め顔を作るエルドに、ちゃんとツッコむトオヤは恐らく優しい。


 「兄貴がよ、“一式全部寄越せお前の努力を水の泡にしてやんよ”って取り上げたら、すんげぇ奇声上げて襲い掛かってきたんだぜ。すげー女だった」


 「魔物と間違えてアイアンクロー決めてくれたお前もすげーぜ、弟よ」


敢えて止めなかったらしいエルド、なめられた報復は忘れない。完全に確信犯だ。

しかし今回は確かに、娘が悪い。冒険者は慈善活動家ではないのだ。


 「なら、ここに居ねぇでさっさと売ってこいよ」


 「いやそれが、買取不可って言われてさ。魔道具は専門家じゃねーと査定できないんだって。専門家ってどこよ?それ聞きたくてさ」


一応、用件はあったようだ。

扱いを間違えれば、魔道具は凶器ともなりえる。故に、専門知識が無い者には取り扱い許可は下りないという。


 「魔道具を専門に扱う店があっただろう。多分そこだ。そういうのは、うららが詳しいんだが…」


視線を感じ、入口を見ると当人が隠れるように立っていた。手招きされ、仕方なくトオヤは立った。兄弟が居る限り、近付いてこないだろう。彼女は弟の方が苦手なのだ。


 「!!うららちゃ、」


 「店に迷惑だろうが大声出すな弟よ!!!」


 「いやお前がうるせーよ」


何やかんやでちゃんと耳を傾け、ツッコむカイは多分優しい。

二人はその場でやり取りし、うららは店を出ていきトオヤだけが戻ってきた。

口を閉じたままのオーベルに代わり、エルドが口を開く。


 「うららちゃんは?」


 「手伝いがあるから帰るそうだ。ついでに店の場所聞いといたぞ」


疑似恋愛魔道具とやらは、今大人気らしく品薄状態。半年先迄予約が埋まっているそうだ。物の状態が良ければ、いい値段で買い取ってくれるだろう、との事。エルドはにんまりと笑った。


 「いいじゃねーの、ありがとなトオヤ。まさかそこまで人気とはねぇ」


 「試しにやったけど、不審者しか出て来なかったよな、兄貴」


 「そういやそうだな…違うのかもしれねぇ。もしやこれは、対不審者撲滅体験魔道具か!」


 「だから無駄に決め顔作るな。やったのか、二人とも」


曰く、村長の娘がアレなので話が通じず。両親は両親で、家の手伝いもせず部屋に籠ってばかりな上、金をくすねた娘に相当お怒り。当然ながら中身が何なのかは分からず、仕方なしに兄弟は確認の為に起動した。説明書片手に。


 「あれは多分、結界使った一種の仮想空間だと思うんだわー」


景色が作り物と分かり、そう判断したらしい。


 「幻惑魔法に似ているのか?」


 「そんな感じー。でもな、触れるからもっと複雑なんだろうな。作ったの魔研だし。でな、そこにすげー美男子が三人居たんだわ」


その三人は、兄弟に友好的に話し掛けてきた。

時には労り、励まし、優しく抱擁までしてくる。兄弟は確信した。不審者だと。


 「でな、仮想空間に居るってことは、こいつ等も作り物だろうと踏んでだな、俺達の思いの丈を全力でぶつけてやったのよ」


曰く、イケメン爆ぜろ。


 「現実、お前らに爆ぜろって願っても爆ぜねーじゃん?」


 「よし、表出ろ兄弟」


 「いやいやそこは喜べよ。美形だねって褒めてんだからよ畜生」


 「本音出てるぞ」


兄弟は三人の不審者を見事撃破。すると、大きく『破局しました』という文字が浮かび、戻ってこれたという。全てを見ていた両親はポカン。娘は発狂せんばかりに奇声を上げており、また飛び掛かってきたので今度こそ締め落としたとか。

やっと全員の好感度上げられたのに脳筋共余計な真似しやがってふざけんなシネシネまじコロスクソゴリラ時間返せよクソがあぁぁぁぁぁ………云々。

中々失礼な発言と、これ以上年頃娘の醜態を晒すのはよろしくないとの判断である。


 「あいつがゴリラだと思う」


 「それなー。娘さんね、あれは寝てないわ。すげぇクマ作ってたから。ちょい心配だったから、深く眠れるように余計に締めといたよ」


 「つまり、それ程腹が立ったと」


 「うん。全然反省してねぇんだもん」


重ね重ねの娘の奇行に、両親は平謝り。お詫びとして少々のお金も持たせてくれたらしい。

なので、改めてエルドは忠告しておいた。今回はこれで済んだが、冒険者全員がこうではない、と。中には、提示されていた以上の報酬を要求する者も居る。いくら娘があの状態でも、力では到底敵わないだろう。

エルドが言いたい事を察した両親は青くなり、必ず娘に言い聞かすとひたすら頭を下げていたという。


 「失礼極まりないゴリラだったけど、年頃だからさぁ」


むっしゃむっしゃと、運ばれてきた料理を食べながらエルドは言ちる。オーベルは大皿で掻き込んでいた。カイとトオヤは、その様子をただ眺める。その表情は虚無だ。

兄弟は心行くまで食べきると、食後のお茶を満喫。そして徐に立ち上がった。


 「さて、行くか弟よ。これが対不審者撲滅体験魔道具にしろ疑似恋愛魔道具にしろ、調べてもらわなきゃならん」


 「おう」


 「安心しろよ、男前共。金は払う……今じゃないけどな」


 「何処に安心要素がある?」


兄弟は魔道具を小脇に抱え、素早く走り去っていった。さながら食い逃げ犯の姿である。


 「あいつら、いつもあんな感じか」


 「全くブレない」


後日……、Sランクに手合わせを強要され、逃げ回る兄弟を多くの同業が目撃したという。







 「買取ですね。おぉ……、これは。状態を確認するので少々お待ち下さい」


魔道具専門店。

王都広しといえど、認可された店は少なく数件あるのみ。此処は貴族も利用するらしく、店内は綺麗にされているし、飾られた魔道具も手入れが行き届いている。決して、下町の中古品店のような、古ぼけた匂いはしない。

場違い感を覚えながらも、物珍しさも手伝って見て回っていたエルドだったが、やはりどれもこれも高い。万が一にも壊してしまってはマズい。手を伸ばそうとしていたオーベルを止めた。客もちらほらと居るが、身形がいい。

気のせいか、御婦人の方々が此方を見ている…正確には、店主が確認中の魔道具を。その目は獲物を狙うハンターのよう。

そんなに?とエルドは一歩どころか五、六歩引いた目で魔道具を眺めた。

兄弟には、面白さが分からなかったのである。まぁ彼等にとっては『不審な』男しか出てこなかったので、無理はない。


 「なぁ主人さんよぉ、なんでソレ人気なの?」


 「何故、と問われましてもはっきりとは言えませんね。ただ、世の中何が人気になるのかは、予測はつきませんから。人気があるからと言って、全てが万人受けするものでもないのでしょう」


 「そりゃそうだな。否定するつもりはねーけど、俺には分かんねぇや」


 「無理せずとも、あるがままを受け入れればよろしいかと。とはいえ、私共はお客様をお待たせするのは心苦しいので、中古品であってもありがたいですね」


どの仕事であろうとも、苦労はつきもの。大変だねぇとエルドが呟くと、店主は微笑み返した。

話はしていても、目は真剣だ。矯めつ眇めつ確認し、チェックを入れていく。見る限りでは、どの項目もクリアしているようだ。


 「データは残ったままですかな?」


 「何も触ってないぜ?」


 「では失礼して…。………、…………!こ、これは??!」


店主は驚愕を隠せず、思わず兄弟に強い目力を向けた。


 「隠しキャラが開放されている!!」


 「何て?」


……最後に使ったのは兄弟だった。結果はお分かりだろう。けれど、それが隠しキャラ開放の条件であった。

魔研の製作者達は、『隠しキャラも居るけどどうやったら出てくるかは自力で頑張れ』…という投げっぱなしの説明だけで、ヒントも何も与えてはいなかった。ハマった御婦人達が、躍起になるのを見越してだ。結果は大当たり。しかし、今まで誰一人として開放どころか条件すら掴めていなかった状態。

店内に居た御婦人達が、店主の驚きを聞き逃す筈がない。我先にと早足で店主の元へ………!


 「でも消しますね、ズルをしても楽しくないでしょうから」


店主は公平、且つシビアな人柄であった。データは無情に消された。

バタバタと倒れる音を背中で聞きながら、エルドは最後の項目のクリアを確認。今日は酒盛りだと弟とハイタッチ。

速やかに運ばれていく御婦人方を、店主は優しい笑顔で見送っていた。





店主は鋼のメンタル



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